尾木ママが人生で3度感動!2371万部『窓ぎわのトットちゃん』の5つの魅力
教育評論家・尾木直樹先生が私たちがいまトモエ学園に学べることを教えてくれました
2021.06.04
編集者・文筆業:高木 香織
魅力④〈体が弱い子が運動会で一等賞〉学校を「インクルーシブ教育」の場に
『窓ぎわのトットちゃん』には、体に障害のある子どもたちも登場します。
ある日、トモエ学園に高橋君という一年生が転校してきます。高橋君は背がうんと小さく、帽子を握っている手も小さかったけれど、礼儀正しく、大人っぽい子どもでした。
けれども、先生や大人たちは、高橋君の成長がこのまま止まってしまうことを知っていました。
<さて、運動会が始まって、おどろくことが起こった。それは、どの競技も(たいがい全校生徒が一斉にやるのだけれど)、学校で、いちばん、手足が短く背の小さい、高橋君が一等になっちゃうことだった。……(中略)そして、とくに、自分で手に入れた一等賞(の賞品の野菜)で、食卓があふれた高橋君が、『その、よろこびをおぼえてくれるといい。』 背が伸びない、小さい、という肉体的コンプレックスを持ってしまう前に、『一等になった自信を、忘れないでほしい。』と校長先生は考えていたにちがいなかった。そして、もしかすると、もしかだけど、校長先生が考えたトモエふうの競技は、どれも高橋君が一等になるようにできていたのかも、しれなかった……。>(『窓ぎわのトットちゃん』著:黒柳徹子 より)
尾木先生は、「トモエ学園では、すべての子が輝く”インクルーシブ教育”が行われていた」と言います。
「インクルーシブ教育」とは、2006年の国連総会の「障害者の権利に関する条約」で採択されたもので、障害のある子どもとない子どもが一緒に学ぶことで、お互いが理解を深めようとする考え方です。
日本では、2005年(平成17年)に文部科学省が特別支援教育の制度として検討し始め、その一環として、2012年(平成24年)ごろから提唱されるようになりました。
尾木「文部科学省がインクルーシブ教育の理念を掲げたのですが、うまくいきませんでした。そもそも40人学級で、担任の先生が一人で障害のある子も一緒になんて、無理がありますよね。せめて20人か25人学級で、複数の担任がいて丁寧にサポートできる体制だったら何とかなったかもしれませんが……。そのため2,3年で挫折してしまったんです。いまは、支援を必要とする子のほとんどは特別支援学校で学ぶか、もしくは通常学級ではなく教室が分かれていて、ときどき交流するだけになっています。これは本当のインクルーシブ教育ではないんですね。
40年前に、トモエ学園はいいね、と多くの人が思ったはずなんですが、この40年間は一体何だったんだろうと思ってしまいますね。”みんないっしょにやるんだよ”という校長先生の考えやそれが自然に実践されていたトモエ学園は、本当に素敵ですね」
魅力⑤〈講堂での全校みんなでのお弁当の時間〉「人の温かさを感じられる」教育
『窓ぎわのトットちゃん』には、他にも印象的なシーンがあります。
それは、講堂に全校児童みんなが集まって食べるお弁当の時間です。お弁当には、「海のものと山のもの」を詰めてくることになっています。
<とっても、とっても、この学校は変わっていて、おもしろそう。お弁当の時間が、こんなに、愉快で、楽しいなんて、知らなかった。トットちゃんは、あしたからは、自分も、あの机にすわって、『海のものと、山のもの』のお弁当を、校長先生にみてもらうんだ、と思うと、もう、うれしさと、楽しみで、胸がいっぱいになり、叫びそうになった。>(『窓ぎわのトットちゃん』著:黒柳徹子 より)
トモエ学園の全校児童は50人。このエピソードからは、楽しそうな50人の子どもたちの笑顔が見えてくるようです。
『窓ぎわのトットちゃん』の初版が刊行されたのは、1981年(昭和56年)。
