理想のマイホームで後悔しない 「まずは住宅展示場」「窓がたくさん」から始まる「家づくりの罠」とは? 気鋭の建築家が解説

マイホームを考えるときの最初の一歩が間違い!? 日本人が陥りやすい家づくりの罠を気鋭の建築家に聞いた

家族を持つと、「子どもが小学校にあがる前に、家を建てたい」「同じだけの家賃を払うなら、そろそろ……」と、人生の一大イベント「家を買う」を意識し始めるタイミングが必ずある。

かく言う私も、「長子が小学校に上がる前に、実家の近くに家を建てたい!」と宣言し、何もわからない“家探し”の旅に漕ぎだした一人だ。

そして間取りを決め、外壁を決め、長い旅路の末、やっと住みだした夢のマイホーム。「何かしっくりこない」と思う部分や「ここはいらなかった……」「もっとあれが欲しかった」という箇所がちらほら。普段は「いやいや困っているほどじゃないし……」と見ないふりをしていても、同じくマイホームに引っ越した友人と話したりすると「やっぱり!?」と必ず盛り上がる失敗ポイントはいくつもある。

そんな失敗ポイントを持つ人には耳が痛い本、そして、これからマイホームを検討している人にぜひお勧めしたい一冊『家は南向きじゃなくていい』の著者、建築家の内山里江さんにお話をうかがった。


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『家は南向きじゃなくていい』著者の内山里江さんが設計した住宅。土地は正方形じゃなくても大丈夫。

「とりあえず住宅展示場」という罠

──我が家も、先生の著書にもあるように、まず足を運んだのが住宅展示場でした。知識が何もないので、「まずはたくさんの家を見てみよう」と思ったからですが、著書を拝見すると、それもあまり良くないとか……。

内山里江さん(以下 内山さん):誤解を恐れずに言うと、実はこの「とりあえず住宅展示場」が、家づくりの失敗への入り口になることがあります。

「えっ、どういうこと?」って思いますよね。「いろんな家を見られてイメージが膨らむし、複数のハウスメーカーをその場で比較検討できて便利」というのが一般的なイメージですから、無理もありません。実際、それは間違いではありません。では、何がまずいのでしょうか。

それは、「建築士としっかり意思疎通しながら家づくりを進めていく」という機会が少なくなってしまうことです。住宅展示場に出展しているのは大手のハウスメーカーばかり。建築設計事務所が出展していることはありません。つまり、住宅展示場へ行くのは「ハウスメーカーを選ぶための行為」なのです。

──「ハウスメーカー」を選んでから家を建てても良いように思うのですが、なぜそれが、理想の家づくりから離れてしまうのでしょうか。

内山さん:本来、建築士とは「家づくりのプロ」です。家にまつわるすべてを知っていないと務まりません。しかし、ハウスメーカーに所属している建築士の多くは、非常に狭い範囲でしか家づくりに携わることができません。

それは、「合理的な間取りや機能がベースになった家」を「たくさん」供給することが、市場から求められるハウスメーカーの役割だからです。ゆえに、ハウスメーカーの社員またはハウスメーカーに雇われた建築士は、「今回の建て主はどんな性格で、どんな生活を望んでいるのか」「今回の土地の周辺環境はどうなっているのか」などをふまえ、じっくりコンセプトを考えて建て主と向き合い設計する前提で仕事をしてはいないのです。

また、ハウスメーカーの建築士には若い人も多く、経験がそこまで豊富ではないケースも少なくありません。経験値の低さによる不安から、営業担当者が建て主から聞き出した「希望条件」をそっくりそのまま図面に落とし込むケースもあるようです。

たとえば「庭に面したリビングに大きな窓がほしい」と言われれば、そのとおりに描きます。たとえ、その庭ごしに隣の家から丸見え状態の環境だったとしても、です。住んだ後にカーテンを閉め切る生活になる可能性に気づいたとしても、口をつぐみます。

──道路沿いに大きな窓を付けてしまった、我が家の失敗そのままで泣けてきます。しかし「希望どおり」がこんな悲劇につながることは建て主には想像がつきません。まさに「言ってほしかった……!」のひと言ですね。

内山さん:ハウスメーカーでは、建て主は一度も建築士と会うタイミングがないこともあります。営業担当者が「部屋の数」「広さ」「オプション」などについての要望を建て主から聞き出し、建築士は建て主の「条件」をそのまま図面に反映することになります。

それは、単なるパズルのような作業にすぎず、そこにクリエイティビティや周辺環境との調和といった要素の入る余地はありません。本来であれば、「建て主の望む暮らし」というゴールに向けて、建て主の希望や土地の環境といった要素がうまく「作用」「調和」する家を創り上げるのが建築士の仕事ですが、効率と合理性を重視した家づくりのプロセスではそういったことは省略せざるをえないのです。

そのようにしてつくられた家は、往々にしてバランスを欠いたものになりがちです。「広さは?」「間取りは?」「デザインは?」「断熱性は?」「外壁は?」などの各種の要素をぶつ切りにし、それを寄せ集めた集合体になってしまうからです。しかも、そのような家がもたらす違和感や住み心地の悪さは、住んでみてからでないとわかりません。

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