クジラを撮り続けるジャーナリストが作った「進化」の絵本が凄い!

化石の発見やDNA解析など最新の科学にもとづいて作ったクジラの進化の物語

写真家 ジャーナリスト:水口 博也

海から陸へ。そしてまた海へ。

わたしたちと同じ哺乳類の仲間でありながら、5000万年もの進化の過程で現れたさまざまなクジラたちは、謎に満ちた存在です。

近年あらたな化石の発見やDNA解析によって、新しいことが次々にわかってきているクジラの進化過程。

最新の科学をもとに、写真家の水口博也さんが5000万年の壮大な物語を書き下ろしました。

空から撮影したシロナガスクジラ。(写真:水口博也)

物語としての余韻、おもしろさを追求

<クジラはヒトと同じ哺乳類のなかまです。
クジラの祖先は、大むかし陸上にすんでいた哺乳類のなかで、
海にくらしはじめた動物たちです。
彼らはどんな道すじをへて、マッコウクジラや
巨大なシロナガスクジラを登場させるにいたったのでしょうか。>


絵本の冒頭の3文です。これはまさに、水口博也さんが長年考え続けてきた問いでした。

陸に暮らしていたクジラはなぜ海へむかったのか。

海で暮らすために、どのように体をつくりかえていったのか。

なぜ、あのような圧倒的な大きさになったのか。

たった一冊の絵本ですが、読み終わったときにクジラの進化の大きな流れを体感できるのは、クジラの進化に関する膨大な情報を吟味しているから。

進化の大きな流れのなかでどのクジラを登場させるのか。そのクジラのなにを紹介するのか。

古鯨類研究者の木村敏之さん(群馬県立自然史博物館)と相談しながら決め込んでいったといいます。

圧倒的な説得力のある復元画の数々は小田隆氏の手によるもの

どんなに凄いカメラマンでも、5000万年前のクジラたちの写真を撮ることはできません。

今回、水口博也さんの壮大なテキストをビジュアル面でサポートするのは、古生物復元画家の小田隆さんの緻密な絵の数々です。

だれも見たことがない絶滅したクジラたちの生活する姿を見てほしい──下書きの段階から、木村敏之さん(群馬県立自然史博物館)と入念な打ち合わせが繰り返されました。

5000万年前のクジラ、パキケタス。
(『クジラの進化』より)
魚竜の仲間だと思われていたムカシクジラ、バシロサウルス。後ろ足の痕跡がある。
(『クジラの進化』より)

物語のなかで無理なくクジラの進化の知識が得られる構成

見ただけで、どのクジラが近しい関係にあるのかわかる“系統樹”は、木村敏之さん監修のもと、系統樹デザインの第一人者、坂野徹さんが仕上げています。

“系統樹”の分岐している場所やそれぞれの長さは、最新の研究にもとづいています。

進化の過程で現れたクジラは絶滅種であるムカシクジラ類、ハクジラ類、ヒゲクジラ類に分かれる。いま生きている哺乳類では、クジラはカバに近いことがわかる。
(『クジラの進化』より)

海のなかで暮らすために体を作り変えていったクジラたち。大きな変化のひとつである鼻の穴の位置のうつりかわりも、物語の流れのなかでわかりやすく表現しています。

カバから現生のクジラまで。鼻の穴の位置のうつりかわりを見る。
(『クジラの進化』より)

水口博也さんからのメッセージ

ぼくは子どものころから、クジラという動物にたとえようのない憧れを抱いてきました。

それは何より、シロナガスクジラに代表される巨大な体であることと同時に、ぼくたちと同じ哺乳類でありながら一生を大海原ですごす謎に満ちた暮らし故でした。

写真家として仕事をしはじめて、世界の海でさまざまなクジラを観察するなかで、彼らの現在の暮らしについてはある程度直接目にすることができるようになりましたが、最後まで謎として残ったのは、かつて陸上で暮らした彼らがどのようにしていま目にする体や暮らしを手に入れたかでした。