学校が、校内暴力や非行で荒れ狂っていた時代でした。
尾木「初めて『窓ぎわのトットちゃん』を読んだのは、僕が東京都練馬区の中学校の国語の教師だったころです。僕は練馬区42中学校の非行対策委員長として非行問題に正面から取り組んでいました。音楽室を子どもが占拠してロックをかける、廊下を自転車で走る、運動場は先輩がバイクで走り回っている……そんな時代だったんです」
そんな時代に『窓ぎわのトットちゃん』が刊行されて、瞬く間に部数を伸ばしていったのでした。教育とは何かをあらためて考えるきっかけとなったのでしょう。
では、40年経った今、わたしたちは、トットちゃんからなにを学べばいいのでしょうか。
尾木「目のまえの子どもとしっかり向き合いましょう。子どもの感性や好きなことを支えて、サポートするのが学校の役割だし、親の役割です。それを突き詰めていくと、個別教育になります。
まず子どもを観察し、ありのままの姿を受け止めること。そして、子どもの話にしっかり耳を傾けること。そうすれば子どもは認められている、と安心し、伸びやかに育っていきます。
昨年からのコロナ禍で、運動会や文化祭ができない学校がたくさんありました。そんな中で見事に成功した学校は、どこも子どもに知恵を借りた学校でした。
バトンを渡すときに密になるからリレーはダメ、と言われたらバトンを2メートルの長さにして行った。玉入れは密集すると言われたので、円を描いてディスタンスをとって赤白の球を一つずつ入れるようにした。みんな、子どもたちのアイデアです。
コロナ禍で新しいものをどう創っていくのか。今は、大人たちのほうが試されている時なのかもしれませんね」
<取材を終えて>
先日、このころの教え子から『いじめにあっていたのを尾木先生に助けられました』というメールを突然もらったんです、という尾木先生。何十年も前の、担任ではないクラスの生徒さんなのに、すぐにその子のことを思い出したというのがすごい! 「とても国語のセンスのある、しなやかな感性の子でしたよ」と、うれしそうに語る尾木先生をみて、まさに子どもたちときちんと向き合っていらしたのだなと実感しました。
人気ドラマ「金八先生」の実践モデルの一人にもなったという、当時のさまざまなエピソード、またあらためてお伺いしたいと思いました。
4時間も子どもの話を聞くことはできないかもしれませんが、まずは目の前の子どもをもっと向き合おう、と思いをあらたにしたインタビューでした。
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高木 香織
出版社勤務を経て編集・文筆業。2人の娘を持つ。子育て・児童書・健康・医療の本を多く手掛ける。編集・編集協力に『美智子さま マナーとお言葉の流儀』『子どもの「学習脳」を育てる法則』(ともにこう書房)、『部活やめてもいいですか。』『頭のよい子の家にある「もの」』『モンテッソーリで解決! 子育ての悩みに今すぐ役立つQ&A68』『かみさまのおはなし』『エトワール! バレエ事典』(すべて講談社)など多数。著書に『後期高齢者医療がよくわかる』(リヨン社)、『ママが守る! 家庭の新型インフルエンザ対策』(講談社)がある。
出版社勤務を経て編集・文筆業。2人の娘を持つ。子育て・児童書・健康・医療の本を多く手掛ける。編集・編集協力に『美智子さま マナーとお言葉の流儀』『子どもの「学習脳」を育てる法則』(ともにこう書房)、『部活やめてもいいですか。』『頭のよい子の家にある「もの」』『モンテッソーリで解決! 子育ての悩みに今すぐ役立つQ&A68』『かみさまのおはなし』『エトワール! バレエ事典』(すべて講談社)など多数。著書に『後期高齢者医療がよくわかる』(リヨン社)、『ママが守る! 家庭の新型インフルエンザ対策』(講談社)がある。