オードリー・タンの「聞く力」が凄い! 「様子見社会」日本に差し込む光とは
(対談)石崎洋司×近藤弥生子
2022.05.11
オードリー・タンの物凄い「聞く力」
近藤:台湾政府で、オードリー・タンさんと一緒に働いている人に取材していると、みんな口をそろえて言うんです。
「オードリーさんの前にも改革しようとして、たくさんの方が乗り込んできたけれど、彼女のように相手を尊重してくれる人はいなかった」って。
石崎: たしかに、おだやかにじっくり話を聞かれますね。
近藤:台湾は日本よりずっと意見がばらばらで、それまで改革しようとしても、すぐに衝突が起こっていたんです。
オードリーさんは、けっしてトップダウンや、説き伏せるようなやり方をしない。
相手を尊重して、話を聞きながら、共通する価値を見つけるのが上手なんです。それで今までできなかったことが、次々できるようになっていく。
そばで見ている公務員たちが、「こんなことができるんだ」と希望を持つんです。それが台湾の改革の原動力になっていますね。
石崎:オードリーさんの手腕でわたしが驚いたのが、2019年のアジアで初となる同性婚の法制化です。
日本と同じように儒教文化のある台湾でこれを実現した。解決策となったのは「同性婚は認めるが、法律上の家族にはしない」でした。
同性婚をする人たちと親類になりたくないという、反対派の気持ちを汲むことで、たがいの合意点を見つけたわけです。
近藤:どうしても譲れないところを聞き取った上で見出した「おおまかな合意」でした。
オードリーさんは、「自分の視点いったんおいて、相手の視点、立場でものごとを見る能力を高めるように鍛錬してきた」と仰っています。
「どうしてそんなにわたしの話を聞けるんですか?」って聞いたことがあります。
というのは、わたしの中国語は本当に遅いんです。彼女は、頭の回転が速くて、もともとは早口の方だし。そうしたら、これは訓練したんだと。
「相手の話をさえぎらないで最後まで聞いてから、自分が何を言うかを考えるように練習した。これは、けっこうたいへんなんだよ」。
この本でも書かれていますが、オードリーさんは14歳のときに、3つに分かれていた自分の心を統合するために、先住民族の暮らす地域にある山小屋にこもった。そこで変わった。
石崎:そのときに先住民族のタイヤル族の考え方に触れて、自分が思い込んでいた「あたりまえ」から自由になれた。
違う考え方を理解することに興味をもったという意味のことを仰っていますね。
離島や山岳地帯に5Gを先に設置するデジタル民主主義
石崎:台湾には、人口こそ2%になってしまっていますが、政府が認定する16民族を含めて30以上の少数民族が暮らしている。
マジョリティーである漢民族も、17世紀以後に渡ってきた本省人と第二次大戦後に渡ってきた外省人では、ずいぶんと意識が違う。
近藤:そうです。多様な意見の集約には、デジタルがとっても役に立つんですね。リアルの会議では、声の大きな人の意見が通ってしまうというのは、よくあることだと思います。時間が取れない人もいる。
でも、デジタルなら人前で話すのが苦手な人でも参加できるし、時間がとれない人も自分の空いている時間で参加することができる。
石崎:デジタルって「0か1」みたいな冷たいイメージがありますよね。けれど台湾で使われているデジタルはまったく違いますね。
例えばvTaiwanは、賛成、反対だけでは集約できない意見の違いを、マッピング化できる。Joinでは16歳の高校生だって提案できて、支持を集めれば法律として実現する。
※注 台湾では、vTaiwanとJoinという、インターネットを通じた政治参加の方法が社会実装されている。vTaiwanは、多様な市民の意見を立法のプロセスに取り入れるプラットフォーム。Joinは、選挙権の有無に関わらず政府に対して意見を提議でき、政府を監督することができる。
石崎:オードリーさんは、「ブロードバンド(インターネットへの高速接続)は人権だ」と仰っていて、山岳地帯などから5Gを設置すると発言されていますが、実際はどうですか?
近藤:わたしが行った国立公園には、政府と通信会社が協業で設置している、携帯電話が通じるスポットが作られていました。ただ、その時の通信は、3Gになってしまっていましたけど。
石崎:東京でも5Gが使えるのは、まだまだ限られたスポットだけのようです。今、できていないとしても繁華街にあるとのは、ぜんぜん意味がちがう。
近藤:5Gが必要なのは、遠隔医療や遠隔教育が必要になる山岳地帯や離島のような地域だから、ということですね。
この考え方は、政治的な立場を超えて台湾の多くの人に支持されています。オードリーさんの声望もどんどん高まっていて、通信会社とも密接に連携しているので、進んでいくと思います。