小学校を退学…黒柳徹子さんと「小林先生」の関係に学ぶ「大切な3つの心」『窓ぎわのトットちゃん』

令和の今だからこそ学びたい、トットちゃんが愛されるヒミツ #1

高木 香織

▲黒柳徹子さん(絵本 窓ぎわのトットちゃん 出版記念イベントにて(2014年))
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今、「窓ぎわのトットちゃん」が注目を集めています。トットちゃんとは、女優・司会者・執筆業のかたわらでユニセフ親善大使も務めている黒柳徹子さんのこと。

書籍『窓ぎわのトットちゃん』は黒柳徹子さんが自身の少女時代をえがいた作品です。1981年に発売され、世界中で2510万部も読まれる国民的ベストセラーになりました。

今年2023年10月には42年ぶりに続編が刊行、12月にはアニメ映画『窓ぎわのトットちゃん』が公開されました。原作本以外にも絵本や映画のストーリーブックも、続々世に送り出されています。

トットちゃんがそれほど多くの人々の心をつかんだのはなぜでしょう? 魅力のヒミツをこっそりお伝えしちゃいます!

トットちゃんの人生を決定したトモエ学園と小林宗作校長

トットちゃんは、小学1年のときに学校を退学になりました。1年生で!! 担任の先生から、ママが「おたくのお嬢さんがいると、クラスじゅうの迷惑になります。よその学校にお連れください!」と言われてしまったのです。ママはどんなに驚いて悲しい気持ちになったことでしょう。

そこでママが探した、トットちゃんにぴったりの学校が「トモエ学園」であり、トットちゃんをあたたかく迎えてくれたのが校長の小林宗作先生でした。

▲小林先生はトットちゃんが通う<トモエ学園>の校長先生。学園内に電車の教室を設置するなど、独自の教育方針を持つ。転校前の学校で「困った子」と言われ馴染めなかったトットちゃんを優しく迎え入れてくれた(©黒柳徹子/2023映画「窓ぎわのトットちゃん」製作委員会)

楽しかったトモエ学園で過ごした日々と、「小林先生という人がいて、どんなに子どもに対して深い愛情を持っていたか、教育にどんな考えを持っていたかを多くの人に伝えたい」というのが黒柳徹子さん(大きくなったトットちゃん)が「窓ぎわのトットちゃん」を書くきっかけだったのです。

学園は戦争のときに燃えてしまって、今はありません。でも、トモエ学園と小林先生の教育は、今こそ改めて見直したいことばかり。そこで、小林先生の教育から「今の時代に大切にしたい3つの心」をご紹介しましょう。

大切にしたい心①「君は、ほんとうは、いい子なんだよ」

元気いっぱいで好奇心旺盛なトットちゃんは、じっと座っていられずに、窓ぎわに立ってチンドン屋(にぎやかな音楽で宣伝をする)を呼び込んだり、ツバメに話しかけたり。他の子どもたちの授業の妨げになって、最初に入学した小学校を退学させられてしまいます。

ところが、ママが見つけた「トモエ学園」に行くと、小林先生はトットちゃんの話がつきるまで、一生懸命聞いてくれたのです。トットちゃんは小林先生といると、安心で、あたたかくて、気持ちがいいと感じました。

トットちゃんは、体にハンデキャップを持っている子にやさしくしたり、ケガをした動物を必死に看病します。そのいっぽうで、めずらしいものや、興味のあることを見つけたときには、自分の好奇心を満たすために、先生たちがびっくりするような事件を起こしてしまうのです。

だから、トットちゃんへの苦情や心配の声が、保護者や先生たちから小林先生のところに来ているにちがいありませんでした。でも、小林先生はいつもトットちゃんに、「君は、ほんとうは、いい子なんだよ」と言い続けてくれたのです。

(©黒柳徹子/2023映画「窓ぎわのトットちゃん」製作委員会)

最初に入った小学校で、トットちゃんは、ほかの子と違ってひとりだけちょっと冷たい目で見られているような、疎外感をおぼろげに感じていました。でも、トモエ学園では小林先生が「君は、ほんとうは、いい子なんだよ」と言い続けてくれたおかげで、

「わたしは、いい子なんだ」

という自信を持つことができました。この言葉は、トットちゃんの一生を決定したかもしれないくらい大切な言葉だったのです。

「ほんとうは」の意味にトットちゃんが気がつくのは、何十年もたってからでした。トットちゃんのような子どもでも、まわりの大人の接し方によって、臆することなく成長できるのです。

そして、黒柳徹子さん(大人になったトットちゃん)は、「もし今でもトモエ学園があったら、登校拒否をする子なんていなくなるだろう」と思うのです。

大切にしたい心②「好きなことを伸ばす」電車教室での授業

ママに連れられてトモエ学園にやってきた日、トットちゃんの目のはしに、夢としか思えないものが見えました。トットちゃんは門の中をのぞいてみました。どうしよう、見えたんだけど!

