子どもの【発達障害】 「障害年金」親は今から準備を! 「もらえるお金・減らせる支出」 受給や請求のポイントを専門家が解説

発達障害「もらえるお金・減らせる支出」③~障害年金編~

横井 かずえ

日記、領収書…初診日の記録を探す

──万が一、保険料が未納だった場合の対応策はあるのでしょうか?

青木教授:例外として、初診日が20歳未満のケースでは、障害年金を受け取ることができます。なぜなら、年金制度は20歳以上を対象としているので、20歳未満はそもそも納付要件の対象にあたらないためです。

もしも納付要件を満たしていなくて請求ができない場合は、病院の受診記録などを確認して、20歳未満に初診日があることを証明できるものがないかどうか探してみましょう。

病院の領収書や、証拠としてのランクは下がりますが、日記などでも役立つことがあります。

──日記や領収書などの記録が大切なのですね。

青木教授:
精神科だけではなく、他の診療科のカルテが証拠となることもあります。例えば、統合失調症の人が幻聴だと気づかずに、耳の異変を感じて耳鼻科を受診していたケースなどです。

精神的な症状だと気づかずに、耳鳴りで耳鼻科を受診していた記録が初診日の認定につながったケースなどもありますから、あきらめずに根気よく証拠を集めましょう。

ひとりで記録を集めるのが難しいときは、障害年金専門の社会保険労務士(社労士)など、プロの手を借りるのもおすすめ。(写真:アフロ)
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青木教授:ひとりで記録を集めるのが難しいときは、障害年金専門の社会保険労務士(社労士)などに依頼するのもひとつの方法です。

多くの場合、かかる費用は成功報酬で障害年金の2ヵ月分程度ですから、悩んで何ヵ月も過ぎてしまうくらいならば、頼んでみるのも選択肢になります。

──「障害年金」の他に選択肢はないのでしょうか。

青木教授:
障害年金の他にも、親なき後に備えて任意で加入する「障害者扶養共済制度」があります。

親が掛け金を払うことで、万が一のときには子どもに年金が支払われる仕組みです。掛け金は所得控除になっていて税金面でも優遇されているので、興味がある人は検討してもいいでしょう。

──子どもが一生困らないために、親ができることは多そうですね。

青木教授:
私は「親亡き後」問題は「親なき後」問題と、ひらがなにすべきだと考えています。なぜなら、障害を持つ子どもが困窮するのは、何も親が死んだ後だけとは限らないからです。親が病気になった、もしくは、親子関係に問題があって頼れない、などさまざまなケースがあります。

だからこそ、親は上手に社会に頼って、自分ひとりで抱え込まずに、使えるサービスや制度を存分に活用してほしいと思います。

お金の見通しがつけば、人はちょっと安心して元気が出ます。そうすることで、不思議と自分にも周囲の人にも優しくなれるものなのです。

──まとめ──

障害年金は、発達障害の人の生活を長期的に支えるための重要な制度です。「保険料の未納を作らない」などいくつかのポイントを押さえておけば、親なき後にも安心して備えることができます。

青木先生の「親自身が制度に頼る姿勢を見せることが重要」という話は、とても印象的でした。上手に制度を使って、発達障害があっても安心してその人らしく暮らせる社会が望まれます。

青木聖久教授に教えていただく【発達障害の子どもと家族が「もらえるお金」と「減らせる支出」】連載は全3回。障害者手帳についてお聞きした第1回に続き、医療費の負担軽減制度についてお聞きした第2回に続き、最後となるこの第3回では、障害年金について詳しく紹介しました。

『発達障害・精神疾患がある子とその家族が もらえるお金・減らせる支出』(著:青木聖久、漫画:かなしろにゃんこ。)

本書では精神疾患・発達障害を抱えつつもがんばって生きている22歳くらいまでの子とその家族なら受けられる可能性のある経済的支援制度の「仕組み」や「申請方法」を紹介します。

当事者だけでなく、ソーシャルワーカー、相談員、支援員、そして医療従事者など、支援者として関わる方々にもおすすめです!

〈本書で紹介する制度〉
●障害者手帳
●特別扶養手当
 児童扶養手当
 障害児福祉手当
 特別障害者手当
 自治体が独自に支給する手当
●障害者扶養共済制度
●障害年金
●高額療養費制度
 子ども医療費助成
 自立支援医療(精神通院医療)
 自治体が独自に行っている医療費助成
●生活保護制度

