親と子どもの関わりの中で育まれる子どもの社会性について研究をしている東京大学大学院教授であり、教育心理学者の遠藤利彦先生に、子どもの心に寄り添い、健やかに子どもを育むための、「褒め方・叱り方」を教えていただく本連載。
第2回は、親にとって難しい「叱る」という行為について。子どもの年齢別の対応方法について伺いました。(全5回の2回目。#1を読む)
赤ちゃんでも1回叱られた経験で学習することが可能?
――どの年齢においても、叱るという行為は、“あなたのことは大好きだけど、今やったことはダメだよ”という、全否定ではなく、部分否定で声をかけることが大切だと第1回でお話いただきました。
とはいえ、例えば赤ちゃん期(0歳〜1歳)や、イヤイヤ期(2歳~3歳)など、言葉から親の意図をしっかりと理解できない場合もあると思います。
それぞれの年齢において、効果的な叱り方、声の掛け方というのはあるのでしょうか?
遠藤利彦先生(以下遠藤先生)「一般的に親御さんが子どもを叱る必要が出てくるのは、赤ちゃんがハイハイできるようになってからと言われています。
これは、子どもが移動することができるようになり、身の回りにある危険に気がつかず近づいてしまうからです。
赤ちゃん期でいえば、危険なものに近づいたら“○◯ちゃん、危ないよ!” と、厳しい表情で大きく声をあげるだけで十分です。
真剣にお母さんが、今まで聞いたことがない大きな声で伝えるだけで、メッセージは伝わります。
実は、赤ちゃんでも、1回の経験で学習はできると言われています。
もちろん、危険なものに近づいた場合には、都度“ダメ”ということを伝える必要がありますが、一度厳しくNOを言われたことは、重要な出来事として、赤ちゃんの心に根付いているのです」
イヤイヤ期=もっと面白いものを探す自分探しの時期
――しかし赤ちゃん期を過ぎると、親御さんがとにかく手こずるイヤイヤ期がやってきます。
なにをしても「イヤ」の一点張りで、最後は親が根負けするか、余裕がない場合は無理やり子どもを言いきかせて泣かせてしまうという場面も少なくないと思います。
遠藤先生「この時期は、“Terrible Two=魔の2歳児”と言われるくらいですからね。
ただ、実はこれには理由があるんです。この時期は、子どもの認知能力が飛躍的に発達して、子どもの関心が広がります。
“あれが面白そう”、“これも楽しそう”と、子どもはたくさんのものに目を向けて、自分にとって本当に楽しいものを探しているんです。
とはいえ、まだ彼らは“これが一番好き!” ということはわからないですから、つまり、イヤイヤ期=自分探しの時期なのです。
“イヤイヤ”という反応は、“目の前にあるものより、もっと面白いものがあるかもしれない。今のこれは違うんだ”という、子どもが本当の自分の気持ちを探している現れなのです。
これを知っておくと、子どもの“イヤイヤ”という反応に対し、親御さんも少しは冷静に対応することができるかもしれませんね。
本当に手を焼く時期だとは思いますが、イヤイヤが始まってしまったら、無理やりいうことを聞かせるのではなく、親の気持ちを伝えるようにしましょう。
例えば、『汚れている靴を履いていきたい』、と言い出したら、『それは汚いからダメ!』と、伝えるのではなく、『お母さんはこっちのきれいな靴がいいな。こっちはちょっと汚れているから、靴下も汚れちゃうし履いてほしくないな』と伝えてみてはどうでしょうか」
――確かに、“自分の好き”を探す時期と考えると、親としてもイヤイヤに対する対処法が変えられるかもしれません。
とはいえ、スーパーなどで、“これが欲しい! これを買って!”と、駄々をこねて、手がつけられなくなってしまうと、さすがに親も冷静に話せなくなってしまうことがあるのですが……。
遠藤先生「そうですよね、周囲の視線も気になりますしね。
しかし同じように、“おうちにもお菓子があるし、帰って食べようね”と、毅然とした態度で冷静に気持ちを伝えて、その場から子どもを連れて離れていいと思います。
それに、イヤイヤと暴れていても、子どもはどこかで“悪いことをしたな”という気持ちを感じているはずです。
そういう子どもの感情がちゃんと芽生えていることにも、親は目を向けてあげられるといいですね」
できないことを叱るのではなく、どんな小さなことでも褒める
――4歳頃からは、いよいよ幼稚園に入ったり、子ども同士のコミュニティーもできてきたりと、他者との関わりが増えてくる時期になります。
この時はやはりお友達同士のトラブルなども増えてきて、叱る場面が増える時期でもあると思うのですが。
遠藤先生「子どもは1歳半頃から少しずつ“自己意識”という、自分自身の特徴や自分の好きなこと、嫌いなことを自分自身で自覚できるようになります。
また、3歳前後くらいからは、他の人が自分をどうやって見ているか、自分のやっていることはいいことなのか、悪いことなのか自己評価もできるようになり、ルールにも敏感になり始めます。
4、5歳の頃は、こうした一連の力がさらに飛躍的に高まり、これらに従った行動を安定してしっかりととれるようになる時期です。
だからこそ『できないのは◯◯ちゃんだけだよ』、などという言葉をかけるのは適切ではありません。
この時期の子どもは『自分だけできないことは恥ずかしい』という気持ちを感じることができるようになります。
そして、“恥ずかしい”という気持ちがあるということは、同時に“誇らしい”という気持ちも芽生えているということ。
できないことを叱るのではなく、どんな小さなことでも、出来たことを褒めてあげて、一緒に喜び、子どもたちの“誇らしい“という気持ちを育ててあげることで、“自分はできる、がんばれる”という自信がついてきます」
子どもの感情の動きに合わせた声がけによって、“叱る”ということが、成長に大きな影響を与えることがわかりました。
第3回は、お母さんたちからよく聞く、”思わず感情的に叱ってしまった”時の対処法についてお聞きします。
取材・文/知野美紀子
遠藤 利彦
東京大学大学院教育学研究科教授、同附属発達保育実践制作学センター(Cedep)センター長、心理学博士。 山形県生まれ。東京大学教育学部卒。同大学院教育学研究科博士課程単位取得後退学。 聖心女子大学文学部講師、九州大学大学院人間環境学研究院助教授、京都大学大学院教育学研究科准教授などを経て、2013年から現職。 専門は発達心理学、感情心理学、進化心理学。 NHK子育て番組「すくすく子育て」にも専門家として登場。
東京大学大学院教育学研究科教授、同附属発達保育実践制作学センター(Cedep)センター長、心理学博士。 山形県生まれ。東京大学教育学部卒。同大学院教育学研究科博士課程単位取得後退学。 聖心女子大学文学部講師、九州大学大学院人間環境学研究院助教授、京都大学大学院教育学研究科准教授などを経て、2013年から現職。 専門は発達心理学、感情心理学、進化心理学。 NHK子育て番組「すくすく子育て」にも専門家として登場。