我が子は「困った子」? 黒柳徹子さんと「ママ」の関係に学ぶ親子関係に大切な心『窓ぎわのトットちゃん』

令和の今だからこそ学びたい、トットちゃんが愛されるヒミツ #2

高木 香織

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今、「窓ぎわのトットちゃん」が注目を集めています。トットちゃんとは、女優・司会者・執筆業のかたわらでユニセフ親善大使も務めている黒柳徹子(くろやなぎ・てつこ)さんのこと。

1981年に発売された「窓ぎわのトットちゃん」は、世界中で2510万部も読まれる国民的ベストセラーになりました。今年2023年10月には42年ぶりに続編が刊行、12月にはアニメ映画『窓ぎわのトットちゃん』が公開されました。原作以外にも、トットちゃんの魅力を伝える絵本や映画のストーリーブックも、世に送り出されています。

さらに、11月には野間出版文化賞(※)を受賞。出版にまつわるすぐれた表現活動が評価されたことによるものでした。贈呈式で選考委員の脳科学者の茂木健一郎氏さんは、選考の理由をこのように説明しました。

「『窓ぎわのトットちゃん』ほど、多くの子どもを救った本はないのではないか。トモエ学園の小林宗作先生が「君は、ほんとうはいい子なんだよ」とトットちゃんに言いますが、子どもにとって個性を認めて受け入れてもらうことがどれだけ素晴らしいことか。おとぎ話では子どもは苦労したのちに幸せになりますが、脳科学的にいえば、子どもは今日から幸せになってほしい。幸せがスタート地点となって、そこからいろいろなことを学んでいく。そういうことを黒柳さんの本は体現してくれています」

続いて黒柳さんが

「42年前に『窓ぎわのトットちゃん』がベストセラーになったときは、『女だから、タレントだから』と批評されたものでしたが、今回続編を書いた時には『女でいい』という評価でした。時代は変わったなと思いました」

と語り、ユーモアたっぷりのスピーチに会場からあたたかな拍手が送られました。

左から)福澤克雄さん、黒柳徹子さん、藤井聡太さん、芦田愛菜さん

※「第5回 野間出版文化賞」は黒柳徹子さんのほか、女優の芦田愛菜(あしだ・まな)さん、棋士の藤井聡太(ふじい・そうた)さん、テレビディレクターの福澤克雄(ふくざわ・かつお)さんが受賞。

【「第5回 野間出版文化賞」授賞理由と受賞者のプロフィールはこちら

華やかでキュート、とってもすてきで幅広い世代から人気を集めている黒柳さん。でも、子どものころには大人を困らせる(悪気はないんだけど!)事件をたびたび起こしてしまう女の子だったといいます。そんなとき、ママはどうしたのでしょう?

「みんなと同じ」からちょっぴり外れてしまう子への対応のしかたを、ママの言葉から教えてもらいましょう。

「退学のことは、トットちゃんが大きくなるまで言わない」

▲ぬいぐるみが大好きだったという、小学校低学年頃の黒柳徹子さん。夏休みに鎌倉の海で。

小学1年の担任の先生から呼ばれたママは、トットちゃんの授業中の態度についてびっくりする話を聞かされます。

机のフタを100ぺんくらいバタバタと開けたり閉めたりする(昔の学校机は上側が持ち上げられるフタ状で、中に教科書やエンピツを入れる仕組みになっていました)。

自分の席から離れて窓のそばに立ち、チンドン屋(クラリネットや太鼓などで音楽をはやし立ててお店やセールの宣伝をする人たち)を呼び込んで演奏させる。

窓から外を見上げて、巣を作っているツバメに「ねえ、何やってるの?」と話しかける。

図画の時間に、クレヨンで画用紙からはみ出して机にまでゴシゴシ絵を描き、机をダメにしてしまったこと。それからそれから……。

(たしかに、これじゃご迷惑すぎる。ほかの学校を探して、移したほうが、よさそうだ。なんとか、あの子の性格をわかっていただけて、みんなと一緒にやっていくことを教えてくれるような学校に……)

そして、ママがあっちこっち探して見つけたのがトモエ学園でした。退学のことは、いつか大人になったら話そうと思い、

「新しい学校に行ってみない? いい学校だって話よ」

とだけ、ママはトットちゃんに言ったのです。

心の中のどこかにあった疎外感

ママに連れられてトットちゃんがトモエ学園に初めて行った日、校長の小林宗作先生は、「なんでも、先生に話してごらん」といって、トットちゃんのおしゃべりを、お昼になるまで4時間も、身を乗り出して一生懸命に聞いてくれました。安心で、あたたかくて気持ちがいい。(この人となら、ずーっと一緒にいてもいい)とトットちゃんは思いました。

