戦争はなぜ起こるの?「こども地政学」で知る“世界仲良く”が難しい理由

制作者インタビュー「こども地政学」#2 ~国々の関係性編~

ライター:遠藤 るりこ

「どうして世界のみんなで仲良くできないの?」と子どもに聞かれたとき、親が教えるべき地政学とは?  写真:アフロ

「いま、世界で何が起こっているのか」を子どもたちに正しく教えるために役に立つ「地政学」という学問があります。

子ども向けに地政学を解説した児童書『こども地政学 なぜ地政学が必要なのかがわかる本』(以下、『こども地政学』に略)の監修者・船橋洋一(ふなばし・よういち)さん、同書をはじめとした大人気児童書シリーズを手がける担当編集者・坪井義哉(つぼい・よしや)さんにインタビュー。

地政学の「地理」部分をキーワードとして、子どもたちにわかりやすく「世界」を伝えていきます。

今回は、『こども地政学』の内容を抜粋しながら、「隣の国のこと」「世界にはグループがあること」などについて、身近な例をあげつつ、世界の国々の関係性を解説します。

※全4回の2回目(#1を読む)

隣の国同士は仲が悪いもの?

地政学=Geopolitics(ジオポリティクス)は、『地球の政治学』という意味。この「地理」が重要要件となり、国同士の位置関係や距離が、問題の発端になりえることがあります。

「遠くの国への関心が薄くなるのは当然のことですよね」と、『こども地政学』(カンゼン刊)の担当編集者・坪井義哉(つぼい・よしや)さんは言います。

同じ学校や同じクラスの人より、違う学校や違うクラスの人に対する関心が薄かったり、そもそも関心がないのと同じようなものと続けます。

「クラスメイトとは毎日会うので、『悪口を言われた』とか『ちょっと気に食わない』など、いざこざが起こりやすいもの。こうしたことは国同士でも起こります。世界で見ても、だいたい隣国同士は大なり小なり何かしらの問題を抱えています」(坪井さん)

では、日本が抱える隣国との問題には、どのようなものがあるのでしょう。世界地図を広げて考えてみましょう。

知っておきたい3つの領土問題

地政学的観点から、日本は3つの領土問題を抱えていると、『こども地政学』では解説されています。

「まずは、①ロシアが返さない北方領土です。北海道の北東に位置する択捉(えとろふ)、国後(くなしり)、色丹(しこたん)、歯舞群島(はぼまいぐんとう)の北方四島は、その昔から日本人が住む土地でした。

しかし、1945年8月の第2次世界大戦の終戦直後にソビエト連邦(現在のロシア)によって軍事占領されてしまいました。以来、ロシアが実効支配しています」(『こども地政学』より抜粋)

ロシアによるウクライナ侵攻のニュースは、遠い国での出来事のように感じがちですが、実は、日本とロシアも領土に関する問題を抱えているということがわかります。

「そして、②中国が狙っている、尖閣諸島(せんかくしょとう)について。尖閣諸島は沖縄県石垣市に属する魚釣島(うおつりしま 中国名:釣魚島)など9つの島々の総称です。

それまでどこの国にも属していなかった尖閣諸島が、1895年に日本領になると最盛期には200人以上の日本人が居住しました(現在はいずれも無人島)。

その後、1968年に日本が周辺海域を調査して石油資源がある可能性が判明すると状況が変わってきます。

1971年に中国は『自国領である』と急に言い出したのです。2008年以降は中国の公船が尖閣諸島沖に頻繁に現れ、日本に対して揺さぶりをかけたりするトラブルが起こっています」(『こども地政学』より抜粋)

最後は、③韓国との間の竹島(たけしま)問題。

「日本海南西部に、女島(東島)と男島(西島)の2つの島と、その周辺の数十の小島からなる、島根県に属する竹島(韓国名:独島)があります。竹島とは、単独の島ではなく、これら島々の総称です。

竹島は歴史的にも国際法上も明らかに日本の領土ですが、1952年に当時の韓国の李承晩(り・しょうばん)大統領が『李承晩ライン』と呼ばれる境界線を一方的に設定して漁業管轄権を主張し、竹島をその範囲内に入れたのです。以降、竹島に軍事施設をつくって実効支配し、かつて日本に占領された不幸な歴史のシンボルにしています。

日本は平和的にこの問題の解決を図るため、国際司法裁判所に判断を任せることを韓国に提案していますが、韓国は拒否し続けています」(『こども地政学』より抜粋)

このように、島国である日本であっても、海を隔てて隣にある国と、領土問題でもめごとがあるのです。

ロシアとウクライナも隣国 地政学的動機とは

「日本が中国や韓国、ロシアと国境問題を抱えているのと同じように、隣国同士のトルコとギリシャは歴史的に仲が悪いことで有名です。中国とインドも国境線をめぐり長くもめています。

位置関係が近いか遠いかは、国同士の関係を決める重要な要素だということがわかります」(『こども地政学』より抜粋)

ロシアのウクライナ侵攻の根底にも、「地政学的な動機がある」と、『こども地政学』の監修者である船橋洋一(ふなばし・よういち)さんは言います。この2つの国も、隣り合う国です。

「ロシアは、ウクライナを独立国として認めず、ロシアの“兄弟国”、少なくとも『勢力圏(※1)』であると決め込んでいるのです。
※1=国の政治、経済、軍事面において、排他的影響力の及ぶ他国のこと。

さらにロシアは、ウクライナにとどまらず、ジョージア、モルドバ、そしてバルト三国も自らの『勢力圏』と見なしています」(船橋さん)

あらためて世界地図で各国の位置を見てみると、この戦争の“地政学的動機”がよく理解できます。

ロシアによるウクライナ侵攻が起こるまで、なかなか馴染みのなかった地域を、あらためて地図で見てみましょう。  写真提供:遠藤るりこ
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