【妊婦の感染症】「トーチ症候群」 急増する「梅毒」と家族感染が多い「風しん」を専門家が解説

産婦人科医・竹元葉先生に聞く、「妊婦が気を付けたい感染症・トーチ症候群」 #2 梅毒などの感染症と風しん症状・予防について

産婦人科医:竹元 葉

梅毒患者が過去最高を記録しているといいます。梅毒はどのような症状が出るのでしょうか?  写真:アフロ(※写真はイメージです)

妊娠中に初めて感染すると赤ちゃんへのリスクが大きい「トーチ(TORCH)症候群」。

1回目では「トーチ症候群」についてと、Tの感染症・トキソプラズマ症について産婦人科医の竹元葉先生にお聞きしました。

2回目では、梅毒やB型肝炎などのOのその他の感染症と、Rの風しんについて、症状や予防法を引き続き竹元先生に伺います。

(全3回の2回目。1回目を読む

竹元 葉(たけもと・よう)
2009年順天堂大学医学部卒業、2016年世界保健機関インターンシップ、2017年順天堂大学大学院卒業。同年、はぐくみ母子クリニック勤務を経て、2019年女性のみのスタッフで診療する「sowaka women’s health clinic」を開業。医学博士、日本産科婦人科学会産婦人科専門医、女性のヘルスケアアドバイザー、ガスケアプローチ認定アドバイザー、妊産婦食アドバイザー。

2023年は梅毒患者が過去最多

──トーチ(TORCH)症候群の「O」である、その他の感染症(Other infections:)にはどのような感染症が含まれるのでしょうか?

竹元葉先生(以下、竹本先生):その他に該当する感染症は、非常に多くあります。いくつか例示するとすれば、B型肝炎ウイルスやリンゴ病、コクサッキーウイルス、EBウイルス、水痘・帯状疱疹ウイルス、梅毒などが挙げられます。

梅毒は、梅毒トレポネーマという細菌によって引き起こされる感染症で主に性行為によって感染します。2023年は患者が急増。過去最多を更新しました。

──梅毒に感染するとどうなるのですか。

竹元先生:梅毒に感染すると、性器や口の中に小さなしこりができたり、発疹が手のひらや体中に広がることがあります。

発疹は痛みやかゆみがなく、抗菌薬で治療ができますが、治療をしないで放置すると数年~数十年後に心臓や血管、脳などの複数の臓器に病変が生じて死に至ることも。

妊娠中に梅毒に感染すると、ママだけではなく胎盤を通して胎児にも感染します。その結果、早産や死産になったり、生まれた後に神経や骨に異常が起こることがあります。また、生まれてすぐには症状がなくても、何年も遅れてから症状が出ることもあるのです。

梅毒は長らく患者数が少ない時代が続き、2000年代では年間500~900人程度でした(国立感染症研究所)。

ところが2010年以降に増え始め、2022年には約1万3000人と過去最多を記録しています(政府広報オンライン)。とくに男性では20~50代が多く、女性では20代が突出して多くなっていますから注意が必要です。

引用:政府広報オンライン

風疹は難聴や白内障、心臓病、低出生体重を引き起こす

──風しんは、トーチ症候群の中では最も名前が知られている感染症かと思います。改めてどのような病気か教えてください。

竹元先生:風しんとは、風しんウイルスによって起こる感染症です。患者のくしゃみや咳などによって、飛び散ったウイルスを吸い込んだりすることで感染します。潜伏期間は2~3週間で、熱が出たり発疹が出たり、リンパ節が腫れたりなど、風邪のような症状が出ます。

風しんは、大人がかかっても風邪のような症状しか出ませんし、まったく無症状の人もいます。その一方で、妊娠初期に感染すると、胎児に先天異常(先天性風しん症候群)が起こる可能性があります。

先天性風しん症候群になると、難聴や白内障、緑内障、網膜症、先天性の心臓病、低出生体重などのリスクが高くなります。

保育や医療関係は要注意、子どもからの感染も

──風しんの抗体検査についてはどのようになっているのでしょうか。

竹元先生:風しんの抗体を持っているかどうかを調べる抗体価の検査は、妊娠初期に必ず受ける検査です。ただ、この段階で抗体を持っていないことが分かっても、すでに妊娠中ですからワクチンなどを接種することはできません。この場合、マスクなどで飛沫感染を予防するしか手段がなくなってしまいます。

ですから、妊娠を考え始めた段階で、もしもワクチンを接種していなければパートナーや同居の家族などにはワクチンを接種してもらうことをおすすめします。

また、風しんは子どもから感染することも多く、保育関係や医療関係など、風しん感染のリスクが高い仕事をしている人は、必ずワクチンを接種して抗体価を上げておいたほうがいいと思います。

男性の7割が職場感染

──風しんは同居の家族から感染することも多いと聞きました。

竹元先生:実は、男性の風しん患者の約7割が職場感染だというデータがあります。一方で、女性患者の職場感染は35%程度で、同じく35%程度は家庭内感染と言われているのです。さらに家庭内感染の半数弱が夫からの感染だとも言われています。

──つまり、パパが職場で感染して、それを家庭内に持ち込んでママが感染する……ということが多いのですね。

竹元先生:そうですね。ですから、妊娠されている方やご家族がいる患者さんには、風しんの抗体検査の結果、抗体価が低かったとき「ご家族、特にパートナーにワクチンを打ってもらってください」とお伝えしています。パパの職場感染を防ぐことが、ママやこれから誕生する家族を守ることにつながるからです。

特に、1962年(昭和37年)度から1979年(昭和53年)度生まれの男性は、男性に対する公的な予防接種が実施されていなく、そのためこの年代の男性は、抗体を持っていない人が多いとされています。
この世代の男性を対象として、現在(2023年現在)、各自治体が無料で風しんの抗体検査と予防接種を原則無料で実施しています。

自分自身と大切なパートナー、そしてこれから生まれてくる子どもたちを守るためにも、ぜひともこの機会にワクチンを接種してほしいと思います。

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風しんは、トーチ症候群のなかでは唯一、ワクチンで防ぐことができる感染症です。ぜひともお住まいの自治体の制度を確認して、防げる感染症はしっかり防いでいきたいですね。

次回3回目では、サイトメガロウイルスと単純性ヘルペスについて、引き続き竹元先生にお聞きします。

取材・文/横井かずえ

トーチ症候群の連載は全3回
1回目を読む。
3回目を読む。

たけもと よう

竹元 葉

Takemoto Yo
産婦人科医

2009年順天堂大学医学部卒業。2011年順天堂大学産科婦人科学講座入局、2016年世界保健機関インターンシップ、2017年順天堂大学...

よこい かずえ

横井 かずえ

Kazue Yokoi
医療ライター

医薬専門新聞『薬事日報社』で記者として13年間、医療現場や厚生労働省、日本医師会などを取材して歩く。2013年に独立。 現在は、...