15万部超え『子育てベスト100』著者が厳選 それでも読むべき子育て本 入門編
教育ジャーナリスト:加藤紀子
2020.12.25
今の時代、子育てにまつわる情報は玉石混交。親は何を信じればいいのか、迷うばかりです。そんななか、教育ジャーナリストの加藤紀子氏が厳選した有用情報のみをまとめた書籍『子育てベスト100』が15万部を超えるベストセラーになっています。
子育てについて200以上の資料を熟読したという加藤さん。あらゆる子育て本がある中で、「それでもこれは読む価値がある」と彼女が勧める本とは一体どんなものでしょう? 前編では「親になったらまずは読んでおきたい入門編5冊」をご紹介します。加藤さん自らの書き下ろしです。
イライラしたりあせったり……子育てにぐったり疲れ果てたらこの2冊!
子どもに関わる毎日は、息をつく暇もないほど忙しい。お父さん、お母さんをはじめ、そうやって子どものために日夜頑張っている人たちが、悩んだとき、不安なとき、何冊も本を読む時間がなくても、サッと開いてすぐ実践できる具体策が載っている本があったらいいな。『家庭の医学』のように、客観的で有用な情報だけを厳選して集めたら、安心して読んでもらえるんじゃないかな。『子育てベスト100』は、そんな思いから生まれた本だ。
私は、これまでの取材経験に加え、一流研究者の200以上の資料を読み漁り、「一番子どものためになること」を探した。ただ、「簡潔に」「読みやすく」を最優先にしたため、数多く当たった文献の中には、紙幅の関係で十分に紹介できなかった名著がいくつもあった。
そこで2回に分けて、私が「これだけは勧めたい」と思う子育て本を紹介してみたい。
そもそも子育てはうまくいかないことの方が圧倒的に多い。予定通り事が運ばずイライラしたり、まわりの子と比べて焦ったり、ヘトヘトになるのは体だけじゃない。
そんなとき、マッサージのように疲れた心を柔らかくほぐしてくれるのが、京大名誉教授で心理学者の河合隼雄氏と児童精神科医の佐々木正美氏の本だ。両氏とも子育てに関して多くの著書を残しているが、『Q&Aこころの子育て 誕生から思春期までの48章』(著:河合隼雄)と、『子どもの心の育てかた』(著:佐々木正美)の2冊は読みやすく、子育てで大事にしたいことを優しく伝えてくれる。
河合氏のこの本には、誕生から思春期まで、親の悩みへの回答が書かれている。
「子どもを「幸福な状態」に置くことによって親が安心しようとするのは、親の勝手というもので、子どもの幸せを中心にしていない。ほんとの幸福とは、その子が「自分の人生を生きられる」と言うことなんです」
「(早期教育について)子どものことを考えたら、六歳くらいまでは、勉強なんかより感情的なことの方がずっと大事です。長い目で見ると、それまでは自由に遊んでいるとか、好きなことやっているとかの方が、よっぽど意味があるんです。そして悲しみとか苦しみとか怒りとか喜びとか、いろいろな感情を、しっかりと自分のものとして体験することです。(…中略…)早くから子どもに勉強させるのは、親自身が安心したいからなんですよ」
といった回答の数々からは、教育熱心になるほど忘れがちな「子どもの視点」に立つことの大切さに気づかせてくれる。
佐々木氏の方は、これがラストメッセージとなった本だ。長年にわたり、子どもの心の医療に携わった佐々木氏が、子育てをめぐる環境は時代とともに変化しても、いつまでも変わらない大切なことがあると優しく語りかけている。
「子どもの言うことを、じゅうぶんに聞いてください。子どもの望むことを、惜しみなく与えてください。それだけで、子どもの心は育ちます」
「いい子にしているときにかわいがるのではなく、どんなときにも愛してあげてください。子どもは愛されることで、いい子になるのです」
「親がしてやりたいことではなく、子どもがのぞむことをできる限り叶えてやることです。子どもを心から安心させてあげること。それが結果として、子どもの自主性、主体性、豊かな感性、そして創造性の源泉になります」
など、佐々木氏の言葉は子どもの成長のあらゆる時期に何度も読み返したくなる。
親のあり方を教えてくれるシンプルな詩
