100円が特別な通貨に変わる魔法の駄菓子屋 子どもの居場所以上に今、必要なものとは

シリーズ「令和版駄菓子屋」#3‐2 寄付型駄菓子屋~「まほうのだがしや チロル堂」(奈良県生駒市)~

ライター:遠藤 るりこ

チロル札にかけられた魔法とは

来店した子どもたちは、100円を片手にガチャガチャ(通称・ガチャ)の前に集まります。ガチャを回せるのは1日1回だけ。カプセルの中からは、1~3枚のチロル札が出てきます。

実際に使われているチロル札。店名が入った焼印が可愛い。  写真提供:「まほうのだがしや チロル堂」

チロル札は1枚100円分の駄菓子を買えるチロル堂での通貨として使えるほか、チロルカレーやポテトフライ、ジュースなどにも交換できます。

「ゲーム性があって、楽しいですよね。ガチャのカプセルの中に入っているチロル札は、チロル堂の中でしか使えない、魔法がかけられた通貨。日常使っているお金とチロル通貨には違う価値があるんですよ」(石田さん)

運が良く100円で2~3枚の札が出てくると、100円以上の価値になる、これがチロル堂オリジナルのうれしい魔法です。

ワクワクする仕組み作りのウラ側には、子どもたちへの想いが隠れている。  写真提供:「まほうのだがしや チロル堂」

チロル堂の飲食メニューはすべて、その金額の中に子どもへの寄付が含まれています。例えば、通常価格のカレーは500円で、チロル札1枚が付帯。そのチロル札はチロル堂に還元されます。大人がカレーを1杯食べると、チロル札1枚が寄付されるカラクリです。

「チロル札に“魔法”をかけるために必要なのは、地域の大人たち。大人たちが寄付することで、子どもたちのチロル札が増えるのです。

寄付を、私たちは“チロる”と呼んでいます。来店した大人は食事をしたりお菓子を買ったりしてチロることもできますし、お米やお酒、野菜など、物品を提供いただく形でのチロも大歓迎です」(石田さん)

1年ほど前からは、サブスクチロもスタートさせました。

「運営側からすると、やっぱり単発の寄付だけでは弱いんです。寄付は、継続してもらうことが一番ありがたい。

NetflixやApple Musicをサブスクする感覚で、毎月子どもたちのために“寄付”できる仕組みが、サブスクチロ。毎月5チロル(1チロル=100円)から受け付けています」(石田さん)

誰もがお互いを許し合う空間に

では、子どもたちにとってチロル堂はどんな居場所なのでしょう。

「学校が休みの日になると、1日に200人から300人もの子どもが訪れます。でも、こんなに多くの子どもたちがひしめき合っているのに、みんなリラックスしているんですよ」(石田さん)

駄菓子屋の奥には、キッチンに面した長いカウンターがあります。多い日には、子どもたちはカレーの順番待ちをしながら何重にも連なってカウンターに座っているといいます。

年齢も性別も、通っている学校もバラバラの、チロル堂で出会った子どもたちが“ごちゃ混ぜ”になっているのです。

日中は子どもたちがカレーを食べたり宿題をしたり。夜は大人の酒場になるカウンター。  写真提供:「まほうのだがしや チロル堂」

それは、チロル堂が「大人が子どもをジャッジしない空間だから」だと言います。

「何か問題が起こると、ついつい大人が『こうしたらええやん』とか口を出してしまうけれど、それはしない。すると子どもたちは自分で考えて、自分たちで秩序を作りはじめるんです」(石田さん)

カレーを食べながらYouTubeを見ている子どもがいても、大人はできるだけ注意をしません。

「家では絶対𠮟られますよね(笑)。でも、そういう空間だからこそ、子どもたちは自分の“許容範囲”が広がるんです。

自分がYouTubeを見ながらカレーを食べているから、宿題をしている後ろでキーボードを弾いて大声で歌う子がいても許せる。あれはダメこれもダメって、子どもも他人をジャッジしないんですよ」(石田さん)

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