子どもにも「漢方薬」って使える? 専門医が教える漢方の基本
知っておくと役に立つ 親子のための漢方医学レッスン #1
2023.03.07
「抑肝散」は親子で飲む漢方薬! 漢方医学は昔から親子のことを考えている医学だと知ってた?
漢方医学で使われている漢方薬は、古代中国を起源とし、5~6世紀ごろに日本にもたらされたといわれています。
「漢方医学、ひいては漢方薬は古い歴史を持っていますが、昔から親子関係に着目していることをご存知でしょうか。今から500年ほど前に子どもの夜泣きに対して使われ、現在も保険適用されている『抑肝散(よくかんさん)』という漢方薬があります。
『肝』とはいわゆる西洋医学の肝臓とは意味合いが異なります。漢方医学で用いる『肝』とは、感情や自律神経機能、眼や筋肉の機能、体内血液分布の調節など複数の機能を包含する概念です。
抑肝散が子どもの夜泣きに効果があるのは、感情のたかぶり(夜泣き)をコントロールする、肝のたかぶりを抑える作用があるからです。
抑肝散は子ども用に作られたものの、実はその原典には『母子同服(ぼしどうふく)』と書かれていて親子での服用が勧められています。
夜泣きは連日のように起こりますし、いったん始まると泣き止ませるのに苦労し、イライラも募ります。
ですから母子同服のとおりにお互いに服用して、親子ともどもたかぶりを抑えましょう、というのがこの漢方薬なんです」(草鹿砥先生)
漢方医学では先人たちの知恵や知見に従って、親子で同じ薬を服用するのはよくあることだといいます。症状を持つその人だけでなく、その周りも含めて考えてアプローチしていくという「心身一如」の哲学がここにも感じられます。
現代の親子は、お友達関係やお受験、コロナ禍による社会の変化といったようにさまざまなストレスに取り囲まれています。なかには、マイナスの状況がさらにマイナスを生み出して、お互いに悪いほうへと影響し合っているケースもありますから、母子同服は理にかなったケアともいえるでしょう。
漢方薬は西洋医学のサポート役ができる
「漢方薬には、親子関係までも鑑みたさまざまな種類の薬がありますが、万能かというとそうではありません。
同様に西洋医学も万能ではありませんが、漢方医学よりも西洋医学が優先されるべき症状や西洋医学での早急な対処が必要という病態があることは前述の通りです。
以前、大人の患者さんで漢方薬でガンに対応してほしいという方がいましたが、私は順番が違いますよ、まずは西洋医学的な治療が先ですよと伝えたことがあります」(草鹿砥先生)
家庭の方針であったり、子どものためといって漢方医学での対応を望んだとしても、医師が西洋医学的対応を重視したのなら、診療を受ける側はその判断に従うことも大切です。
「また、漢方医学は西洋医学のサポートをすることが可能な医学です。例えば西洋医学で喘息などの診断を受けた場合、メインの治療を邪魔しないような予防策的措置やフォローを漢方薬で対応することができます。
すでにかかりつけの医師で西洋医学的な診断を受けて薬を服用している場合は、漢方医学側ではそれを踏まえてサポートしますので、医師に相談してください」(草鹿砥先生)
病気によっては西洋医学的な薬と漢方薬を併用することが可能です。実際に草鹿砥先生は漢方も併用したほうがいいといった場合や、予防策として併用可能な場合は治療に取り入れていくと話します。
漢方医学は医師のアドバイスに沿って利用していけば、治療のサポートだけでなく、予防にも役立てることができるでしょう。
漢方薬の量は体重で判断 漢方医学の診療を受けるときの心構え
漢方薬は子どもだから使えないということはありません。前述したように、子どものために作られた薬もあり、母子同服を勧めている種類もあります。
では、適切な診療を受けるにはどのような心構えが必要でしょうか。
「子どもは自分で症状が説明できません。ですから、いつから子どもの体調に変化が表れたとか、普段とはどのような点が違うのかとか、西洋医学の診療を受けるときと同じように、親御さんが我が子の状況を医師に伝えてください。
また、漢方薬は子どもの体重で内服量が判断されますから、体重も伝えるといいでしょう。あるいは医師のほうから体重を聞いてくるはずです。
