尾木ママが人生で3度感動!2371万部『窓ぎわのトットちゃん』の5つの魅力

教育評論家・尾木直樹先生が私たちがいまトモエ学園に学べることを教えてくれました

編集者・文筆業:高木 香織

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尾木直樹
おぎ・なおき

教育評論家、法政大学名誉教授、臨床教育研究所「虹」所長。”尾木ママ”の愛称で、幼児からお年寄りにまで親しまれ、多くの教養番組や情報・バラエティ番組への出演、講演活動を精力的に行っている。1947年、滋賀県生まれ。早稲田大学卒業後、私立海城高校、東京都公立中学校教師として、22年間子どもを主役とした創造的な教育を展開。その後、法政大学教授などとして22年間、大学教育に携わる。それらの成果は230冊を超える著書(監修含む)、DVD、ビデオソフト、映画類などにまとめられている。信条は”子育てと教育は愛とロマン””学校は安心と失敗と成長の砦”。

2021年3月に発売40周年を迎えた『窓ぎわのトットちゃん』。著者の黒柳徹子さんが自身の小学校時代を描いた自伝的作品で、国内で800万部以上(戦後日本で一番売れた本!)、全世界でなんと2371万部という超ベストセラーです。
けれど、黒柳さんがお通いになったトモエ学園のお話自体は、戦中のもの。いまの教育の最前線をご存じの方からみたら、ノスタルジックなお話なのかもしれません。

そんなとき、”尾木ママ”こと尾木直樹先生が、トットちゃんを人生で3度読み返し、その時々で感激したとおっしゃっているのを聞きつけ、インタビューをお願いしました。

「尾木ママ、いまあらためてトモエ学園の魅力について、おしえてください!」

魅力① 〈4時間話を聞き続けてくれた入学時の出会い〉 校長先生の「子どものありのままを受け止める愛」

尾木「はじめて『窓ぎわのトットちゃん』を読んだとき、僕は現役の中学校教師だったの。だから、トモエ学園というのはほんとうに夢のような学校だと思いました。戦前から戦中にかけて、すごい学校があったものだな、軍国主義教育の真っただ中で、よく存在できたものだな、と。得体のしれない、すてきな理想の学園ですね」

トモエ学園には、いまなお理想である5つの魅力がある、と尾木先生は言います。
一番の魅力は、「子どものありのままを受け止める」教育。二つ目は、「子どもの興味や個性を大事にする」教育、そして三つ目は、「子どもを一人の人間として認める」教育、四つ目は「すべての子どもを輝かせる」教育、そして最後の五つ目は「人の温かさを感じられる」教育です。

一つ目の「子どものありのままを受け止める」教育について、尾木先生は以前、『窓ぎわのトットちゃん』の書籍の帯にこのような言葉を贈っています。

”すべての子どもをありのままに。教育の原点はここにある。”

その思いは、今も変わらないと言います。

尾木「この帯を書いたときが、二度目に読み直したときですね。6年前に寄せた帯の言葉ですけど、今回、改めて読んでみても、まさにその通り。この本は、いつ読んでも新しい発見がある。
僕ね、今74歳なの。古希を過ぎて読むと、またぜんぜん違う読み方になってくる。自分の子どものころをまざまざと思い出すのね。よく、世界の名作は一生涯、何回読んでも新しい感動があるって言われますけど、ほんとにそう。これはね、名作だと思います。
この本で描かれていますが、子どもの育ちにとって最も大事なことは、子どもをありのままに受け止める、広やかな大人の愛があることです。とくに校長の小林宗作先生が素晴らしい」


『窓ぎわのトットちゃん』から、尾木先生の指摘する場面をご紹介しましょう。

お母さんが小学校を1年生で退学になったトットちゃんを連れて初めてトモエ学園を訪れた日、校長先生はたっぷり4時間、トットちゃんの話を聞いてくれました。
その間、校長先生はあくびをしたり、退屈そうにしたりしないで、トットちゃんが話しているのと同じように、身を乗り出して、一生懸命話を聞いてくれたのです。
あとにも先にも、トットちゃんの話を、こんなにちゃんと聞いてくれた大人はいませんでした。

尾木「今、日本中を探してもそんな先生なかなかいないんじゃないかしら。先生たちもお忙しいですからね。でも、重要なのは、子どもとの向き合い方の問題なんですね。子ども本人が納得するまで向き合い、しっかり受け止める。それが子どもとの信頼感の形成につながっていくんです」

このとき、トットちゃんはまだ自分の退学には気づいていませんでした。

<でも、トットちゃんの中のどこかに、なんとなく、疎外感のような、ほかの子どもとちがって、ひとりだけ、ちょっと、冷たい目で見られているようなものを、おぼろげには感じていた。それが、この校長先生といると、安心で、暖かくて、気持ちがよかった。>(『窓ぎわのトットちゃん』著:黒柳徹子  より)

そこはかとない切なさを感じさせるシーンです。

尾木「トットちゃんにそれを気づかせなかったお母さんも、すごいのね」

魅力② 〈電車の教室で、興味のあるところから勉強する〉 「子どもの興味や個性を大事にする」学校教育

二つ目の魅力は、「子どもの興味や個性を大事にする」こと。
トモエ学園では、廃車になった電車を教室として使い、授業のカリキュラムも独自のものでした。トットちゃんがトモエ学園に初めてやってきた日のことが、鮮やかに描かれています。

