オードリー・タンの「聞く力」が凄い!  「様子見社会」日本に差し込む光とは

(対談)石崎洋司×近藤弥生子

台湾で起きた意識変化と動きだす日本

石崎:このあたりのことは、近藤さんの新著『まだ誰も見たことのない「未来」の話をしよう』(SB新書)に詳しく書かれていますね。

この本で共通の価値観を築くのには、事実を共有することが大事だとも仰っています。

ざっくり言って、台湾の「オープンガバメント」の情報公開ってってどのくらい進んでいるのでしょう。

近藤:ざっくり言えば、すごく進んでいます(笑)。

Joinには、政府が進めるすべての政策の予算や進度の情報を公開する機能があるので、何パーセント達成されているのかも自分で調べられるくらい、オープンです

石崎:では、一般の方の関心や参加はどうでしょうか?

近藤:関心もびっくりするほど高いです。

ただ、すべてを見るというより、自分の関心のあるイッシュー(問題)を見る感じですね。たとえば今、介護している人だったら、介護関係のところを見るとか。子どもがいたら、子育て関係とか。

とくに熱心なのは、15歳ぐらいからの若い世代と70代だとオードリーさんは言っていました。

石崎:すごいですね。日本で「だれも取り残さない」、デジタル民主主義といっても、ピンと来ない人が多いと思います。

というのは政治参加にそこまで積極的じゃない。自分事じゃないというか。

近藤日本だとそれは行政がやってよ」という感じですよね。日本にいたときは、わたし自身もそうでした。

台湾では、「行政だっていそがしいんだから、自分たちでやろう」と。そういう政治参加の機運が高まっていますね。

オードリーさんだけじゃないんです。

石崎さんも書いてらっしゃいますが、台湾の国会にあたる立法院では、パンクロッカーで国会議員のフレディー・リムさんが「オープンガバメント」を実現しようと活躍しています。

行政と立法と両方で連絡しあっているので、どんどん進んでいくと思います。

フレディー・リムさん(真ん中)と近藤さん(右)/提供:近藤弥生子

ひびのあるところに、光は差し込む

石崎: 良い意味で「台湾どうしちゃったんだ」と思うぐらい先進的です。

「台湾では」「〇〇では」とあまり言うと、昔から日本では「出羽守(でわのかみ)」と忌み嫌われます。

最近はさらにその傾向が強くなっているような気も します。

「台湾では」できたことは「日本でも」できるはず、だと思います。

近藤:それは、わたしたち海外にすむライターも感じるところです。

オードリーさんがやったことって、ばらばらに活動している人たちをつなげたことだと思います。日本にもいっぱいいらっしゃいますよね。

「ひびのあるところに、光は差し込む」 というオードリーさんの好きな言葉があるのですが、わたしも共感します。

石崎:ほんとうにそうです。

日本でもNGOや地方自治体レベルではいろんな取り組みが始まっています。

わたしも本を通じて、そういう光、希望を広げるお手伝いが、少しでもできたらと思っています。

[文・構成/吉田幸司]

「オードリー・タン」の誕生 だれも取り残さない台湾の天才IT相
石崎洋司/著 
定価:1650円(税込)
発売:2022年4月18日
四六判 208p
ISBN978-4-06-527593-1
イラスト©小林マキ

●読者対象:小学生から大人まで 今、疎外感を感じている子どもたち/ 今、疎外感を感じている親、大人たち/進むべき未来(希望)を探すすべての人たち/親子読書にも最適です! 

◆内容紹介
IQ180、十代で起業、ITの神様、Appleの顧問、33歳でビジネスから引退し、台湾で最年少大臣……。彼女には、そんな「勝ち組」の代表のような言葉がつきまといます。けれど彼女は、生まれたときから、さまざまな意味での「生きづらさ」を抱え、はじきだされる側でした。

生まれてすぐに重い心臓病にかかり、泣くことや風邪をひくことすら命とりだった幼少期。小学校では高すぎる知能のゆえになじめず、8歳で不登校となり、世界に絶望し、死すら考えたこともあります。笑顔が絶えなかった家庭は不和となり、父はドイツへと去り、家族は崩壊の一歩手前でした。

母の必死の努力や、さまざまな「恩師」や、年上の才能あふれる友人たちの力、ドイツでの生活と父との和解。おりしも勃興し始めたインターネットの世界との出会いによって、真っ暗に見えた前途に明るい光が射します。

中学ではエリート高校への進学の道が約束されていました。けれどオードリーはここで、さらに痛切に「生きづらさ」を感じます。

それは高まる周囲の期待と自分のやりたいことの不一致、自らの身体と心の性の不一致。「みんなのことをみんなで解決しよう」とするハッカー文化と、順位や勝ち負けを競うばかりの現実社会との不一致……。

そんなオードリーを救ったのは、台湾の先住民たちの多様性でした。

「だれもが自分を曲げることなく、でもだれも困らせない、そんな道を、わたしたちはきっと見つけられる」。

そう確信したオードリーは、中学校に通うことを止め、自分らしく生きることを決意します。

本書は、第一部、「オードリーの生い立ち」、第二部、「オードリーの仕事」という構成で、唐宗漢少年がどのようにして、世界に希望の火を灯す、<新しい民主主義>の旗手「オードリー・タン」となっていくのか? が描かれています。

 彼女の心の軌跡には、感嘆せずにはいられません。対立と分断を乗りこえる彼女のものの考え方の出発点をしっかとりと見据えること。

それは台湾が実現しようとしている、デジタルを駆使した、斬新なソーシャル・イノベーションの仕組みと成果を、より立体的に見せてくれることになるでしょう。

デジタルなのに温かい、人間にやさしい<新しい民主主義>を学ぶことにもつながります。

石崎 洋司(いしざきひろし)
東京都生まれ。慶應義塾大学卒業後、出版社勤務を経て、作家・翻訳家としてデビュー。『世界の果ての魔女学校』(講談社)で第50回野間児童文芸賞、第37回日本児童文芸家協会賞を受賞。「黒魔女さんが通る!!」シリーズ(講談社青い鳥文庫)など多数の人気作品を手がける。伝記には『杉原千畝 命のビザ』、『福沢諭吉 自由を創る』(講談社火の鳥伝記文庫)などがある。  

近藤 弥生子(こんどうやえこ)
1980年福岡生まれ・茨城育ち。台湾在住ノンフィクションライター。東京の出版社で雑誌やウェブ媒体の編集に携わったのち、2011年2月台湾へ移住。現地デジタルマーケティング企業で約6年間、日系企業の台湾進出をサポートし、2019年には日本語・繁体字中国語でのコンテンツ制作を行う草月藤編集有限公司を設立。雑誌『&Premium』、『Pen』で台湾について連載中。著書に『オードリー・タンの思考』(ブックマン社)。『オードリー・タン 母の手記「成長戦争」』(KADOKAWA)、『オードリー・タン まだ誰も見ていない「未来」について話そう』(SB新書)。オフィシャルブログ「心跳台湾」。

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