それは、走っていない、ほんとうの電車が6台、教室用に置かれていたのでした。電車の窓が、朝の光を受けてキラキラと光っています。目を輝かせてのぞいているトットちゃんのほっぺたも光っています。

教室が電車で“かわってる”と思ったトットちゃんでしたが、なによりもかわっていたのは、授業のやりかたでした。1時間目が始まるときに、その日、一日にやる時間割りのぜんぶの科目の問題を、先生が黒板いっぱいに書いて、どれでも好きなのから勉強してよいのです。

▲トモエ学園に授業の時間割はなく、生徒は自分の好きな科目を選び勉強できた(©黒柳徹子/2023映画「窓ぎわのトットちゃん」製作委員会)

カタカナやひらがなを書く子、絵をかく子、本を読んでいる子、体操をしている子もいます。上級生になると、作文を書いている子の後ろで、物理が好きな子はフラスコでブクブクさせているといったこともありました。

これは教師にとっては、上級になるにしたがって、子どもの興味や個性を知ることができる方法です。子どもにとっても、好きな学科からやっていいというのはうれしいことでした。嫌いな学科でも学校が終わる時間までにやればいいのだからなんとかやりくりできるし、わからないことは先生に席に来てもらって、納得するまで教えてもらいます。子どもたちが先生の説明をボンヤリ聞くということはありません。

トットちゃんの同級生のなかから、大人になったときに日本を代表する物理学者になった人もいます。朝、学校に行くと「自分の好きな科目からやっていい」というトモエ方式が、その才能をさらに伸ばしたのかもしれません。

大切にしたい心③「みんな、いっしょだよ」

トモエ学園には、体に障がいを持っている子どもが何人もいました。でも、小林先生は「助けてあげなさい」とは、言いませんでした。いつも、

「みんな、いっしょだよ。いっしょにやるんだよ」

とだけ言うのです。だから、トットちゃんたちは何でもいっしょにやりました。助けてあげると考えたことは一度もありませんでした。

トモエ学園の子どもたちは、校庭にそれぞれ木登りをする「自分専用の木」を決めています。ある日、トットちゃんは小児麻痺で手足の不自由な泰明(やすあき)ちゃんを自分の木に招待しました。トットちゃんと泰明ちゃんは工夫しながら助け合って、木登りに成功します。二人とも汗びっしょり。でも、木の上から初めて見る景色は素晴らしいものでした。

二人は木の上でいろいろな話をします。将来、トットちゃんが活躍することになるテレビジョンというものがアメリカにできた、と教えてもらったのもそのときでした。

世界の人が、みんな小林先生のように「みんないっしょだよ」と思っていれば、戦争もなくなるはずなのに。今、黒柳徹子さん(大人になったトットちゃん)は、悲しく世界で起こっている戦争を見つめています。「続 窓ぎわのトットちゃん」を書き始めたのも、トモエ学園が燃えてしまったあとの、自分の戦争体験を伝えたいと考えたからでした。

映画の公開に合わせて『映画 窓ぎわのトットちゃん ストーリーブック』も刊行されています。この記事に登場する美しいイラストがたっぷり入って、トットちゃんのお話の大切な部分がわかりやすく描かれています。トットちゃんとトモエ学園をもっと知りたい!と思ったら、どうぞ手に取ってみてくださいね。

©黒柳徹子/2023映画「窓ぎわのトットちゃん」製作委員会

映画『窓ぎわのトットちゃん』
全国東宝系にて公開中


出 演:大野りりあな 小栗旬 杏 滝沢カレン / 役所広司 他
監督・脚本:八鍬新之介
共同脚本 :鈴木洋介
キャラクターデザイン:金子志津枝
制 作:シンエイ動画
原 作:「窓ぎわのトットちゃん」(黒柳徹子 著/講談社 刊)

映画 窓ぎわのトットちゃん ストーリーブック(黒柳徹子/原作、 八鍬新之介/監督・脚本、鈴木洋介/共同脚本)

「窓ぎわのトットちゃん」について

<新しい学校の門をくぐる前に、トットちゃんのママが、なぜ不安なのかを説明すると、それは、トットちゃんが、小学一年生なのにかかわらず、すでに学校を退学になったからだった。一年生で!!>

女優・ユニセフ親善大使である黒柳徹子さんが自分自身の小学生時代をえがいた『窓ぎわのトットちゃん』。

徹子さんが子ども時代に出会った、小林宗作先生とトモエ学園での思い出をいきいきと描いた本作は、1981年3月に刊行され、たちまちベストセラーとなりました。

現在までの累計発行部数は日本国内で800万部、全世界で2510万部を突破。20以上の言語で翻訳もされ、日本だけでなく世界中の人々の心を捉え、時代も国境も超えたロングセラーとして、今もなお世代を超えて愛され続けています。

