「ママが料理をやめるとき」 人気料理教室の主宰者が直伝する3ステップ

シリーズ「賢人に学ぶ『家族のごはんがしんどい』から解放されるヒント」#2‐3 ~料理のやめ方編~

「お気軽料理サロン」主宰:本多 理恵子

「性格的に作り置きは向いていない」と話す本多さん。できるだけ手間を省き、ラクしておいしくできるレシピを考えているそう。  写真:柏原力
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鎌倉で見学型の料理教室「お気軽料理サロン」を主宰し、1万3000人以上に料理を教えてきた本多理恵子さん。

「料理が得意じゃない派の代表」として、料理にかかる手間を省いてラクにしたり、やる気を引き出したりしてくれるようなアプローチを提示しています。

今回は、料理をいったんやめる方法について教えていただきます。

※3回目/全3回(#1#2を読む)

本多理恵子PROFILE
ほんだりえこ。「お気軽料理サロン」主宰。2007年鎌倉で「Café Rietta」を開業。書籍『料理が苦痛だ』(自由国民社)で第6回料理レシピ本大賞 in Japan 料理部門【エッセイ賞】を受賞。書籍やTV出演などメディアを通じて料理をメンタル面からサポートする活動をしている。

料理をいったんやめて つらさの原因から離れる

料理がしんどいとき、モチベーションを上げたり、手軽なレシピを活用したり、できることはいろいろあります。しかし、それだけでは解決できないほどつらくなったら、思いきって料理をやめるのも方法の一つです。

「料理をやめましょうと伝えても、『できない』という人が多いかもしれません。でもまずは、自分をつらい状況に追い込んでいる原因である料理からいったん離れることが大切です」(本多さん)

そうして自分の中にある苦痛を取り除いた上で、「これからの料理との向き合い方」を考える必要があると言います。

本多さん自身も何度か経験があるからこそ、説得力があります。

「Café Rietta」外観。周辺には観光スポットが点在しており、訪れるだけでリフレッシュできそうです。  写真:柏原力

料理のやめ方:ステップ①準備

「料理をいったんやめる」といっても、どうやめていいものか悩んでしまう人もいるでしょう。本多さんが提唱するのが、「①準備」「②決断」「③実践」の3ステップです。

「①準備」には、料理を「やめる準備」と「再開したときの準備」の2種類があり、まずは「再開したときの準備」から取りかかります。これは「家族が食べたいごはん」と「自分が作っている(作りたい)ごはん」のズレをなくす作業です。

「家族一人ひとりに『好きなもの/嫌いなもの』『家のごはんで好きなメニュー/嫌いなメニュー』『リクエストしたいメニュー』を書き出してもらい、可視化しましょう」(本多さん)

本多さんが作成した「家ご飯カルテ」とその記入例(『料理が苦痛だ』P97)

この作業の目的は、あくまでも自分と家族のズレを認識することです。本多さんが教えてくれた項目を押さえておけば、簡単に書き出しておくだけでも大丈夫です。

「料理教室の生徒さんからよく聞くのが、自分は良かれと思って出していた食材やメニューについて、家族から『じつはあまり好きじゃなかった』と言われるケースです。

私にも経験があります。食卓に春菊を出すと子どもがすすんで食べるので、てっきり好きなのかと思ってよく使っていたのですが、後になって嫌いだから先に食べていたことが判明しました。

そういう意味でも一度家族で確認しておくことが大切だと感じます」(本多さん)

家族が食べたいレシピを実際に採用するかどうかは作る人が決めればいいとのこと。家庭ごとの着地点が見つかると、料理を再開したときに「がんばって作ったのに、家族の反応がイマイチだった」とがっかりすることも少なくなりそうです。

「私が疲れたときや困ったときに助けられているしゃぶしゃぶは、家族の意向を聞いた結果、我が家の定番レシピになりました。

いろいろなものを作って出していた時期もあるのですが、家族からは、『ここまで手の込んだものを作らなくていい』と言われてしまって。

『じゃあ何がいいの?』と聞いたら、出てきた答えがしゃぶしゃぶでした。マンネリにならないよう出汁や味付けを変えながら、しゃぶしゃぶの可能性を広げています」(本多さん)

本多さんの例からも、「調理の手間」と「家族が喜んで食べるかどうか」は必ずしも比例しないことがわかります。

さらに、「家族の誰かが自分のためにごはんを作っていることを、ほかの家族が自覚できる良さもある」と本多さんは言います。

料理を仕事にしていながらも、堂々と「料理が得意じゃない派の代表」と公言する本多さん。  写真:柏原力

「料理を再開したときの準備」が終わったら、「料理をいったんやめる準備」に取りかかります。

「しばらく料理をしなくなるので、家にある食材を使い切りましょう。私の場合は、“サバイバルごはん”と称して、冷蔵庫にある野菜や、使わないまましまってあった缶詰、パックごはん、乾物などを組み合わせたレシピを考えました。キャンプ飯のような感覚で、これはこれで楽しかったですよ」(本多さん)

もし食材を使い切ることが負担になるのであれば、この工程は省いてしまっても大丈夫とのこと。重要なのは、料理を作らない期間のごはんをどうするかを決めておくことです。

「我が家は息子が18歳と大きかったので、夫と息子には、それぞれ好きなものを食べてもらいました。息子は『これ幸い』といった様子で、学校の帰りに友達とサイゼリヤに寄ることもありましたね。

小さいお子さんのいる家庭であれば、各自ですませるわけにはいかないと思います。外食や惣菜、宅配サービスの活用やお取り寄せなど、さまざまな選択肢の中から家族と話し合って決めましょう」(本多さん)

料理のやめ方:ステップ②決断

準備ができたら、次は「いつから料理をやめるか」を自分自身が決める「②決断」に進みます。

「私は、息子のお弁当が必要ないタイミングに合わせて、『○日から1週間ごはんを作りません』と家族に宣言しました。ただ、正直1週間は長すぎたので、これから計画を立てる方は3日くらいにしておくと良さそうです」(本多さん)

本多さんのご家族の反応が気になるところですが、「わかりました。じゃあ、自分で済ませてきます」とあっさりしたものだったそうです。

一方、家族が了承してくれないなどの理由で、料理をやめることが難しい人もいるでしょう。

「『出来合いのものはイヤだ』など、それぞれ食に関する価値観はあると思いますが、だからといって家族のごはんを誰か1人に担わせるのは、荷が重すぎます。

しっかりと話をして理解してもらい、『決断』した期間は家族にも協力してもらいましょう」(本多さん)

家族のごはん担当者がずっと「しんどい」と感じてきたことを、家族はちっとも気づいていなかった例もあります。

「ある生徒さんのご家族も、まったく気づいていなかったそうです。あるとき、その方が自宅のテーブルに私の本『料理が苦痛だ』を置いていたところ、『そんなに思い詰めていたのか』とご家族にすごく心配され、お寿司を食べに連れていってもらったと話していました」(本多さん)

日頃から、「今日は疲れたので夕飯が作れない」「料理がしんどい」と口にしていると、家族の協力も得やすくなりそうです。そして、ひと通りの準備を終えて、家族に伝えた日が来たら、いさぎよく料理をやめる。ここまでが「決断」です。

カフェ兼料理教室のカウンターには、本多さんの著書が並んでいます。『料理が苦痛だ』『ごはん作りの絶望に寄り添うレシピ やる気0%からの料理術』などの書名は私たちの気持ちを代弁してくれています。  写真:柏原力
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