例えば3~4歳で体重15kg程度なら大人の1/3量、小学校高学年で35kg以上程度なら2/3量、もう少し大きくなって体重が50kgあるようなら大人と同量の服用を提案することが多くなります(※担当医の経験で若干処方量が異なることもある)。
さらに、1日に飲む回数も考慮してくれるはずです。子どもではなく華奢な女性の話にはなりますが、私は痩せている方には1日3回設定のところを1日2回の服用を指示することも多々あります。
加えて、患者さんの生活スタイルに合わせ、昼間に薬が飲めない場合は1日2回でもいいよと回数を変更することも度々です。
症状の具合や生活の状況に応じて加減をしてくれることがあるので、気になることや相談事は診療の際に医師に伝えることが大切です」(草鹿砥先生)
西洋医学のサポート的な存在として薬を併用できるだけでなく、服用する回数など柔軟性があるのが漢方医学のメリットといえるでしょう。子どもそれぞれに合った方法を考えてもらい、それを選択できるのは親としては助かります。
次回は、子どもと漢方薬との上手な付き合い方を紹介します。漢方を飲んだら子どもが薬を吐いてしまった場合の対処法や、薬局で漢方を購入するときの注意点などを解説します。
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草鹿砥 宗隆(くさかど むねたか)
小菅医院・横浜朱雀漢方医学センター勤務、現副院長。日本小児科学会専門医。日本東洋医学会漢方専門医・指導医。日本小児科医会(子どもの心相談医)、日本小児内分泌学会、日本小児東洋医学会所属。山梨医科大学小児科学講座、聖マリアンナ医科大学小児科学講座を経て、2007年から現職。東邦大学医療センター佐倉病院漢方診療科客員講師、2022年4月から横浜市金沢区の青木こどもクリニック、はまかぜこどもクリニックの非常勤医師として小児科診療に携る。5施設の保育園嘱託医。
【主な共著や監修書】
『こども漢方』(源草社)
取材・文/梶原知恵
梶原 知恵
大学で児童文学を学ぶ。出版・広告・WEB制作の総合編集プロダクション、金融経済メディア、外資系IT企業のパートナー会社勤務を経て現在に。そのなかで書籍、雑誌、企業誌、フリーペーパー、Webコンテンツといった、さまざまな媒体を経験する。 現在は育児・教育からエンタメ、医療、料理、冠婚葬祭、金融、ITシステム情報まで、各媒体の企画・編集・執筆をワンストップで手がけている。趣味は観劇。特技は長唄。着付け師でもある。
大学で児童文学を学ぶ。出版・広告・WEB制作の総合編集プロダクション、金融経済メディア、外資系IT企業のパートナー会社勤務を経て現在に。そのなかで書籍、雑誌、企業誌、フリーペーパー、Webコンテンツといった、さまざまな媒体を経験する。 現在は育児・教育からエンタメ、医療、料理、冠婚葬祭、金融、ITシステム情報まで、各媒体の企画・編集・執筆をワンストップで手がけている。趣味は観劇。特技は長唄。着付け師でもある。
草鹿砥 宗隆
小菅医院・横浜朱雀漢方医学センター勤務、現副院長。日本小児科学会専門医。日本東洋医学会漢方専門医・指導医。日本小児科医会(子どもの心相談医)、日本小児内分泌学会、日本小児東洋医学会所属。 山梨医科大学小児科学講座、聖マリアンナ医科大学小児科学講座を経て、2007年から現職。東邦大学医療センター佐倉病院漢方診療科客員講師、2022年4月から横浜市金沢区の青木こどもクリニック、はまかぜこどもクリニックの非常勤医師として小児科診療に携る。5施設の保育園嘱託医。 【主な共著や監修書】 『こども漢方』(源草社)
小菅医院・横浜朱雀漢方医学センター勤務、現副院長。日本小児科学会専門医。日本東洋医学会漢方専門医・指導医。日本小児科医会(子どもの心相談医)、日本小児内分泌学会、日本小児東洋医学会所属。 山梨医科大学小児科学講座、聖マリアンナ医科大学小児科学講座を経て、2007年から現職。東邦大学医療センター佐倉病院漢方診療科客員講師、2022年4月から横浜市金沢区の青木こどもクリニック、はまかぜこどもクリニックの非常勤医師として小児科診療に携る。5施設の保育園嘱託医。 【主な共著や監修書】 『こども漢方』(源草社)