乳幼児の入院理由1位 新生児の重症化リスクが高い「RSウイルス感染症」とは わかりやすい専門家の解説

産婦人科専門医・稲葉可奈子先生に聞く「RSウイルスワクチン」 #1 新生児の入院理由のトップを占めるRSウイルス感染症とは?

産婦人科医・「みんパピ!」代表:稲葉 可奈子

RSウイルス感染症にかかるとどのような症状がでるのでしょうか?  写真:アフロ

2024年1月、厚生労働省は日本で初めて、赤ちゃんをRSウイルスから守るための新しいワクチンを承認しました。

新たに承認されたのは、妊婦さんが接種することで赤ちゃんに抗体ができるタイプのワクチンです。RSウイルス感染症は、新生児が感染すると重症化のリスクが高く、乳幼児の入院理由の第1位にもなっています。

そこで産婦人科専門医の稲葉可奈子先生に、RSウイルス感染症とワクチンについて教えていただきました。前編ではまずRSウイルス感染症の症状や治療法についてお話しいただきます。

(全2回の前編)

稲葉可奈子(いなば・かなこ)
産婦人科専門医・医学博士。京都大医学部卒、東京大大学院博士課程修了。関東中央病院産婦人科医長。HPVワクチンの接種が進まず、多くの女性が子宮頸がんで苦しむのを見て「産婦人科医としてこのまま見過ごすことはできない」と「みんパピ!みんなで知ろうHPVプロジェクト」を設立。

2歳までにほぼ100%の子どもが感染

──RSウイルス感染症は、乳幼児の入院理由の第1位だと聞きました。そもそもRSウイルスとはどのようなウイルスなのでしょうか?

稲葉可奈子先生(以下、稲葉先生):RSウイルスとは、のどや気管支など呼吸器に感染するウイルスの一種です。ごくありふれたウイルスですが非常に感染力が強く、生後1歳までに半数以上、2歳までにほぼ100%の子どもが感染するともいわれています。

先進国では、乳幼児が入院する原因の第1位とされていて、日本でも毎年約12~14万人の2歳未満の乳幼児がRSウイルス感染症と診断され、約4人に1人は入院が必要になっています。

──つまり、毎年数万人の乳幼児が、RSウイルス感染症によって入院が必要になっているのですね。どのように感染するのですか?

稲葉先生:RSウイルス感染症は、飛沫感染と接触感染でうつります。飛沫感染は、RSウイルスに感染している人の咳やくしゃみ、会話の際に飛ぶ唾などを介した感染です。

一方で接触感染は、RSウイルスに感染している人と直接接触したり、ウイルスがついた物(ドアノブや手すり、おもちゃ、コップ等)を触ったりなめたりすることで起こります。

──感染するとどのような症状が出るのですか?

稲葉先生:RSウイルス感染症の症状は、鼻水、くしゃみ、発熱などで、これらの症状が数日間続きます。多くは軽症で自然に治っていきますが、症状が重くなると咳がひどくなったり、喘鳴(ぜいめい)といって呼吸するときにゼイゼイ音がするようになったり、呼吸困難になったりすることもあります。さらに重症化すると、気管支炎や肺炎などになります。

RSウイルスは、新生児が初めて感染したときに重症化するリスクが高くなります。  写真:アフロ

生後6ヵ月以内の赤ちゃんが感染すると重症化のリスクが

──ありふれたウイルスで何度も感染するのに、どうして大人ではRSウイルスの感染が話題になることがないのでしょうか?

稲葉先生:それは、大人は何度も感染するうちに徐々に免疫ができるため、感染しても重症化しないからです。RSウイルスは、1回かかっただけでは免疫ができません。成長する過程で何度も繰り返し感染することで、少しずつ免疫ができてくるのです。

そのため、新生児が初めて感染したときに重症化するリスクが高くなるというわけです。

とくに重症化のリスクが高いのは、生後6ヵ月以内の赤ちゃんで、一番多い発症時期は生後1~2ヵ月です。このほか早産で体が小さく生まれた赤ちゃん、2歳未満で心臓や肺の病気や神経や筋肉の病気、免疫不全の病気などを持つ子どもやダウン症の子どもなどもリスクが高いと言われています。

一方で、RSウイルス感染で入院したうちの約90%は基礎疾患のない子どもなのです。ですから、基礎疾患などがないからといって安心することはできません

──治療法はあるのですか?

