理想のマイホーム 限りある予算と床面積をどう使う? 新進気鋭の建築家が「寝室」や「和室」の正解を解説
つくるかどうか迷う「和室」 広めに設計しがちな「寝室」 広さにメリハリをつけて快適に過ごすためのアイデアを建築家が教えます〔第3回/全3回〕
2024.07.14
和室は「目的があいまい」ナンバーワン
──そして和室。我が家は客人も少ないのであえて作りませんでしたが、まだまだ悩む方も多いのではないでしょうか。
内山さん:「和室」は、ひと昔前の家にはだいたいありましたから、実家やおばあちゃん、おじいちゃんのおうちをイメージして考えると「あったほうがいいかも」と思いやすいです。
しかし、その目的を冷静に考えると、「実はそんなに必要ない」という結論にたどりつくことも多いのが実際です。よくあるのが「お客さんが来たときに使うかも」「親が泊まりに来たときに備えて」「仏壇を置くから」などです。親や友人含め、ゲストが来たときに泊まれる部屋を、との考えはよくわかりますが、実際に親が泊まりにくる機会はそんなに多くないのでは? また、泊まりがけの来客は、だいたい仲のよい友人です。フリースペースになっている場所に寝てもらってもよいのですし、何もわざわざ「和室」と名前をつけた専用の部屋をつくる必要はないのではないでしょうか。
仏壇についても同じことが言えます。今すぐ仏壇を置く必要に迫られているのであればしかるべきスペースを用意しなければなりませんが、「長男なので将来的には」「今すぐではないけど、たぶん我が家が引き取ることになると思う」などの状況であれば、今の段階でそのための部屋をつくるのはもったいないです。
また、仏壇は長く使ううちに傷んでくるのでリフォームや買い替えが必要になるアイテムです。特に、昔の家に置かれているものは、部屋の湿度状況がよくないことが多いために、仏壇の後ろがカビたり傷んだりしていることがほとんどです。将来的に引き取る際は何かしらのメンテナンスが必要になるはずです。仏壇のリフォームは非常に高額なため、買い替える選択肢が現実的ですが、その場合、今よりもコンパクトなサイズのものを選択することもありますから、今の時点でわざわざ目的があいまいな和室を用意しておく必要性はますます低くなります。
──「子ども部屋」の記事で、内山さんがおっしゃっていたフリースペースを活用する、という手もありますよね。
内山さん:そうですね。「和室」を用意するのではなく、「畳コーナー」や「畳スペース」を間取りの一角につくろうと私はよくご提案します。これならふだんはキッズスペースや収納スペースとして使うことができますし、来客があればそこで寝てもらうこともできます。いよいよ仏壇を置くタイミングがきたら、そこに置けばよいわけです。
「和室をつくらなければ……」から膨らんで、仏間、床の間と、どんどん大掛かりなものをイメージしてリクエストされる人はいまだにいらっしゃいますが、畳のスペースは最低限にしておくのをおすすめします。なんとなくつくった和室がパパさんの万年床として使われていて、なんだかなあ……といった話もちらほら耳にします。目的のない空間をつくると、そこに物を溜め込みやすいのも怖いところです。わざわざ面積を割いてつくるなら、有効活用できるスペースにしましょう。
お茶の心得があるご家族がいるなら、こちらの写真のように、いっそ「茶室」として使える和室をつくるのがいいかもしれません。
──3記事を通して、建築家・内山里江さんに“思い込んでいたマイホームの常識が間違い”ということについて、お話ししていただきました。
『家は南向きじゃなくていい』には、内山さんが持論とする「家づくりはもっと自由でいい」を実現し、「世界にひとつの理想の家」への一歩を踏み出した素敵なお家がたくさん掲載されています。これからマイホームを考える方、そしてすでにマイホームにお住まいの方にもヒントになる箇所が満載。ぜひお手に取ってみてください。
取材・文/佐々木 奈々子
×土地は正方形がいい
×窓は大きいほうがいい
×天井は高いほうがいい
×収納は多ければ多いほどいい
×廊下は絶対に必要
×トイレとお風呂は広いほうがいい
×将来のために子ども部屋はふたつ必要
×和室はとりあえず作っておく
実はこれらの「常識」は、すべて間違い。気鋭の建築家・内山里江さんと、家づくりの「間違った常識」について学んでみませんか?
内山 里江
1972年、高知県に生まれ、12歳まで愛媛県で過ごす。子どものころ、建築家・宮脇檀氏の設計で建てた父の友人の家に感動し、いつか自分も建築家になることを夢見る。山口県の工務店に勤務して実地で経験を積み、一級建築士になる。建築設計歴27年、のべ2000棟以上を設計・デザイン。「家を単なる休む場所ではなく、遊べる場所に」をモットーに、付加価値を高める設計を提案し続けている。 コモドデザイン https://comodo-design.com/
1972年、高知県に生まれ、12歳まで愛媛県で過ごす。子どものころ、建築家・宮脇檀氏の設計で建てた父の友人の家に感動し、いつか自分も建築家になることを夢見る。山口県の工務店に勤務して実地で経験を積み、一級建築士になる。建築設計歴27年、のべ2000棟以上を設計・デザイン。「家を単なる休む場所ではなく、遊べる場所に」をモットーに、付加価値を高める設計を提案し続けている。 コモドデザイン https://comodo-design.com/