難関中学で「食」の入試問題が増えた2つの理由 「受験食事」の専門家が「万能な食事」を解説

【子どもの学力を伸ばしたければ子どもに料理をさせなさい #1】朝ごはんと味噌汁が「最強の食材」の理由

親子で一緒に料理をすると、食への興味と探究心の両方が育つ。  写真:アフロ

近年、難関校や名門校の中学入試問題に変化が起きています。理科や社会の設問に料理や食品、食事作法、季節感、行事風習といった身近なテーマから、受験生の「考える力」を推し量る問題が増えてきているのです。

設問は、これら生活文化を家庭で経験している子どもほど、答えていくことができます。

なかでも料理は、子どもに手伝わせると時間がかかって面倒だと思われがちな家事です。しかし、煩わしく思うのは親の都合。子どもに料理を手伝わせることで得られるメリットは計り知れません。

「食」を通して子どもの興味や考える力を育てていく大切さについて、受験食事マイスターの表洋子さんにお話をうかがいます(全3回の1回目)。

◆表 洋子(おもてようこ)
料理家。受験食事マイスター。大手進学塾の食育担当として、生徒へのメニュー開発や保護者への食育アドバイスをサポートする。子どもを志望校合格へと導く、受験生家庭のための料理教室「賢母の食卓」主宰。

【子どもの学力を伸ばしたければ子どもに料理をさせなさい】の連載は、全3回。
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難関校で「食」に関する入試問題が増えた二つの理由

難関校を受験する子どもたちは、ほとんどが進学塾に通い、入試対策バッチリで試験に挑みます。もし受験生に備わった知識に差が少ないとすると、受け入れる学校側は、何を基準に入学させる子を選ぶのでしょうか。

それを示すかのように、ここ10年ほどの入試問題の傾向として「食」に関することが増えました。その理由は二つあると表さんはいいます。

「一つ目は、食事の様子を聞くことで、体作りや体調管理ができている家庭かどうか見るためです。

健康な体でいることは、成長段階の子どもにとって順調な学校生活を送るための最優先事項です。昨夏(2023年)の甲子園大会で、慶應義塾高等学校が優勝したのを意外に思った方も多いのではないでしょうか。現在は慶應のように、勉強のほかスポーツにも力を入れて、体力の強化を図る文武両道の学校も増えてきています。

入学前のお子さんは、家庭による教育の影響を大きく受けています。そこで、バランスの良い食事をしている健康体のお子さんかどうか、自分でも体調管理ができるかどうかを、学校は食に関する質問をすることで見ています。健康な体であることは、将来のリーダーを育てていく難関校において、何より重要なポイントなのです。

二つ目は、料理は科学だからです。例えば、お肉を焼いて表面が茶色くなるのは『メイラード反応』という化学反応が起きています。メイラード反応とは、食品に含まれる糖とタンパク質が加熱され、こんがりとキツネ色になる現象です。適度な焼き色は、うまみ成分や香ばしさを感じる香味成分を出すので、見た目もよく食欲が増します。

一方、温度が低いと火は通っても焼き色がつきません。このような変化や相違点に気づくと、子どもは興味を持ってもっと料理の化学的な側面を深掘りしたくなるのではないでしょうか」(表さん)

単に知識として習うだけよりも、家事の手伝いや料理をして実際に自分が関われば、子どもには「なぜ?」と興味を持つことが増えます。調べたり、誰かに聞いたりするうちに自然と知識が身につき、どうすれば欲しい情報が得られるか、手段も考えるようになるでしょう。逆に体験していないと興味を持つこと自体も限られ、考える力が育ちづらくなります。

人は一日で朝昼晩の三回、食事をします。料理は子どもに興味を持たせる「種」の宝庫です。

手伝いといっても枝豆のさやから豆を取り出すことでも、ハンバーグをこねるのでも良いでしょう。どんな手伝いでも、子どもは家族の役に立ったことに喜びを感じ、親やきょうだいに褒められればまたやろうという気持ちにもなります。たとえ失敗したとしても、どの点がいけなかったか、違う方法を次は試してみようと考えるのではないでしょうか。

家庭内で人の役に立つことが相手も自分もうれしいことだと経験した子どもは、やがてほかの人にも役に立とうと思うはずです。

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