「夕ごはんに涙が止まらない」家族の料理に苦しむママたちの“見るだけ料理教室”とは

シリーズ「賢人に学ぶ『家族のごはんがしんどい』から解放されるヒント」#2‐1 「お気軽料理サロン」主宰・本多理恵子さん~しんどさ軽減のポイント編~

「お気軽料理サロン」主宰:本多 理恵子

「Café Rietta」の入り口前に立つ本多理恵子さん。料理教室もここで行います。  写真:柏原力

「毎日の料理がしんどい」。家族のごはん作りを担っているママパパの中には、そう感じる人も少なくないでしょう。

今回お話を伺う本多理恵子さんは、鎌倉で一風変わった「お手軽料理サロン」を主宰しています。それは参加者は一切、調理しない“見学型”料理教室です。

参加者は手ぶらで訪れ、本多さんの料理工程を見るだけ。本多さんやほかの参加者と楽しくおしゃべりしているうちに料理ができあがります。あとは、おいしく食べるだけ。

2007年に教室をスタートしてから、1万3000人以上が参加するほどの人気を誇っています。

料理に関する著作も多数の本多さんですが、実は日々の料理を苦痛に感じている一人です。料理がしんどい人たちのメンタルに寄り添ってきたという本多さんに、ラクになるヒントを伺いました。

※1回目/全3回

本多理恵子PROFILE
ほんだりえこ。「お気軽料理サロン」主宰。2007年鎌倉で「Café Rietta」を開業。書籍『料理が苦痛だ』(自由国民社)で第6回料理レシピ本大賞 in Japan 料理部門【エッセイ賞】を受賞。書籍やTV出演などメディアを通じて料理をメンタル面からサポートする活動をしている。

“料理経験ほぼゼロ”なのにカフェ開業を決意

毎日のごはんの苦痛から解放される『じぶん時間』をテーマにした本多理恵子さんの料理教室は、もともとカフェ営業から始まりました。

「2007年、鎌倉に『Café Rietta(カフェ リエッタ)』というカフェを開店したのですが、人通りのまばらな住宅街ということもあり、思っていたほどお客さんが来なくて。カフェを訪れてもらうきっかけとして、見学型の料理教室を始めました」(本多さん)

現在はカフェを限定的に営業し、「お気軽料理サロン」を週3回開催しています。1回の料理教室につき6人分の料理を作り、教室がない日はメニューの改良やWeb記事に掲載する料理の撮影をしています。

このように、今でこそ料理漬けの日々を送っていますが、お子さんが生まれる前はまったく料理をしなかったそうです。

「仕事が忙しかったこともあり、外食ばかりでした。冷蔵庫の中にあるのはビールだけ(笑)。なので、料理を仕事にすると決めたときは親戚に驚かれました。ただ、実家が和菓子屋を営んでいた影響から自分で商売をするなら飲食業だと決めていました」(本多さん)

本多さんは料理を習ってカフェを開業しましたが、今も変わらず「料理は苦手だし苦痛だ」と言います。

「Café Rietta」は、旅行客で賑わう鎌倉の小町通りから1本入った落ち着いた通りにあります。  写真:柏原力

「自分と同じような悩みの仲間がいる」と感じてほしい

「毎日の料理がしんどい」側にいる本多さんの料理教室は、参加者のうち9割以上が女性です。単発のレッスンながら、リピーターも多いのが特徴です。

「ありがたいことに、エッセイ本『料理が苦痛だ』を読んで、遠方から参加してくれる方もいます。お話を聞いていると、『料理がしんどいけど、それを口に出してはいけない』『しんどいけど、毎日ごはんを作らなきゃいけない』という声が本当に多くて、みなさん1人で抱え込んでいたんだと感じました」(本多さん)

あるとき、料理教室に参加した生徒さんが、レッスンが終わるころに「夕ごはんの時間になると、涙が止まらなくなる」と打ち明けたことがあったそうです。

「その方は『作りたくないけど作らなきゃいけないし、ちゃんと家族にも食べさせないといけない。自分はなんでこんなにダメなんだろう』と追い込まれている様子でした。

ご自身の責任感の強さからくるものなのか、ご家族の期待がプレッシャーになっているのかは定かではありませんが、『では、作るのをやめましょう』と伝えました。料理はつらいならやめていいんです」(本多さん)

生徒さんからは、ほかにも「料理がマンネリ化しすぎてしまう」「買い物に行っても何を買ったらいいのかわからない」「食材を使いきれず余らせてしまう」などの声が挙がっていると言います。

「最近だと、コロナの影響でテレワークになった夫から『1時間後に昼ごはんを出してほしい』と指定され、『まるで自分が料理マシンになったよう』と嘆く方もいました。でも、基本的に生徒さんたちの悩みは、2007年に料理教室を開始してからほぼ変わっていません。

この教室に足を運んでいただくことで、そういう方たちに『自分には、こんなに仲間がいるんだ』と感じてもらえたらうれしいですね」(本多さん)

本多さんの料理教室には、北海道からの参加者もいたそうです。  写真:柏原力

料理教室は遠方からわざわざ来る人も多く、1人参加がほとんど。そこには「自分が抱える料理へのしんどさを本多さんや参加者と共有したい」という切実さがうかがえます。

家族の健康や好みを考慮しながら、毎日違うものを作る。料理が得意な人なら苦ではないかもしれませんが、そうでない人にとっては過度なプレッシャーにもなります。

本多さんの料理教室で同じようなつらさを抱えた仲間と悩みを打ち明けたり、共有したりすることで、料理で受けた苦痛も癒やされるのではないでしょうか。

「料理を分担している家庭もあると思いますが、何となく担当が決まっている家庭もあるでしょう。掃除や洗濯などのほかの家事と比べて、料理には責任や変化、スキルアップなど多くのことが求められます。

しかも、自分が体調を崩したときや家族が増えたときなど、さまざま状態に適応していかなくてはいけない。こんなに大変なことないと思いますけどね」(本多さん)

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