「男子2人の働く母です。忙しい毎日の中で、自立した子どもに育てるには?」子育て相談 モンテッソーリで考えよう!

第30回

モンテッソーリで子育て支援 エンジェルズハウス研究所所長:田中 昌子

「モンテッソーリで子育て支援 エンジェルズハウス研究所」所長で、たくさんのお母さま、お父さまの相談にのってこられた田中昌子先生にお話をお伺いする連載です。今回は、二人の息子さんのいる働くお母さまからのご相談です。忙しい毎日のなかで、「早くして」が口ぐせに。子どもたちが自分でなにかをする時間をとれない、というお悩みです。
※この記事は、講談社絵本通信掲載の企画を再構成したものです。

(イメージ写真/photoAC)

忙しい毎日ですが、どうすれば自立した子どもに育つでしょうか?

5歳と2歳の男の子を保育園に預けながら仕事をしているワーキングマザーです。
なるべく身の回りのことは自分でさせようと考えながらやっています。しかし、身体のことを考えて就寝時間を決めていると、全てのことを子どものしたいようにさせることは難しく、ご飯のこと、身支度のこと、お風呂のことなど、どれを優先順位としてやらせてあげれば良いか悩みます。
自分も焦るため、教え方も雑になり、口ぐせは「早くして」になってしまいます。
自立した子どもに育ってもらうために、帰宅後の短い時間でどう優先順位をつけてやっていったら良いでしょうか? また、すべてのことにゆっくり関わらなくても、親が手伝ってあげたとしても、自立した子どもに育つのでしょうか?

2018年(平成30年)に厚生労働省が行った国民生活基礎調査によれば、働く母親の割合は、72.2パーセントとなっており、ほとんどの方が同じようなお悩みを抱えていらっしゃいます。
私の勉強会に参加されている方からも、「モンテッソーリ教育を学んで、待つことの重要性は痛いほど感じているけれど、現実の生活では時間に追われてしまい、なかなかできません」といったご相談がよく寄せられています。
多くのお母様が、子どもに対してゆったり接したい、たっぷり愛情を注いであげたいと願いながら、仕事と子育ての両方に追われて忙しく、心も体も疲れ切っていらっしゃるのが現状です。

今回は帰宅後の時間についてのご質問でしたが、恐らく朝も同じ状況なのではないかと思います。
朝晩の限られた時間では、とてもおうちでのモンテッソーリ教育などはできない、と思っていらっしゃる方もありますが、そんなことはありません。質問者さんも、自立した子どもに育てたい、そのために自分でさせようと考えている時点で、すでにモンテッソーリの理念を理解していらっしゃるといえるでしょう。
ただ、基本的な考え方と実践にあたってのポイントがありますので、そこを工夫していけば、良い方向に向かえると思います。

もしかすると、日々のさまざまなスケジュールは、今はお母様の頭の中だけにあって、ご自分だけが焦っていらっしゃるのではないでしょうか。
動くのは子ども自身です。大人が動かそうとするのではなく、子どもが自ら動くようになることこそが、自立であり自律でもあります。
ではどうしたら、お子さんが自ら動くようになるでしょうか。まず、朝起きてから出かけるまでと、夜帰宅されてから寝るまでのだいたいの時間と、その間にすることを書き出してみましょう。

5歳のお子さんが時計を読めるならば、『親子で楽しんで、驚くほど身につく! こどもせいかつ百科』の15ページのように、時計と連動させてみたり、2歳のお子さんのためには、99ページのような絵カードを作ってみたりすることで、お子さんが自分でも時間を意識し、段取りができるような工夫をしましょう。
お子さんたちと話し合いながら、楽しんでやってみてください。

また、ご飯のこと、身支度のこと、お風呂のことなどに優先順位をつけてやらせなくてはならないとお考えのようですが、日常生活のことは、どれも大切であり、欠かすことはできないものです。
1歳であっても70歳であっても、身支度をしなくてもよい、お風呂に入らなくてもよい、ということはありませんね。子どもも大人も、ごく当たり前にすることであって、優先順位はつけられません。

だからこそ、モンテッソーリ教育では、「日常生活の練習」という分野をあらゆる分野の基礎と位置づけ、さまざまな生活場面において必要な練習を繰り返しできるようにしているのです。
1歳半を過ぎたら、0歳児のように大人がすべてしてあげなければならないことは、ひとつもありません。

ただ、そのときに、子どもが全部自分でやるか、大人が全部やってしまうかという、100か0かで考えないようにしてください。どんな小さなことでも、子どもができる部分がきっとあります。それを考え、工夫してあげましょう。

今回は、私の勉強会に参加されている方の中でも、特別にお忙しいワーキングマザーの方からいただいた3つのレポートで、具体例を紹介します。
ちょうどお子さんの年齢も同じくらいの兄弟のママです。

「服や靴は自分で選ばせています。脱着も自分で行います。靴は左右が分かるように、内側に印を付けて、”星がぴったんこするように履いてね”と言っておくと、自分で確認して正しく履いています」(4歳5ヵ月   2歳 男の子の母)

勉強会で紹介している左右の識別方法。かかとのリングは引っ張りやすくするため

自由選択が出発点であることにも注目してください。
もちろん自分で選べるような環境を整えておくことも必要です。そして、ちょっとした手がかりを与えてあげることで、子ども自身が動けるようになることがわかります。

「朝も夕も気がせいていますが、靴の脱着と靴箱にしまうことは、以前から子どもを待って、自分でさせています。小さなことですが、この勉強会に参加していなければ、私が全部やっていたはずです」(4歳9ヵ月 と 2歳3ヵ月 男の子の母)

このように身支度の中でもこれだけは、というものを決め、小さなことでもそれだけは待ち、年齢が上がるに従ってできることを増やしていくのもいいアイデアです。

真剣にボタンをはめる 1歳11ヵ月

「朝、パンにジャムを塗ったり、牛乳をピッチャーに用意して、自分でコップに入れてもらったりということも、毎日はできませんが、できた後は、片付けを自主的にしてくれるなど変化を感じます。
それをわかっていても時間がなく、大人が準備してしまう日の方が多く残念ですが、我が家ではできるときにやってみるというスタンスで取り組むしかありません。100やらないより、10でも15でも取り組んだ方が、少しは子どもの糧になると信じて、のんびりやっていこうと思いました」
(4歳10ヵ月 と 2歳4ヵ月 男の子の母)


その日によって帰宅時間や忙しさも変わることでしょう。毎日完璧にさせようとイライラするよりも、これくらいの気持ちでいるほうが、お子さんにとっても良いのではないでしょうか。

そして、まとまった時間が取れる週末などには、できるだけ時間を区切らずに、心ゆくまでお子さんたちが集中して取り組める手作業を準備しましょう。時間がない平日には「雑な教え方」しかできないようでしたら、新しいことは提示せず、お休みの日に心をこめて丁寧に見せてあげましょう。
これらのレポートを書いてくださった方も、週末はお子さんたちと一緒に、洗濯物を干したり、ホットケーキやクッキーを作ったり、プランターで野菜を育てたりといったことに取り組んでいらっしゃいます。

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