「子どもインタビュー」でわが子の内面を記録 人気児童書作家が解く素敵な効果

シリーズ「子どもの声をきく」#2‐1 児童書作家・杉山亮さん~“子どもインタビュー”のおもしろさ~

児童書作家・ストーリーテラー:杉山 亮

現在、山梨県北杜市小淵沢に住み、児童書作家兼ストーリーテラーとして活動している杉山亮さん。  写真:桜田容子
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「子どもの声をきく」ことが重要視されている昨今、26年前に一人の子どもの声を聞いてまとめたロングセラーの本があります。その名も『子どものことを子どもにきく』(杉山亮著・岩波書店刊)。

同書は、子どもが3歳から10歳までの8年間、年に1回ずつ父が子にインタビューを続け、その内容を記録したもの。

著者の児童書作家・杉山亮さんは、インタビューをしたことでどんな発見があったのでしょうか。26年以上前(1996年)、出版当時の記憶を掘り起こしていただきました。

※全4回の1回目

杉山亮(すぎやま・あきら)PROFILE
1954年東京生まれ。保父、おもちゃ作家を経て、児童書作家兼ストーリーテラーに。『もしかしたら名探偵』『いつのまにか名探偵』など23冊に及ぶ「あなたも名探偵」シリーズ、『ばけねこ』(原作・ポプラ社)などのおばけ話絵本シリーズなど、数多くの児童書を執筆。

軽い気持ちで始めたインタビューが意外なほどおもしろかった

『子どものことを子どもにきく』は1996年に岩波書店から初版が出て、2000年には新潮社から文庫化されたんです。そして初版から26年経った今年(2022)、ちくま文庫から2度目の文庫化が決まり、11月14日に発売されました。

2度目の文庫化の経緯はね、実は僕自身もよくわからないんです。何で今になってまた文庫化されるのか。ちょっとインターネットで話題になったんでしょうか?

最初の文庫本も、出てすぐ「新潮OH!文庫」という文庫のレーベル自体がなくなりお蔵入りしたし、初版の単行本もすでに絶版。どれだけ売れたのか、部数も知りません(笑)。

当時、3歳だった息子の隆(たかし)にインタビューを始めたきっかけも、そのとき、仕事で携わっていた『子どもとゆく』というミニコミ誌に書くため。

「子どものことについて何か書かないといけないんだけど、ネタがない。……そうだ、手近な人にインタビューをしよう」といった、まあ、身も蓋(フタ)もない理由です。

3歳の隆の上に2歳違いの姉・朋子(ともこ)もいました。5歳の朋子のほうが語彙(ごい)は多い分、会話ははるかにおもしろい。そんな姉に比べて、隆はまだまだ“おまめ”扱い。

そんな隆と、たまにはじっくり話をしてみよう、と思って隆に白羽の矢を立てたように記憶しています。目的意識をもって大真面目に取り組んだインタビューでないのは確かですね(笑)。

かくして軽い気持ちで始めたインタビュー。ところが始めてみると、思いのほか楽しい。

6月に近所の喫茶店でインタビューをして7月に原稿を書いて、8月に誌面に載るわけですが、親が子に1対1で向き合ってインタビューするという試みが新鮮だったんでしょう。

言葉のやりとりも「おもしろい」と好評で、翌年以降も年1回のシリーズ連載として続くことになりました。

僕自身、父親として、おもしろい発見も多かった。
例えば、隆が3歳のころ、こんなやりとりをしたんです。

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※以下『子どものことを子どもにきく』から抜粋。(あきら=父・亮さん当時34歳、たかし=息子・隆さん当時3歳)

あきら 隆、今住んでる町、ここ、なんて町だか知ってる?
たかし うーん……。
あきら ここ、なんてとこ?
たかし うーん……。
あきら あの駅、なんていう駅?
たかし んー、長瀞駅前。
あきら そうそう。じゃあさあ、隆の住んでいるここはなんて国?
たかし んー、なぞなぞ工房。
あきら ちがうちがう、国だよ。
たかし うーん、……わかんない。
あきら わかんない。そうかあ、あのねえ、ここ日本って国だよ。
たかし (笑)えー、日本はおばあちゃんの所でしょう?
あきら (笑)えー、じゃあここは一体どこだ?
たかし (笑)
(この時、鳩時計が10時を告げる。扉があいて鳩が鳴くのを二人でしばらく眺める。)
あきら 今、何時だ?
たかし うーん(しばらく文字盤を見て)、わかんない。
あきら いやー、すごいなあ。(と、しみじみ。)字が読めなくて、今いる所がわからなくて、今がいつかもわかんなくって、それでもやってけるわけだー。
たかし (なんだかわけわからないけどニコニコ。)

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当時、僕はおもちゃ作家として、埼玉県の長瀞町(ながとろまち)に『なぞなぞ工房』というおもちゃ工房を構えていました。

この日は、長瀞駅前の喫茶店に連れ出してインタビューをしたんですが、3歳の隆は、今がいつか分からなくて、ここがどこかもわからないし、メニューの字も読めない。

大人だったらパニックになる状態なのに、当の本人はニコニコしている。何も分からなくてもやっていけるんだということが、僕にとっては驚きでしたね。

インタビュー時間は45分間。アナログのテープを1本使い切る時間が終了時間です。

「ちょっと行こうか」と駅前の喫茶店に連れ出したインタビューの翌年から、隆は「ああ、またこれね」といった感じで、インタビューに応じてくれました。小学生前からインタビュー慣れしている、かわいくない幼児ですよね(笑)。

それから10歳まで、年を追うごとに隆との会話が変化しているのが、文字で読んでみるとよく分かります。

これは妻も話していたことですが、最初のほうは単純に会話がおもしろいんです。何を言っているのかよくわからないこともたくさんある。そして読み進めていくと、ああ、そういえばそんなことあったな~という出来事が次々と思い出される。

思春期になると、生意気な口をきくしムカッとすることもいっぱいあるんだけれど、昔はこういう会話をしていたんだ、こういう考え方、感じ方をしていたんだと思うと、親としては楽しいですよね。

インタビューのやり取りを文字にして残すのは、日記とは全く違う「記録」なんです。実際、隆が小学生のころ演劇部に入っていたことも、この取材でたった今、本を読み返すまですっかり忘れていましたから(笑)。

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