それを求めて、古鯨類の化石が多い各国の博物館を訪ね、学者からいろいろと話をうかがうなかで、5000万年をかけて彼らがたどった道が少しずつ見えはじめてきました。

しかし、研究は常に一本道ではありません。

以前定説になっていたものが、新しい発見によって覆されることがあります。

とくに近年新たな化石の発見と、DNAを使って系統をより厳密に調べることができるようになって、クジラの進化をたどるぼくたちの知識は飛躍的に進みました。

この本は、世界の科学者が描きだした「クジラがたどった道」を、友人の古生物画家である小田隆さんが色鮮やかに肉づけしたものです。

四肢をもって陸上を歩いたクジラの祖先が、5000万年をかけて体長30メートルものシロナガスクジラや、水深1000メートルをこえる深海まで1時間近く潜ることができるマッコウクジラを生み出すまでどんな変遷があったのかを、現在知られているもっとも新しい知識で紹介するものです。

それは、ぼくが子どものころに抱いた憧れと疑問が、ようやくひとつの物語に昇華したものでもあります。


水口博也(Hiroya Minakuchi)
写真家・ジャーナリスト。大阪府生まれ。京都大学理学部動物学科卒業。海棲哺乳類を中心に、写真集や写真絵本、書籍など多数手がける。写真集『オルカ アゲイン』(1991年)で第22回講談社出版文化賞写真賞受賞。写真絵本『マッコウの歌 しろいおおきなともだち』(2000年)で日本絵本大賞受賞。

長年の夢が一冊の絵本に。表紙からも伝わる圧倒的なクジラ愛!

5000万年前のクジラ、パキケタスから今を生きるシロナガスクジラやマッコウクジラが同じ画面に! クジラを愛する水口さんの夢がかなったカバー絵です。
*裏表紙まで続く圧巻のイラストには、絶滅種、現生種あわせて9種のクジラが描かれています。あなたはいくつわかりますか。(答えは絵本のカバー袖折込みに!)

『クジラの進化』
文:水口博也 絵:小田隆 監修:木村敏之(群馬県立自然史博物館)
2022年9月1日発売
中学生以上漢字にルビ

「大地を闊歩した恐竜たちが絶滅してまもなく、地上で生き残ったほ乳類の水辺に生活場所を移した仲間が、豊かな浅海へ進出をはじめます。これがクジラの祖先です。かつて四肢で地上を歩きまわった哺乳類が、どのような進化を経て、いまわたしたちが目にするクジラの姿に変わっていったのでしょうか。

鯨類と認められる最古の化石は5000万年前のもの。それから現在まで、彼らは大洋での暮らしにより適した体に、さらには海洋環境の変化にも適応しながら、より新しい体と暮らしをもつクジラたちを輩出してきました。そして、1000メートルもの深海にまで潜ってえものを追うマッコウクジラや、体長30メートルに達するシロナガスクジラを誕生させました。

生物の進化とは、二度と同じ繰り返しのない謎と驚異に満ちた物語です。なかでも陸上から海洋へと、大きな変貌をとげたクジラをめぐる5000万年におよぶ壮大な物語は、クジラファンにとどまらず生き物ファン、科学ファンの心を広くとらえるものでしょう。」
(写真家 ジャーナリスト/水口博也)
みなくち ひろや

水口 博也

Hiroya Minakuchi

写真家・ジャーナリスト。大阪府生まれ。京都大学理学部動物学科卒業。海棲哺乳類を中心に、写真集や写真絵本、書籍など多数手がける。写真集『オルカ アゲイン』(1991)で第22回講談社出版文化賞写真賞受賞。写真絵本『マッコウの歌 しろいおおきなともだち』(2000年)で日本絵本大賞受賞。

写真家・ジャーナリスト。大阪府生まれ。京都大学理学部動物学科卒業。海棲哺乳類を中心に、写真集や写真絵本、書籍など多数手がける。写真集『オルカ アゲイン』(1991)で第22回講談社出版文化賞写真賞受賞。写真絵本『マッコウの歌 しろいおおきなともだち』(2000年)で日本絵本大賞受賞。