「万引きされても犯人探しはしない」令和版駄菓子屋のユニーク店主とは
シリーズ「令和版駄菓子屋」#2‐1 ユニーク店主~「いぬまる商店」(福岡県北九州市)、「駄菓子屋すーさん」(愛知県津島市)~
2023.08.14
ライター:遠藤 るりこ
波瀾万丈な人生でたどり着いたこの場所
愛知県津島市にある「駄菓子屋すーさん」の店主・“すーさん”こと砂川博道(すなかわ・ひろみち)さんは、元会社員。会社員時代に離婚を経験し、借金返済や車上生活を経て、この地にたどり着いたと言います。
「大人になってからたくさん辛い経験をして、人間って簡単にひとりぼっちになってしまうことを知ったんです。そんな人生のもっともしんどい時期に思い出したのが、自分が小さなころに通っていた駄菓子屋のおばちゃんの存在でした」(砂川さん)
子どものころ、まったく勉強が全然できなくて、ちょっと変わった子だったという、すーさん。ある日、そんなすーさんを心配して、すーさんのお母さんが駄菓子屋のおばちゃんに相談をしたことがあったと言います。
「そうしたら、駄菓子屋のおばちゃんが『この子は大丈夫、な~んも心配することなんてない』って、母親に言ってくれて。そのときのあたたかい駄菓子屋の雰囲気が、僕の心にずっと残っていた。
もうあのころに戻ることはできないから、だったら次は自分が子どもたちのために、あったかい居場所を作りたいなと思ったんです」(すーさん)
そんな想いで、駄菓子屋すーさんがオープンして6年(2023年現在)。日々、いろいろな子どもたちが訪ねてきます。
「最初からあれやこれや悩みを相談してくる子はいないんです。でも、何か重いことを抱えていたり、不登校だったりって、その子を見ればすぐにわかりますよ。
そんな子には『すーさん暇人だから、話したいことあったらいつでも聞くからな』って声をかけるだけです」(すーさん)
あるときは閉店間際に名残り惜しそうにしながら、あるときはレジでお金を払いながら、ボロボロと泣き始めたり、ぽつりぽつりとその子たちなりのタイミングで話し始める子たち。コロナ禍は特に、子どもたちの抱えている悩みや不安が浮き彫りになったと言います。
「あの時期はみんなストレスがたまっていたし、いじめも増えた。家庭内の不和で逃げてくる子もいました。ここに来た子どもたちに、僕の一番伝えたいことはひとつだけ。この店では、絶対にひとりぼっちにしないからなってことです」(砂川さん)
万引きに持ち逃げ すーさんが取った行動とは
「でも、きれいごとばかりじゃないんですよ」と苦笑いをするすーさん。
「どこの店でもそうだと思うんですが、やっぱり“駄菓子屋と万引きはセット”というくらいトラブルは多い。
うちはレジを子どもたちにまかせることがあるのですが、売り上げ金をごっそり持っていかれてしまったことも。僕のやり方やこの環境が悪かったのかなと悔やみました」(すーさん)
万引きや売上の持ち逃げに悩むすーさんが取った行動は、真逆のものでした。
「子どもたちを集めて、『今日はみんなにお礼を言いたい。僕はこの店がやれて幸せだから、これからもずっと来てほしい』って。僕も一生懸命やり続けるから、みんなもこの店を一緒に守ってほしいと伝えたんです」(砂川さん)
そんな話の最中に、目に涙を溜めて何かを切り出そうとした子がいたけれど、すーさんはその子の言葉をさえぎって不問にしたと言います。
「みんながみんな、自分がここの一員だと思ってもらえたらいいなって。ある日も、僕が留守をするから子どもたちに店番を任せたんです。店に帰ったら、子どももいないし駄菓子が全然なくなっちゃって。
一瞬『わ~、まいった! 持っていかれた!?』と思ったのですが、外から子どもたちの楽しそうな声が聞こえてきて……」(砂川さん)
見ると、子どもたちはリヤカーに駄菓子を乗せて行商し、帰ってきたところでした。
「ドヤ顔で『外でいっぱい売ってきたで~』って子どもたちが帰ってきて、あのときは大笑いしましたね。うちは、やっちゃダメなことはない。約束は『自分がされて嫌なことだけはやめよう、自分で考えて』ってことだけ」(すーさん)
約束をせずとも、学校が終わるとここで集う子どもたち。朝早く店を訪れて、元気を出してから学校へ行く子。店の隅で一人、じっと時間を過ごして心を落ち着かせる子。進路に悩んだり、将来が見えなくて悶々とする子。
今日もいろいろな子どもたちを、すーさんは待ち受けます。
「いろんな子どもの話を聞いて必ず言うのは『人生、軸をつくるのが大事』ということ。どんな生き方がしたいのか、どんな人間でいたいのか、子どもたちと一緒に真剣に考えているんです」(砂川さん)
「子どもたちはいつも『ただいま~!』『今日も疲れたぁ~』なんて言いながら入ってきます。お、帰ってきたなって、僕も嬉しくなる。
子どもたちをひとりにさせない居場所ということで開いたお店ですが、結果的には僕がひとりぼっちにならないための居場所でもあった。子どもたちが僕のことを支えてくれているんだなって、日々感謝しかないですよ」(砂川さん)
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名物店主の駄菓子屋で過ごした思い出は、いつか子どもたちの人生を支えるあたたかな記憶の1ページになるかもしれません。次回は、愛知県名古屋市の「みんなで駄菓子屋(仮)」のユニーク店主・あいざわけいこさんへインタビュー。先生でも親でもない、駄菓子屋店主としての独特な距離感を見つめます。
【取材協力】
●いぬまる商店
福岡県北九州市戸畑区新川町6‐8
営業時間:14時~19時
定休日:不定休
●駄菓子屋すーさん
愛知県津島市宝町13
営業時間:昼過ぎ~暗くなるまで
定休日:水曜日
【関連URL】
●いぬまる商店Instagram
@inumarushouten
●駄菓子屋すーさんFacebook
https://www.facebook.com/dagashiyasuu
遠藤 るりこ
ライター/編集者。東京都世田谷区在住、三兄弟の母。子育てメディアにて、妊娠・出産・子育て・子どもを取り巻く社会問題についての取材・執筆を行っている。歌人・河野裕子さんの「しつかりと 飯を食はせて 陽にあてし ふとんにくるみて寝かす仕合せ」という一首が、子育てのモットー。 https://lit.link/ruricoe
ライター/編集者。東京都世田谷区在住、三兄弟の母。子育てメディアにて、妊娠・出産・子育て・子どもを取り巻く社会問題についての取材・執筆を行っている。歌人・河野裕子さんの「しつかりと 飯を食はせて 陽にあてし ふとんにくるみて寝かす仕合せ」という一首が、子育てのモットー。 https://lit.link/ruricoe