「クエスチョニング」ってなに? 物語を通じてLGBTQを身近に

『スペシャルQトなぼくら』作者の思い

作家:如月 かずさ

イラスト・たなか(『スペシャルQトなぼくら』より)
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近年、セクシュアル・マイノリティについての認知は急速な広まりを見せ、教育現場においても、子どもたちのセクシュアル・マイノリティに対する理解を深めることは重要な課題となっている。子どもたちが親しむ児童書の世界でも、レズビアンやゲイ、トランスジェンダーの登場する物語が散見されるようになった。

そうした中で、これまであまり取り上げられることのなかったセクシュアリティをテーマにした児童書が新たに登場した。その作品『スペシャルQトなぼくら』の筆者が語るーー。

セクシュアルマイノリティは特別なこと?

『スペシャルQトなぼくら』という題名を思いついた瞬間、「これだ!」とひざを打ちました。この物語の題名はこれしかない、と。

ぴったりな題名を思いついたおかげか、執筆のペースもぐんとよくなりました。ただひとつ、この題名について気がかりだったのは、「特別な・特殊な」を意味する「スペシャル」が題名に含まれていることでした。

『スペシャルQトなぼくら』はLGBTQのQ=クエスチョニングをテーマとした物語です。

クエスチョニングとは、自分の性別が男性と女性のどちらなのかわからなかったり、自分の恋愛対象が同性と異性のどちらなのかわからない人のこと。わからないわけではなく、自分の性別や恋愛対象を男女どちらかに決めてしまいたくない人もクエスチョニングに含まれます。

物語の主役のナオとユエは、ふたりともクエスチョニングの中学生です。しかし彼らはとびきりキュートではあっても、決して特別なわけではありません。「スペシャル」を含んだ題名を採用することに、かすかな迷いがあったのはそのためです。

セクシュアルマイノリティをめぐる「今」

私自身がクエスチョニングという言葉をはじめて知ったのは、たしか10年とちょっと前、女の子になりたい少年が主人公の物語『カエルの歌姫』の執筆のために、セクシュアルマイノリティの資料を読んでいたときでした。

その当時とくらべて、今日ではクエスチョニングという言葉もLGBTQという言葉も、非常に広く知られるようになりました。しかしいまでもやはり、セクシュアルマイノリティの人々を特別視したり、「トランスジェンダーといったらオネエ」というような、偏ったイメージを思い起こしたりする風潮は、まだ根強く残っているように感じます。

LGBTQとまとめられる、レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー、クエスチョニングのほかにも、アセクシュアル、アロマンティック、ポリセクシュアル、パンセクシュアル、ジニセクシュアルなど、多種多様なセクシュアルマイノリティが存在します。『スペシャルQトなぼくら』のなかでも、クエスチョニングのほかにいくつかのセクシュアルマイノリティについて触れています。

こうした数多くの耳慣れない言葉たちが、セクシュアルマイノリティを理解の難しい、特別な存在として感じさせているところもあるように思います。また、理解しよう、理解しなくてはいけないという意識が、かえってセクシュアルマイノリティの人々との距離を縮めるのを妨げているように感じることもあります。

わからないことは わからないままでいい

ここで『スペシャルQトなぼくら』の中から、主役のひとりであるユエが、クエスチョニングであることを明かしたときの言葉を引用したいと思います。

「その言葉(クエスチョニング)をはじめて知ったとき、ぼくはすごくほっとしたんだ。それまでずっと、ぼくは自分が男女どっちなのかわからなくて悩み続けていたから。ぼくとおなじように感じている人たちが、世界中におおぜいいる。いくら悩んでもわからないことは、わからないままにしておいてもいいんだって思ったら、なんだか気が楽になったんだよ」

ユエの科白はクエスチョニングについてのものですが、わからないことはわからないままにしておいてもいい、という姿勢は、セクシュアルマイノリティとの向きあいかたにも通じるところがあるのではないでしょうか。

相手がセクシュアルマイノリティであろうとなかろうと、相手のすべてを理解することはおよそ不可能です。わからないことはわからないままにしておいて、目のまえにいる相手のわかるところをわかろうとする、そうした姿勢が大切なのではないかと、私はそんなふうに考えています。

『スペシャルQトなぼくら』の主役のナオとユエは、おしゃれとメイクが趣味で、キュートなものが大好きなクエスチョニングの中学生です。表紙のイラストで、まるで女子のような格好をしたふたりを見て、彼らのことをやはり特殊で特別だと感じるかたもいるかもしれません。

しかし物語のなかで、自分の好きなものに素直でありたいと願い、好きな人に気持ちを伝えたいと悩むナオとユエの姿には、クエスチョニングでない読者のみなさんにも、きっと共感してもらえると思います。決して特別ではないふたりの、スペシャルキュートな物語を通じて、クエスチョニングを、そしてセクシュアルマイノリティを身近に感じてもらえたらと心から願っています。

『スペシャルQトなぼくら』如月かずさ・著

『スペシャルQトなぼくら』(如月かずさ・著)

Q=クエスチョニング。自分の性別が男か女かわからない。自分が好きになる相手が異性か同性かわからない。だけど、どっちかわからなくたって、ぼくらはぼくらの好きなものが好き!!

中学2年のナオが塾帰りに目撃したのは、女子のようにメイクをして、かわいい服で街をあるく学年トップの優等生・久瀬の姿。そのときから、自分のことをごく普通の男子だと思っていたナオの心に、ある願いが生まれて…。

Qでキュートなふたりが織りなす、おしゃれと恋と特別な絆の物語。

講談社児童文学新人賞でデビュー、ジュニア冒険小説大賞、日本児童文学者協会新人賞受賞作家で幼年童話からYA作品まで幅広く執筆する如月かずさ氏の最新作。LGBTQのQ、クエスチョニングをテーマにした青春小説。

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きさらぎ かずさ

如月 かずさ

Kazasa Kisaragi
作家

1983年、群馬県桐生市生まれ。東京大学教養学部卒業。『サナギの見る夢』(講談社)で第49回講談社児童文学新人賞佳作を受賞。『ミステリアス・セブンス―封印の七不思議』(岩崎書店)で第7回ジュニア冒険小説大賞を受賞。『カエルの歌姫』で(講談社)第45回日本児童文学者協会新人賞受賞。その他の作品に、『シンデレラウミウシの彼女』『スペシャルQトなぼくら』(講談社)、『給食アンサンブル』(光村図書出版)、『七不思議探偵アマデウス!」(静山社)、「ミッチの道ばたコレクション」シリーズ(偕成社)「なのだのノダちゃん」シリーズ(小峰書店)ほか多数。

1983年、群馬県桐生市生まれ。東京大学教養学部卒業。『サナギの見る夢』(講談社)で第49回講談社児童文学新人賞佳作を受賞。『ミステリアス・セブンス―封印の七不思議』(岩崎書店)で第7回ジュニア冒険小説大賞を受賞。『カエルの歌姫』で(講談社)第45回日本児童文学者協会新人賞受賞。その他の作品に、『シンデレラウミウシの彼女』『スペシャルQトなぼくら』(講談社)、『給食アンサンブル』(光村図書出版)、『七不思議探偵アマデウス!」(静山社)、「ミッチの道ばたコレクション」シリーズ(偕成社)「なのだのノダちゃん」シリーズ(小峰書店)ほか多数。