空き家物件が変身した「美大生駄菓子屋」って何? 子どもや高齢者をつなぐ場所になった理由

シリーズ「令和版駄菓子屋」#4‐2 「大学生駄菓子屋」~駄菓子屋ハブ~

ライター:遠藤 るりこ

長岡造形大の学生たちが運営する「駄菓子屋ハブ」。アートやデザインで人と人とをつなぐ、さまざまな仕掛けがある。写真は長岡造形大学3年の 大塚悠菜さん  写真提供:駄菓子屋ハブ

新潟でも有数の漁港とされる、長岡市寺泊(てらどまり)。日本海に面し、「魚のアメ横」とも称される魚の市場通りがあることで有名です。

寺泊の中でも賑わいのある“海側”エリアではなく、山を一つ隔てた“内陸側”に、2022年にオープンしたのが「駄菓子屋ハブ」。

この店の仕掛け人は、長岡造形大学造形学部で准教授を務める福本塁(ふくもと・るい)さん。実際の運営は、現役の長岡造形大の学生たちが担っています。

この店に込められた、人と人がつながる場・仕組みづくりについて聞きました。

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駄菓子屋開店に隠された3つのきっかけ

「駄菓子屋ハブは、3つのきっかけが重なったことで実現しました」と語るのは、長岡造形大学造形学部の教壇に立つ福本塁(ふくもと・るい)さんです。

「ひとつめは、僕自身、駄菓子屋が好きで当時の店の雰囲気や過ごした際の会話をよく覚えていて、いつかお店を持ちたいなと思っていたこと。

ふたつめは『衰退した地域をもう一度元気にできないか』という地方都市の課題に真正面から挑みたいと思ったことです」(福本さん)

そして、みっつめはアート・デザイン系学生ならではの困りごとです。

「教員になって間もないころ、学生たちのアトリエ清掃の風景を見て、衝撃を受けました。一生懸命に作ってきた作品を『置き場がない』、『展示する機会がない』と、壊していたのです。

仕方がない側面があることを踏まえても学生の作品は一つ一つすごく面白いのにもったいないな、世に出せない状況を少しでも打破できないか、と考えていたんです」(福本さん)

これらの課題の解決策として、学生が作品を通じて地域の人々と交流するという発想を大切にしつつ、空き家や空き地を地域交流の場に変えるMAKINDO(メイキンド)というプロジェクトを始めました。

「MAKINDOの活動は、空き地にテントを持っていったり、空き家を改装したりした場所で、学生が作品の販売、展示、ワークショップを行い、さまざまな人々と交流します。交流をきっかけに地域を知り、地域の方々と一緒に新しい活動やコミュニティが生まれることもあります。

この活動が軌道に乗って長岡駅の近くに実店舗を設けたものの、『少し手狭になったことや、何度も来てもらえる仕掛けがほしいね』と学生たちとよく話していました。そこで、何度も来ることができる駄菓子屋を一緒に作ってそこに学生作品を置こうよ、ということになったのです」(福本さん)

長岡造形大学で准教授を務める福本塁さん。専門はまちづくり、コミュニティデザイン、アートコミュニケーション、都市防災、教材開発など。  写真提供:駄菓子屋ハブ
作品の販売実践の場として、空き家や空き地を地域交流の場に変えていくMAKINDO(メイキンド)。  写真:長岡造形大学MAKINDO

土地と建物ごと買い取って改装スタート!

休日は、学生たちと釣りなどに出かけていた福本さん。長岡市内と寺泊を結ぶ道中にあった黄色い建物が、空き家バンクに登録されていることを見つけて「ここを拠点にしよう」と決意します。

その後、支援者を募り、土地と建物の取得をお願いできることに。運営を福本研究室で担い、実際の活動はMAKINDOの参加学生たちが中心となって行うことになりました。研究室がリードする、全学的なプロジェクトに発展します。

「改装前の店舗は全てVR撮影をして記録。部屋ごとの環境を測定し、日陰で気温が低いところを駄菓子ストックの置き場にしたり、暗幕を張ってヤード(作業場)にしたりしています。

建築・環境デザイン学科の学生も参加しているので、ここは彼らの専門分野を活かしてお金に頼りすぎず、直すポイントを最小限に抑えて、少ない費用で良い空間を作ることに注力しました」(福本さん)

学生たちが自ら手を動かし、店舗を作っていった。  写真提供:駄菓子屋ハブ
理容室だったころの雰囲気は残しつつ、新たな空間に生まれ変わった。  写真提供:駄菓子屋ハブ
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