<……トットちゃんの目のはしに、夢としか見えないものが見えたのだった。トットちゃんは、身をかがめると、門の植え込みの、すき間に頭をつっこんで、門の中をのぞいてみた。どうしよう、見えたんだけど!
『ママ! あれ、ほんとうの電車? 校庭に並んでるの。』
それは、走っていない、ほんとうの電車が六台、教室用に置かれてあるのだった。トットちゃんは、夢のように思った。“電車の教室……”。
電車の窓が、朝の光をうけて、キラキラと光っていた。目を輝かして、のぞいているトットちゃんの、ほっぺたも、光っていた。>(『窓ぎわのトットちゃん』著:黒柳徹子 より)


トットちゃんは電車の教室に行くのが楽しみとなり、毎朝張り切って登校します。そんな「ワクワク感」が大事だと、尾木先生は言います。

尾木「コロナ禍による休校は、子どもたちにとっても、学校に通うことの意味を考える機会になりました。友だちや先生に会える、好きな授業がある、給食が楽しみ、何でもいいんです。学校で飼っている生き物だけでなく、最近では”LOVOT”(らぼっと)などの人間の声や動作に反応するAIロボットを導入している学校もあり、不登校の子も減ったということです。どの子にとっても、学校に”早く行きたい”って思えるような楽しみが一つでもあるのが理想ですね」

トモエ学園は授業の時間割も独特でした。朝、先生が黒板にその日に学ぶ内容を書き出し、子どもたちはその中の好きなことから取り組み、帰るまでに全部終わっていればいい、というユニークなやり方なのです。

尾木「子どもたちのやる気を育てるにはどうしたらいいか、と親御さんからよく質問されます。宿題をさせるのでも、よくお母さんたちは、『あなたは算数が苦手なんだから、先にやっちゃいなさい!』なんて言いますよね。でもね、それは逆なんです。ほんとうは好きな分野から始めるとエンジンがかかって、苦手な分野にもすっと入れる。その子の好きなことや学びやすい方法は何かを子どもと一緒に考え、本人に決めさせる。これが本来の『個別教育』の姿なんですよ」

自分で自分の時間割を決め、興味のある分野から自由に勉強していい。人は自分で決定したことには自分で責任を持とうとするから、きわめて生産性が高くなる。子どもたちも「自分で決めたことは自分でやろう」という気持ちになるのだと言います。

尾木「子どもたちは、どの子もみんな、ある意味ではトットちゃんのグラデーションなんです。100人の子どもがいれば、100通りのトットちゃんがいる。どの子も、個性豊かに生まれているんですね。それをいかに引き出すかが、子どもの興味や個性を大事にすることにつながるんだと思います。
だからね、『うちの子にはなにをさせたらいいですか』という親御さんには、こうお話ししています。『一日でいいから、お子さんが公園で遊んでいるところをじっくりと観察してみてください』って。そうすれば、わが子がどんな子で、なにに興味・関心があるのかがわかると思うんです。
こういうことができたほうがいいからって、大人が一方的に決めるのではなく、子どもの適性や興味のあること、子どもの気持ちを大事にしてほしいですね」

魅力③ 〈トイレの落とし物探しを黙って見守る〉 「子どもを一人の人間として認める」こと。

ある日、トットちゃんは学校の汲み取り式のトイレにお気に入りのお財布を落としてしまいます。でもトットちゃんはくじけず、自分でひしゃくを使って汚物をかき出して、探し始めます。授業が始まってもお財布は見つかりませんが、トットちゃんはかまわず作業を続けます。そこに通りかかった校長先生は、何をしているのかとたずね、
「終わったら、みんな、もどしておけよ。」
とだけ言って去ってしまいます。

<けっきょく、うずたかく山ができて、トイレの池は、ほとんど空になったというのに、あのお財布はとうとう出てこなかった。……(中略)でも、もうトットちゃんには、なくても、満足だった。自分で、これだけやってみたのだから。ほんとうは、その満足の中に『校長先生が、自分のしたことを怒らないで、自分のことを信頼してくれて、ちゃんとした人格をもった人間として、あつかってくれた。』ということがあったんだけど、そんなむずかしいことは、まだ、トットちゃんにはわからなかった。>(『窓ぎわのトットちゃん』著:黒柳徹子  より)

尾木先生は、教育の原点がここにこそあるのだと言います。

尾木「僕は『窓ぎわのトットちゃん』を読んでいると、ルソーの著書『エミール』を思い浮かべてしまいます。ルソーが描いた教育哲学が、ここにはあるんです」(尾木)

フランスの哲学者ジャン=ジャック・ルソーの小説のスタイルをとった教育論『エミール、または教育について』は、近代教育学の始まりとされています。ルソーは『エミール』の中で、子どもが本来持っているものを自然に伸ばしていくことの大切さを伝えています。

尾木「ルソーは、子どもは2歳なら2歳、9歳なら9歳がそのまま丸ごと完成体だと言います。成人という表現があるなら、子どもは『成童』と呼ぶべきではないか、と。例えば15歳になってから、9歳のころの心に戻ることはできないのです。ですから、その子の年齢のままの姿で輝けるように、どうまわりが尊重し見守っていくのかが大切なんですね」

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