稲葉先生:RSウイルス感染症は、風邪と同様で特効薬はありません。そのため、治療は基本的には症状を和らげるための対症療法が中心になります。自宅で療養する場合は安静にして水分を摂取し、鼻水や咳、高熱などの症状を和らげる治療を行います。重症化して入院した場合は、酸素を投与したり点滴をしたり、呼吸器を管理するなどの治療が中心になります。

──どうすれば予防できるのでしょうか。

稲葉先生:大人や年長の子どもなど、周囲が日頃から感染対策をすることが、赤ちゃんや低年齢の子どもを感染症から守ることにつながります。RSウイルス感染症は、大人が感染しても軽症で済むため、RSウイルスに感染していることに気づかないまま乳幼児にうつしてしまうことがあるからです。

まずは大人が普段から手指消毒や石けんでの手洗い、おもちゃなどのこまめな消毒、咳や鼻水が出るときはマスクを着用するなど感染対策を行って、RSウイルスに感染しないようにしましょう。

また、2024年1月にはRSウイルス感染を予防できるワクチンが承認されました。これは、妊婦さんが接種することで生まれてくる赤ちゃんの感染を防ぐことができる、画期的なワクチンです。

ワクチンを接種することで、入院の原因になるRSウイルス感染症の重症化リスクを約7割減らすことができるため、感染予防のためにはぜひ接種を検討してほしいと思います。

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乳幼児の入院理由のトップで、毎年数万人が入院しているRSウイルス感染症。ごくありふれたウイルスですが、新生児などが感染すると重症化のリスクが高まります。

後編では、新たに承認された、RSウイルスから赤ちゃんを守る画期的なワクチンについてと、外からは見えにくい子どもの入院時のママやパパの負担などを引き続き稲葉先生に教えていただきます。

取材・文/横井かずえ

RSウイルス感染症ワクチン記事は全2回。
後編を読む。
(※後編は2024年3月7日公開。公開日までリンク無効)

参考・引用・出展
厚生労働省 RSウイルス感染症Q&A(2024年1月15日改訂)

いなば かなこ

稲葉 可奈子

Kanako Inaba
産婦人科医・「みんパピ!」代表

産婦人科専門医・医学博士。京都大医学部卒、東京大大学院博士課程修了。関東中央病院産婦人科医長。HPVワクチンの接種が進まず、多くの女性が子宮頸がんで苦しむのを見て「産婦人科医としてこのまま見過ごすことはできない」と「みんパピ!みんなで知ろうHPVプロジェクト」を設立。産婦人科医や小児科医、公衆衛生の専門家らと正しい情報の周知活動に取り組んでいる。

産婦人科専門医・医学博士。京都大医学部卒、東京大大学院博士課程修了。関東中央病院産婦人科医長。HPVワクチンの接種が進まず、多くの女性が子宮頸がんで苦しむのを見て「産婦人科医としてこのまま見過ごすことはできない」と「みんパピ!みんなで知ろうHPVプロジェクト」を設立。産婦人科医や小児科医、公衆衛生の専門家らと正しい情報の周知活動に取り組んでいる。

よこい かずえ

横井 かずえ

Kazue Yokoi
医療ライター

医薬専門新聞『薬事日報社』で記者として13年間、医療現場や厚生労働省、日本医師会などを取材して歩く。2013年に独立。 現在は、フリーランスの医療ライターとして医師・看護師向け雑誌やウェブサイトから、一般向け健康記事まで、幅広く執筆。取材してきた医師、看護師、薬剤師は500人以上に上る。 共著:『在宅死のすすめ方 完全版 終末期医療の専門家22人に聞いてわかった痛くない、後悔しない最期』(世界文化社) URL:  https://iryowriter.com/ Twitter:@yokoik2

医薬専門新聞『薬事日報社』で記者として13年間、医療現場や厚生労働省、日本医師会などを取材して歩く。2013年に独立。 現在は、フリーランスの医療ライターとして医師・看護師向け雑誌やウェブサイトから、一般向け健康記事まで、幅広く執筆。取材してきた医師、看護師、薬剤師は500人以上に上る。 共著:『在宅死のすすめ方 完全版 終末期医療の専門家22人に聞いてわかった痛くない、後悔しない最期』(世界文化社) URL:  https://iryowriter.com/ Twitter:@yokoik2