のちのことになりますが、トットちゃんが大きくなって『窓ぎわのトットちゃん』を書き始めたころ、「窓ぎわ族」という言葉が流行していました。サラリーマンが会社のなかでなんとなく疎外されている、もはや第一線ではないという響きがありました。

初めの学校で、チンドン屋さんを待つためにいつも教室の窓ぎわにいたトットちゃんも、他の人たちからちょっと冷たい目で見られているような疎外感を、おぼろげに感じていたのです。ここから本のタイトルがつけられました。

トモエ学園の電車の教室、午後のお散歩、講堂でのテント泊、賞品が野菜の運動会……トモエの自由な校風に、トットちゃんはすぐに慣れました。そして、毎日楽しく学校に通っていたのです。

▲トモエ学園の自由な教育方針のおかげで、トットちゃんはのびのびと過ごすことができた(©黒柳徹子/2023映画「窓ぎわのトットちゃん」製作委員会)

「こういう母に育てられたことが幸せでした」

トットちゃんが20歳を過ぎたある日、ママは、
「あのとき、どうして小学校がかわったか、知ってる?」
と聞きました。そして、
「ほんとうは退学になったのよ」
と軽い感じで言ったのです。

学校を退学になったときに心に決めたとおり、ママはトットちゃんが大人になるまで、退学のことにはふれないで過ごしてきたのでした。

「窓ぎわのトットちゃん」(青い鳥文庫版)のあとがきに、黒柳徹子さんはこう書いています。

*   *   *

もし、あの一年生のとき、
「どうするの? あなた、もう退学になっちゃって! つぎの学校に入ったって、もし、また退学にでもなったら、もう行くところなんか、ありませんからね!!」
もし、こんなふうに母にいわれたとしたら、私は、どんなに、みじめな、オドオドした気持ちで、トモエの門を、あの初めての日に、くぐったことでしょう。そしたら、あの、根の生えた門も、電車の教室も、あんなに、楽しくは見えなかったにちがいありません。こういう母に育てられたことも私は幸せでした。……

*   *   *

▲感受性豊かなトットちゃんの個性にいち早く気がつき、その成長を温かく見守ってきたトットちゃんのママ(©黒柳徹子/2023映画「窓ぎわのトットちゃん」製作委員会)

「小学校を退学」なんて事態になったら、ついつい、怒りに任せて子どもを責めてしまいそうですが……。トットちゃんのママの行動を、心に刻んでおきたいですね。

そして、42年がたち、今年2023年10月には、待ちに待った「続 窓ぎわのトットちゃん」が刊行されました。東北に向かう満員の疎開電車の中で終わった最初の本の続きとして、青森に疎開してから音楽学校を卒業してNHKの専属女優となり、ニューヨークに留学するまでの日々が綴られています。

トットちゃんの青春期でもある続編は、同時にママの奮闘記でもあるのです。戦争に行ったまま帰らない夫を待ちながら、たくましく明るく生き抜いたママ。そのママに育てられたことこそがトットちゃんにとっての幸せだった、とうなずかせてくれる物語です。

また、映画の公開に合わせて『映画 窓ぎわのトットちゃん ストーリーブック』も刊行されています。この記事に登場する美しいイラストがたっぷり入って、トットちゃんのお話の大切な部分がわかりやすく描かれています。トットちゃんとトモエ学園をもっと知りたい!と思ったら、どうぞ手に取ってみてくださいね。

©黒柳徹子/2023映画「窓ぎわのトットちゃん」製作委員会

映画『窓ぎわのトットちゃん』
全国東宝系にて公開中


出 演:大野りりあな 小栗旬 杏 滝沢カレン / 役所広司 他
監督・脚本:八鍬新之介
共同脚本 :鈴木洋介
キャラクターデザイン:金子志津枝
制 作:シンエイ動画
原 作:「窓ぎわのトットちゃん」(黒柳徹子 著/講談社 刊)

映画 窓ぎわのトットちゃん ストーリーブック(黒柳徹子/原作、 八鍬新之介/監督・脚本、鈴木洋介/共同脚本)

「窓ぎわのトットちゃん」について

<新しい学校の門をくぐる前に、トットちゃんのママが、なぜ不安なのかを説明すると、それは、トットちゃんが、小学一年生なのにかかわらず、すでに学校を退学になったからだった。一年生で!!>

女優・ユニセフ親善大使である黒柳徹子さんが自分自身の小学生時代をえがいた『窓ぎわのトットちゃん』。

徹子さんが子ども時代に出会った、小林宗作先生とトモエ学園での思い出をいきいきと描いた本作は、1981年3月に刊行され、たちまちベストセラーとなりました。

現在までの累計発行部数は日本国内で800万部、全世界で2510万部を突破。20以上の言語で翻訳もされ、日本だけでなく世界中の人々の心を捉え、時代も国境も超えたロングセラーとして、今もなお世代を超えて愛され続けています。

