子どもにも「漢方薬」って使える? 専門医が教える漢方の基本
知っておくと役に立つ 親子のための漢方医学レッスン #1
2023.03.07
子どもが病気になって病院で診察や治療を受ける際は、西洋医学での対応が一般的でしょう。しかし医学には東洋発祥の漢方医学があり、子どもにおいても大変有効です。
小児科専門医で漢方医学にも通じている草鹿砥宗隆(くさかどむねたか)先生は、西洋医学と漢方医学の両視点から診療にあたっています。
病気治療のひとつの選択肢として親子のための漢方医学、漢方薬との上手な付き合い方を教えていただきます(全3回の1回目)。
漢方医学は親子に寄り添った診療ができる医学
西洋医学の小児科専門医であり、漢方医学にも通じている草鹿砥先生は現在、横浜市にあるクリニックにて連日多くの患者さんの診療にあたっている医師です。
5ヵ所の保育園の嘱託医としても活躍しており、西洋医学と漢方医学の両視点からさまざまな病気にアプローチしてくれる先生として頼りにされています。
「医師としてのスタートは西洋医学です。当初は小児科専門医として大学病院などで医療活動にあたり、西洋医学的診療に邁進していました。
漢方医学の勉強を始めたのは今から16年前、漢方医学部門を持つ現在のクリニックに移ってからのことです。向学心旺盛だったのでクリニックに移るにあたって意欲的に漢方医学を学び始めました、と胸を張っていいたいところですが……。
恥ずかしながら必要に迫られて習得せざるを得なくなったというのが正直なところです。とはいえ、勉強を始めたら漢方医学にのめりこんでしまいました。
大学病院などでたくさんの子どもを診てきました。でもその中で、例えば起立性調節障害などは子どもの生活環境や家族関係、学校生活などがバックグラウンドとして関係していることが多く、それが無視できない状況を何度も経験してきました。
漢方医学には『心身一如(しんしんいちにょ)』という哲学があり、この概念が根本にあります。心身一如とは、人の心(精神)と身体はただ単に独立してはおらず、合わせて統一的な機能体として形成され、それゆえに心の不調が体の不調に、体の不調が心の不調にも関係しうるといった考え方です。
西洋医学が心と身体の関係をまったく無視しているかというとそうではありませんが、漢方医学に流れている心身一如の考え方をベースに診療をすると、これまで以上に親子に寄り添った医療活動ができると感じました。
大学病院で実践してきた医療活動の中での疑問や違和感に対する答えが、漢方医学の中にあると思えたのです」(草鹿砥先生)
時として、子どもの病気は背景こそが重要なこともあります。子育てをしている中で漢方医学に馴染みのない親子もいますが、今後のために治療のひとつの選択肢として知っておくことは有益でしょう。
証(しょう)ってナニ? もっと知りたい西洋医学と漢方医学の違い
漢方医学には「心身一如」という哲学があり、草鹿砥先生は西洋医学との違いを少し話してくれましたが、さらに次のように嚙み砕いてくれます。
「西洋医学では、まず病変部や検査異常に着目して診断病名をつけ、次いでこれに基づいて治療法を決定します(診断→治療)。診断名が同じであれば、治療方針は基本的に変わらないという世界です。
一方、漢方医学は病名よりも患者さんに表れている漢方的病態(証:しょう)を判定することに重きをおき、あえて診断というプロセスはとらずに治療法を決定します(診断≒治療)。
例えば、頭痛を訴えて来院された場合、西洋医学的には身体所見をとり、必要があれば血液尿検査をはじめ、頭部CT検査や脳波検査などを駆使して、頭痛の原因疾患を探します。
脳腫瘍があれば手術や化学療法、てんかんであれば抗けいれん剤の内服となります。検査などで判断がつかない場合は、頭痛症として鎮痛剤の処方になるでしょう。
西洋医学的対応が優先される状態は、漢方医学的管理は二の次です。ただし、鎮痛剤による対症療法がなされるだけの状況であれば、漢方医学の出番です。
漢方医学的には、その頭痛が冷えによるものなら身体を温める漢方薬を、天気に左右される頭痛は水毒(すいどく)に対する漢方薬を、月経周期・精神的ストレス・感冒などの感染症が原因であれば、それぞれの病態(証)に合わせた頭痛治療や漢方薬が選択されます。
そして基本の診察をしつつ、主要な症状である頭痛のほかに、冷えやのぼせ、耳鳴り、めまい、食欲、便通、月経、睡眠といったほかの変化にも着目します。
さらに、対人関係の悩みや忙しさといった日常生活での精神的負担についても聞いて、症状にアプローチしていきます」(草鹿砥先生)
草鹿砥先生の場合、西洋と漢方をどちらも踏まえて診ていくことができるため、実際の診療では相応しい医学を選択し、かつ患者さんのニーズに合わせた方法をとっていきます。子どもの場合は、親御さんの意見や家庭の方針も踏まえます。
病気そのものをターゲットとして治療に向き合うか、病気を持つ人全体を範囲として治療を考えていくか、両医学の特徴がわかると各家庭や子どもに合ったケアを選択していけそうです。