小林宗作先生が作ったトモエ学園のユニークな教育と、そこに学ぶ子どもたちの姿を描いた本書は、「こんな学校に通いたい!」「こんな先生と出会いたい!」と、令和のいまも人々のあこがれの気持ちをかきたてます。

あとがきで見る「トットちゃん」のあゆみ

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くろやなぎ てつこ

黒柳 徹子

Tetsuko Kuroyanagi
女優・ユニセフ親善大使

東京・乃木坂に生まれる。父はヴァイオリニスト、NHK交響楽団のコンサートマスター。 トモエ学園から香蘭女学校を経て東京音楽大学声楽科を卒業しNHK放送劇団に入団。NHK専属のテレビ女優第1号として活躍。その後、文学座研究所、ニューヨークのMARY TARCAI(メリー・ターサイ)演劇学校などで学ぶ。 アメリカのテレビ番組、ジョニー・カーソンの『ザ・トゥナイト・ショー』など、多くのアメリカのテレビ番組に出演。また、タイム、ニューズウイーク、ニューヨーク・タイムス、ヘラルド・トリビューン、ピープルなどに日本の代表女性として紹介される。日本で初めてのトーク番組『徹子の部屋』は49年目をむかえる。著作『窓ぎわのトットちゃん』は800万部というベストセラーの日本記録を達成。アメリカ、イギリスなどの英語圏、ドイツ、ロシア、中国語圏、アラビア語圏など、20以上の言語に翻訳される。日本語版の印税で社会福祉法人トット基金を設立。プロの、ろう者の俳優の養成、演劇活動、手話教室などに力を注ぐ。ユニセフ(国連児童基金)親善大使としてアフリカ、アジアなどを訪問。メディアを通して、その現状報告と募金活動などに従事。日本ペンクラブ会員。ちひろ美術館(東京・安曇野)館長。東京フィルハーモニー交響楽団副理事長。日本パンダ保護協会名誉会長など。文化功労者。   (写真/下村一喜)       

東京・乃木坂に生まれる。父はヴァイオリニスト、NHK交響楽団のコンサートマスター。 トモエ学園から香蘭女学校を経て東京音楽大学声楽科を卒業しNHK放送劇団に入団。NHK専属のテレビ女優第1号として活躍。その後、文学座研究所、ニューヨークのMARY TARCAI(メリー・ターサイ)演劇学校などで学ぶ。 アメリカのテレビ番組、ジョニー・カーソンの『ザ・トゥナイト・ショー』など、多くのアメリカのテレビ番組に出演。また、タイム、ニューズウイーク、ニューヨーク・タイムス、ヘラルド・トリビューン、ピープルなどに日本の代表女性として紹介される。日本で初めてのトーク番組『徹子の部屋』は49年目をむかえる。著作『窓ぎわのトットちゃん』は800万部というベストセラーの日本記録を達成。アメリカ、イギリスなどの英語圏、ドイツ、ロシア、中国語圏、アラビア語圏など、20以上の言語に翻訳される。日本語版の印税で社会福祉法人トット基金を設立。プロの、ろう者の俳優の養成、演劇活動、手話教室などに力を注ぐ。ユニセフ(国連児童基金)親善大使としてアフリカ、アジアなどを訪問。メディアを通して、その現状報告と募金活動などに従事。日本ペンクラブ会員。ちひろ美術館(東京・安曇野)館長。東京フィルハーモニー交響楽団副理事長。日本パンダ保護協会名誉会長など。文化功労者。   (写真/下村一喜)       

たかぎ かおり

高木 香織

Kaori Takagi
編集者・文筆業

出版社勤務を経て編集・文筆業。2人の娘を持つ。子育て・児童書・健康・医療の本を多く手掛ける。編集・編集協力に『美智子さま マナーとお言葉の流儀』『子どもの「学習脳」を育てる法則』(ともにこう書房)、『部活やめてもいいですか。』『頭のよい子の家にある「もの」』『モンテッソーリで解決! 子育ての悩みに今すぐ役立つQ&A68』『かみさまのおはなし』『エトワール! バレエ事典』(すべて講談社)など多数。著書に『後期高齢者医療がよくわかる』(リヨン社)、『ママが守る! 家庭の新型インフルエンザ対策』(講談社)がある。

出版社勤務を経て編集・文筆業。2人の娘を持つ。子育て・児童書・健康・医療の本を多く手掛ける。編集・編集協力に『美智子さま マナーとお言葉の流儀』『子どもの「学習脳」を育てる法則』(ともにこう書房)、『部活やめてもいいですか。』『頭のよい子の家にある「もの」』『モンテッソーリで解決! 子育ての悩みに今すぐ役立つQ&A68』『かみさまのおはなし』『エトワール! バレエ事典』(すべて講談社)など多数。著書に『後期高齢者医療がよくわかる』(リヨン社)、『ママが守る! 家庭の新型インフルエンザ対策』(講談社)がある。