男の子と女の子では性被害に遭う時期が違う 小児性被害の実態と性教育の意義をふらいと先生が解説

小児科医・新生児科医の今西洋介先生に聞く「こども性暴力防止法(日本版DBS)」 #2 ~家庭でできる性教育~

小児科医・新生児科医:今西 洋介

家庭でできる性教育を改めて考えます。  写真:milatas/イメージマート
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子どもを性犯罪から守るための第一歩となる「日本版DBS」を導入するための法案が成立しました。日本版DBSの導入は、性犯罪ゼロの社会を作るための第一歩です。

一方で、性犯罪をゼロにするには、子ども自身が知識をつけて自分の身を守ることも必要です。そして、そのためには家庭における包括的性教育が欠かせません。

小児科・新生児科医の今西洋介先生に、家庭における性教育の方法や親の心構え、また男の子が性被害に遭うリスクなどについても詳しく解説していただきました。

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今西 洋介(いまにし ようすけ)
小児科医・新生児科医、小児医療ジャーナリスト。一般社団法人チャイルドリテラシー協会代表理事。SNSを駆使し、小児医療・福祉に関する課題を社会問題として社会に提起。一般の方にわかりやすく解説し、小児医療と社会をつなげるミドルマンを目指す。3姉妹の父親。

口もプライベートゾーン

──我が子を性被害から守るために、家庭でできることを教えてください。

今西洋介先生(以下:今西先生):小さいころから始める包括的性教育は、子どもが自分の身を守るための重要なステップです。知識は子どもにとって、強力な盾となるからです。それも、精子と卵子が出会って子どもができるといった昔ながらの教育だけではなく、性行為における同意教育まで含めて、早い時期から教えることが大切です。

包括的性教育は、保育園や幼稚園くらいの年齢から行うことが理想。最初のきっかけとしては、やはりプライベートゾーンやプライベートパーツについて教えることから始めるのが良いでしょう。プライベートゾーンとは、自分だけが触って良い体の場所のこと。仲が良い友達であっても、ここは簡単に触らせてはいけないということを小さいころから教えましょう。

また、水着で隠れる部分以外に、口もプライベートゾーンであると教えることが重要です。性被害ではオーラルセックスなどの被害を受けることもありますが、口がプライベートゾーンだと教えておかなければ、子どもはそれが性的に問題ある行為だと理解できないからです。

家庭では絵本を使った性教育を

──自宅で性教育と言っても、具体的に何を教えれば良いのでしょうか?

今西先生:「自宅でどのように子どもへ性教育をすればいいのか分からない」という声は講演でもよく聞きます。親世代は自分たちが性教育を受けていないので、どうしてもやり方が分からないのです。そのようなときは、本や絵本を使うのも一つの方法です。

例えば、『おうち性教育はじめます 一番やさしい!防犯・SEX・命の伝え方』(KADOKAWA)や『おしえて! くもくん  プライベートゾーンってなあに?』(東山書房)など、今は性教育に関する本が多く出ているので、子どもと一緒に、あるいはまず、親自身が読んでみると良いと思います。

性被害を否定する「親ブロック」とは?

──他に気をつけることはありますか?

今西先生:子どもが性被害を訴えた際に、親が否定してしまう『親ブロック』の問題があります。典型的なパターンとして、父親が子どもに性加害をしていた場合です。

娘がそのことを母親に伝えても「そんなことがあるはずないでしょう」と認めなかったり、信じなかったりしてしまうのです。その結果、子どもが心を閉ざしてしまって被害の発見が遅れてしまうことがあります。

母親としては、自分の夫やパートナーが子どもに性加害をしたというのが、受け入れがたいのは理解できます。しかし、子どもを守ってあげられるのは大人しかいません。子どもが被害を訴えたらそれを否定せず、ぜひともきちんと話を聞いてあげてほしいと思います。

その際には、親側から根掘り葉掘り聞かないことも大切です。質問するならば「はい」「いいえ」で答えられるクローズドクエスチョンではなく、自由に答えてもらうオープンクエスチョンがベスト。「ここを触られたの?」などと聞くと、子どもは「そこじゃない」と言って感情を閉ざしてしまうことがあるからです。

また、日常から子どもが気持ちを伝えやすい雰囲気を作り、親子の信頼関係を築くことも重要です。

男の子も性犯罪のターゲットになる

──性犯罪は、女の子だけではなく男の子が被害者になることもありますよね。

今西先生:はい、確かに男の子が被害に遭うことも少なくありません。小児性犯罪の加害者は、主に第二次性徴が始まる前の、陰毛が生えていない子どもならば性別関係なく興奮する傾向が強いからです。