また、「どんな親になったらいいのか」と迷う心を整えたいときは、22ヵ国で翻訳されているロングセラー『子どもが育つ魔法の言葉』(著:ドロシー・ロー・ノルト、レイチャル・ハリス 石井千春=訳)をお勧めしたい。詩『子は親の鏡』を1行ずつ取り上げ、ドロシー博士が詩の内容について様々な実例を紹介しながら、その言葉に込められた想いを語っている。
「認めてあげれば、子どもは、自分が好きになる」
「見つめてあげれば、子どもは、頑張り屋になる」
「不安な気持ちで育てると、子どもも不安になる」
「叱りつけてばかりいると、子どもは「自分は悪い子なんだ」と思ってしまう」……
子育てというとつい、躾やスキルといった近視眼的で見えやすいものに関心が向きがちだが、
「親は、子どもにとって、人生で最初に出会う、最も影響力のある「手本」である」
というこの詩の土台は、親が自身の日頃のふるまいをふりかえる良いきっかけになる。
子どもの学びで煮詰まったら、地球の力で鎮静
さらに、子どもの将来を心配するあまり、「あれもこれもやらせておきたい!」といろんなことを背負わせてしまい、息が詰まるようなときもあるだろう。そんな時は、『センス・オブ・ワンダー』(著:レイチェル・カーソン)を読むと、心が穏やかに鎮まってくる。
海洋生物学者だったカーソン氏は言う。
「わたしは、子どもにとっても、どのようにして子どもを教育すべきか頭をなやませている親にとっても、「知る」ことは「感じる」ことの半分も重要ではないと固く信じています」
「子どもたちがであう事実のひとつひとつが、やがて知識や知恵を生み出す種子だとしたら、さまざまな情緒やゆたかな感受性は、この種子をはぐくむ肥沃な土壌です。幼い子ども時代は、この土壌を耕すときです」
1981年~1995年生まれのミレニアル世代に続き、1996年~2012年生まれのZ世代も、自然環境に関わる取り組みに関心が高いと言われている。今後は親世代とは違った世界観が主流になっていくと考えておいていいだろう。
子どもたちが生きる未来、この地球はいったいどうなっているのだろう?
この本は、私たち親世代にそんな問いを湧き上がらせ、自然の神秘や不思議に目を見張る、子どもならではの感性の尊さを教えてくれる。
体、脳、情緒を健やかに育む食事とは?
一方、『子育てベスト100』には「体力」のセクションもあるのが大きな特徴だ。健康は子どもの成長にとっても最優先すべきなのに、残念ながらこのテーマだけで取り上げられる機会はあまり多くない。けれども専門家の間では、これこそが一番大事だと強調する人が圧倒的に多い。
『子どもがダイエットに一生悩まなくなる食事法』(著:牧野直子)によると、最近の子どもは大人と同様、スマホやタブレットのブルーライトを見ている時間が長く、本来の体内リズムのバランスを崩しやすい。そのため、肥満につながる食事のクセがついたり、生活習慣病を誘発する原因になったり、精神面で不安定になってしまうこともあるという。
この本には、年齢別で子どもに食べさせたい食材リストと1日の目安量、おやつやコンビニ、ファーストフードの食べ方のルールなど、忙しい親に役立つ知識とともに、シンプルな味付けでバランスも良く、野菜がたっぷり摂れるレシピが紹介されている。
食べることは、単なる生存のためだけではない。食材そのものの自然な味を生かし、子どものうちに味覚を豊かにすれば、脳の発達や情緒の安定につながることもぜひ知っておきたい。
〔連載第2回〕子どもの「やる気」「自立」「感情コントロール」を掘り下げた中〜上級編
PROFILE
加藤紀子(かとうのりこ)
1973年京都市生まれ。1996年東京大学経済学部卒業。国際電信電話(現KDDI)に入社。その後、渡米。帰国後は中学受験、子どものメンタル、子どもの英語教育、海外大学進学、国際バカロレア等、教育分野を中心に「プレジデントFamily」「NewsPicks」「ダイヤモンド・オンライン」「ReseMom(リセマム)」などさまざまなメディアで旺盛な取材、執筆を続けている。2020年4月『子育てベスト100 「最先端の新常識×子どもに一番大事なこと」が1冊で全部丸わかり』(ダイヤモンド社)を上梓。
一男一女の母。過去の記事はこちら→【Facebook】https://www.facebook.com/iluv97magnolia/