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あおき きよひさ

青木 聖久

Kiyohisa Aoki
日本福祉大学 教授/博士(社会福祉学)/精神保健福祉士

1965年、兵庫県淡路島生まれ。日本福祉大学社会福祉学部を卒業(1988年)後、精神保健福祉分野のソーシャルワーカーとして、精神科病院で約14年間勤務。その後、兵庫県内の小規模作業所の所長として、4年間勤務。2006年より現任校。その傍ら社会人学生として、2004年に京都府立大学大学院福祉社会学研究科修士課程修了、2012年に龍谷大学大学院社会学研究科博士後期課程修了。 【社会的活動】 全国精神保健福祉会連合会(家族会)理事、日本精神保健福祉学会理事。2015年2月から2016年2月まで、厚生労働省年金局「精神・知的障害に係る障害年金の認定の地域差に関する専門家検討会」の委員、2015年4月から2016年3月まで、兵庫県健康福祉部「兵庫県精神保健医療体制検討委員会」の委員、2019年11月~、愛知県一宮市「一宮市障害者基本計画等策定委員会」委員(委員長)等。 【著書】 ・単著 『発達障害・精神疾患がある子とその家族が もらえるお金・減らせる支出』講談社(2024年) ・監修 『すだちとともに』世音社(2023年) ・編著 『精神・発達障害がある人の経済的支援ガイドブック』中央法規出版(2022年) ・単著 『おかあちゃん、こんな僕やけど、産んでくれてありがとう ~精神障がいがある人の家族15の軌跡』 ペンコム(2022年) ・監修/解説 『障害のある人の支援の現場探訪記』学研教育みらい(2021年)  ・共編著 『現代版 社会人のための精神保健福祉士』学文社(2020年)  ・単著 『追体験 霧晴れる時 ~今及び未来を生きる精神障がいのある人の家族15のモノガタリ』ペンコム(2019年)  ・単著 『第3版 精神保健福祉士の魅力と可能性』やどかり出版(2015年) ・単著 『精神障害者の生活支援』法律文化社(2013年)、ほか

1965年、兵庫県淡路島生まれ。日本福祉大学社会福祉学部を卒業(1988年)後、精神保健福祉分野のソーシャルワーカーとして、精神科病院で約14年間勤務。その後、兵庫県内の小規模作業所の所長として、4年間勤務。2006年より現任校。その傍ら社会人学生として、2004年に京都府立大学大学院福祉社会学研究科修士課程修了、2012年に龍谷大学大学院社会学研究科博士後期課程修了。 【社会的活動】 全国精神保健福祉会連合会(家族会)理事、日本精神保健福祉学会理事。2015年2月から2016年2月まで、厚生労働省年金局「精神・知的障害に係る障害年金の認定の地域差に関する専門家検討会」の委員、2015年4月から2016年3月まで、兵庫県健康福祉部「兵庫県精神保健医療体制検討委員会」の委員、2019年11月~、愛知県一宮市「一宮市障害者基本計画等策定委員会」委員(委員長)等。 【著書】 ・単著 『発達障害・精神疾患がある子とその家族が もらえるお金・減らせる支出』講談社(2024年) ・監修 『すだちとともに』世音社(2023年) ・編著 『精神・発達障害がある人の経済的支援ガイドブック』中央法規出版(2022年) ・単著 『おかあちゃん、こんな僕やけど、産んでくれてありがとう ~精神障がいがある人の家族15の軌跡』 ペンコム(2022年) ・監修/解説 『障害のある人の支援の現場探訪記』学研教育みらい(2021年)  ・共編著 『現代版 社会人のための精神保健福祉士』学文社(2020年)  ・単著 『追体験 霧晴れる時 ~今及び未来を生きる精神障がいのある人の家族15のモノガタリ』ペンコム(2019年)  ・単著 『第3版 精神保健福祉士の魅力と可能性』やどかり出版(2015年) ・単著 『精神障害者の生活支援』法律文化社(2013年)、ほか

よこい かずえ

横井 かずえ

Kazue Yokoi
医療ライター

医薬専門新聞『薬事日報社』で記者として13年間、医療現場や厚生労働省、日本医師会などを取材して歩く。2013年に独立。 現在は、フリーランスの医療ライターとして医師・看護師向け雑誌やウェブサイトから、一般向け健康記事まで、幅広く執筆。取材してきた医師、看護師、薬剤師は500人以上に上る。 共著:『在宅死のすすめ方 完全版 終末期医療の専門家22人に聞いてわかった痛くない、後悔しない最期』(世界文化社) URL:  https://iryowriter.com/ Twitter:@yokoik2

医薬専門新聞『薬事日報社』で記者として13年間、医療現場や厚生労働省、日本医師会などを取材して歩く。2013年に独立。 現在は、フリーランスの医療ライターとして医師・看護師向け雑誌やウェブサイトから、一般向け健康記事まで、幅広く執筆。取材してきた医師、看護師、薬剤師は500人以上に上る。 共著:『在宅死のすすめ方 完全版 終末期医療の専門家22人に聞いてわかった痛くない、後悔しない最期』(世界文化社) URL:  https://iryowriter.com/ Twitter:@yokoik2