男の子と女の子では、それぞれ被害に遭いやすい時期が異なります。女児は幅広い年齢で被害に遭うリスクがありますが、男児は12歳より前、陰毛などが生えるまでの時期が特にリスクが高いのです。

また、一般的に男の子のほうが性犯罪に対する防犯意識が低いため、加害者から見れば狙いやすくターゲットにしやすくなります。ですから、男の子だからといって決して安全ではないのです。

加害者の治療も必要

──性犯罪をなくすためには、性犯罪防止のための取り組みだけではなく、加害者の治療も必要だと聞きます。

今西先生:そのとおりです。性加害者は依存症になっていて、性加害をやめたくてもやめられない状態に陥っています。私は、加害者と話すことがありますが、彼らは100%に近い割合で怒っています。

なぜなら「自分と子どもは恋愛関係にあったのに、逮捕によって引き裂かれた」と思い込んでいるからです。つまり、完全に認知がゆがんでいるのです。

だからこそ、まずは認知行動療法によって治療することが必要です。一方で、治療は必要ですが、彼らを社会から排除することは逆効果です。加害者が孤独に陥って社会から断絶してしまうと、かえって性犯罪を起こしやすくなることが分かっているからです。

──すべての子どもを性犯罪から守るためにメッセージをお願いします。

今西先生:日本版DBSについてはまだまだ課題はありますが、まずはシステムができたことは大きな一歩です。そして、このシステムができたのは、子どもを守りたいというママやパパなど、世間の切実な声があったからです。子どもたちを性犯罪から守るために、私たち大人がこれからも声を上げていかなければならないと強く思っています。

───◆───◆───

子どもを性犯罪から守るためには、包括的性教育が欠かせません。女の子だけでなく男の子もリスクにさらされている現実を知り、私たち大人が積極的に声を上げ、行動し続けていくことが重要だと教えていただきました。

取材・文/横井かずえ

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いまにし ようすけ

今西 洋介

Yosuke Imanishi
小児科医・新生児科医

小児科医・新生児科医、小児医療ジャーナリスト。一般社団法人チャイルドリテラシー協会代表理事。漫画・ドラマ『コウノドリ』の取材協力医師を努めた。 NICUで新生児医療を行う傍ら、ヘルスプロモーションの会社を起業し、公衆衛生学の社会人大学院生として母親に関する疫学研究を行う。 SNSを駆使し、小児医療・福祉に関する課題を社会問題として社会に提起。一般の方にわかりやすく解説し、小児医療と社会をつなげるミドルマンを目指す。3姉妹の父親。趣味はNBA観戦。 最新著書『新生児科医・小児科医ふらいと先生の 子育て「これってほんと?」答えます』(西東社) Twitterのフォロワー数は14万人。 Twitter @doctor_nw

小児科医・新生児科医、小児医療ジャーナリスト。一般社団法人チャイルドリテラシー協会代表理事。漫画・ドラマ『コウノドリ』の取材協力医師を努めた。 NICUで新生児医療を行う傍ら、ヘルスプロモーションの会社を起業し、公衆衛生学の社会人大学院生として母親に関する疫学研究を行う。 SNSを駆使し、小児医療・福祉に関する課題を社会問題として社会に提起。一般の方にわかりやすく解説し、小児医療と社会をつなげるミドルマンを目指す。3姉妹の父親。趣味はNBA観戦。 最新著書『新生児科医・小児科医ふらいと先生の 子育て「これってほんと?」答えます』(西東社) Twitterのフォロワー数は14万人。 Twitter @doctor_nw

よこい かずえ

横井 かずえ

Kazue Yokoi
医療ライター

医薬専門新聞『薬事日報社』で記者として13年間、医療現場や厚生労働省、日本医師会などを取材して歩く。2013年に独立。 現在は、フリーランスの医療ライターとして医師・看護師向け雑誌やウェブサイトから、一般向け健康記事まで、幅広く執筆。取材してきた医師、看護師、薬剤師は500人以上に上る。 共著:『在宅死のすすめ方 完全版 終末期医療の専門家22人に聞いてわかった痛くない、後悔しない最期』(世界文化社) URL:  https://iryowriter.com/ Twitter:@yokoik2

医薬専門新聞『薬事日報社』で記者として13年間、医療現場や厚生労働省、日本医師会などを取材して歩く。2013年に独立。 現在は、フリーランスの医療ライターとして医師・看護師向け雑誌やウェブサイトから、一般向け健康記事まで、幅広く執筆。取材してきた医師、看護師、薬剤師は500人以上に上る。 共著:『在宅死のすすめ方 完全版 終末期医療の専門家22人に聞いてわかった痛くない、後悔しない最期』(世界文化社) URL:  https://iryowriter.com/ Twitter:@yokoik2