小林宗作先生が作ったトモエ学園のユニークな教育と、そこに学ぶ子どもたちの姿を描いた本書は、「こんな学校に通いたい!」「こんな先生と出会いたい!」と、令和のいまも人々のあこがれの気持ちをかきたてます。

あとがきで見る「トットちゃん」のあゆみ

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くろやなぎ てつこ

黒柳 徹子

Tetsuko Kuroyanagi
女優・ユニセフ親善大使

東京・乃木坂に生まれる。父はヴァイオリニスト、NHK交響楽団のコンサートマスター。 トモエ学園から香蘭女学校を経て東京音楽大学声楽科を卒業しNHK放送劇団に入団。NHK専属のテレビ女優第1号として活躍。その後、文学座研究所、ニューヨークのMARY TARCAI(メリー・ターサイ)演劇学校などで学ぶ。 アメリカのテレビ番組、ジョニー・カーソンの『ザ・トゥナイト・ショー』など、多くのアメリカのテレビ番組に出演。また、タイム、ニューズウイーク、ニューヨーク・タイムス、ヘラルド・トリビューン、ピープルなどに日本の代表女性として紹介される。日本で初めてのトーク番組『徹子の部屋』は49年目をむかえる。著作『窓ぎわのトットちゃん』は800万部というベストセラーの日本記録を達成。アメリカ、イギリスなどの英語圏、ドイツ、ロシア、中国語圏、アラビア語圏など、20以上の言語に翻訳される。日本語版の印税で社会福祉法人トット基金を設立。プロの、ろう者の俳優の養成、演劇活動、手話教室などに力を注ぐ。ユニセフ(国連児童基金)親善大使としてアフリカ、アジアなどを訪問。メディアを通して、その現状報告と募金活動などに従事。日本ペンクラブ会員。ちひろ美術館(東京・安曇野)館長。東京フィルハーモニー交響楽団副理事長。日本パンダ保護協会名誉会長など。文化功労者。   (写真/下村一喜)       

東京・乃木坂に生まれる。父はヴァイオリニスト、NHK交響楽団のコンサートマスター。 トモエ学園から香蘭女学校を経て東京音楽大学声楽科を卒業しNHK放送劇団に入団。NHK専属のテレビ女優第1号として活躍。その後、文学座研究所、ニューヨークのMARY TARCAI(メリー・ターサイ)演劇学校などで学ぶ。 アメリカのテレビ番組、ジョニー・カーソンの『ザ・トゥナイト・ショー』など、多くのアメリカのテレビ番組に出演。また、タイム、ニューズウイーク、ニューヨーク・タイムス、ヘラルド・トリビューン、ピープルなどに日本の代表女性として紹介される。日本で初めてのトーク番組『徹子の部屋』は49年目をむかえる。著作『窓ぎわのトットちゃん』は800万部というベストセラーの日本記録を達成。アメリカ、イギリスなどの英語圏、ドイツ、ロシア、中国語圏、アラビア語圏など、20以上の言語に翻訳される。日本語版の印税で社会福祉法人トット基金を設立。プロの、ろう者の俳優の養成、演劇活動、手話教室などに力を注ぐ。ユニセフ(国連児童基金)親善大使としてアフリカ、アジアなどを訪問。メディアを通して、その現状報告と募金活動などに従事。日本ペンクラブ会員。ちひろ美術館(東京・安曇野)館長。東京フィルハーモニー交響楽団副理事長。日本パンダ保護協会名誉会長など。文化功労者。   (写真/下村一喜)       

たかぎ かおり

高木 香織

Kaori Takagi
編集者・文筆業

出版社勤務を経て編集・文筆業。2人の娘を持つ。子育て・児童書・健康・医療の本を多く手掛ける。編集・編集協力に『美智子さま マナーとお言葉の流儀』『子どもの「学習脳」を育てる法則』(ともにこう書房)、『部活やめてもいいですか。』『頭のよい子の家にある「もの」』『モンテッソーリで解決! 子育ての悩みに今すぐ役立つQ&A68』『かみさまのおはなし』『エトワール! バレエ事典』(すべて講談社)など多数。著書に『後期高齢者医療がよくわかる』(リヨン社)、『ママが守る! 家庭の新型インフルエンザ対策』(講談社)がある。

出版社勤務を経て編集・文筆業。2人の娘を持つ。子育て・児童書・健康・医療の本を多く手掛ける。編集・編集協力に『美智子さま マナーとお言葉の流儀』『子どもの「学習脳」を育てる法則』(ともにこう書房)、『部活やめてもいいですか。』『頭のよい子の家にある「もの」』『モンテッソーリで解決! 子育ての悩みに今すぐ役立つQ&A68』『かみさまのおはなし』『エトワール! バレエ事典』(すべて講談社)など多数。著書に『後期高齢者医療がよくわかる』(リヨン社)、『ママが守る! 家庭の新型インフルエンザ対策』(講談社)がある。