探究学習を育む「Feel度Walk」 学校や自治体にも急速に広がる理由とは

【今こそ学力観のアップデートをするとき】親子で探究実践#5「問題解決に役立つFeel度Walk」

「善通寺市みりょく本づくりプロジェクト」では、小学生と大学生が一緒に「Feel度Walk」を行い、地域活性化に取り組みました。  写真:市川力

探究学習の第一人者である市川力さんが実践する、「Feel度Walk」。

身の回りを歩いてなんとなく気になるものを見つけ、それを絵に描く取り組みは、学校の授業にとどまらず、PTA活動や自治体の地域活性化などにも取り入れられるなど、実践の場が広がっています。

「Feel度Walk」をすると、発見の感度が上がるだけでなく、「ありのままの自分」を認め合えるフラットな関係が築けるため、組織の運営や新しい発想が必要となる問題解決の場にも効果を発揮しています。

実際にどんなふうに実践され、どんな効果が生まれているのでしょうか。市川さんに詳細をお聞きしました。

※全5回の第5回


◆市川 力(イチカワ チカラ)
一般社団法人みつかる+わかる代表理事/慶應義塾大学SFC研究所上席所員
東京コミュニティスクールの初代校長として、長年、小学生を対象に探究力を育む学びを研究・実践。現在は、全国各地の小・中・高校に赴き探究学習の支援をするとともに、地域の多様な人たちがともに好奇心を発揮できるような、学び場づくりを行っている。

「フラットな対話」が自然と生まれる

市川さんが実践している『Feel度Walk』(詳細は#1#2を参照)は、そこに参加した人が家族や友だちと自ら実践したり、自分が属するコミュニティや仕事の中に取り入れたりすることで、急速に広がっています。

「最初は地味に自分の周りから活動していこうというつもりでしたが、いろいろな場所で取り入れてもらって、日本全国さまざまな地域に呼んでもらえるようになりました。

地域でさまざまな人たちがつながる活動にも取り入れられる「Feel度Walk」。  写真:市川力

僕なりにその広がりの要因を考えると、『Feel度Walk』は、好奇心を再起動・再活性化して、僕たちが元から持っている発見力を磨くという効果以外にも、『安心して対話できる時間』になっていることが挙げられると思います。

歩いているとき、スケッチしているとき、それぞれの発見を発表し合うときに、すごく本音で語り合えるんですよね。

『Feel度Walk』して知図に描く、いわば『どうでもいい発見』をみんなでシェアし合う時間で、意味のあること、価値のあることを発見して発表しなくちゃいけないわけじゃないんですね。マウントをかけたり、批判をぶつけたりする必要性はないから、そんな人は誰もいないんですよ。

普段の生活の中では、大人も子どもも『本音を言える場所』がほとんどないですよね。学校や職場では、いつも『間違ったことを言わないように』とか『何か価値のある意見を言わなくちゃ』とか、自覚はしていないかもしれないですが、すごく緊張した状態を強いられています。

だけど、『Feel度Walk』のように、どんな発見もOKで、ありのままの自分がおもしろいと思ったことを語れる時間を一緒に過ごすと、普段の張り詰めた気持ちや態度が緩んでいき、本音が話せるようになるんだと思います」(市川さん)

そして、安心できる雰囲気の中では、自然と対話が行われるようになります。

「緊張感が緩むと、人間関係もフラットになるんですよね。だから、フラットな対話が必要な場所には、『Feel度Walk』はピッタリなんです。

実際に、PTA活動の一環として保護者と先生が一緒に『Feel度Walk』を行ったことで、関係性が変化し、和やかな雰囲気でありつつ、本気・本音で語り、考え合う場が生まれています。

先生と保護者は、何かと対立しがちですよね。対話をしようとしても、課題解決のためにどうしたらいいかという角度から話し合いが展開されて、『こうするべき』『それは難しい』とお互いの正義がぶつかってしまいます。

ですが、話し合う前に学校の校庭を『Feel度Walk』してみると、先生も保護者もお互いの発見を共有する『仲間』になれるんです。それで、『いや、楽しかったですね』と盛り上がり、その流れである先生が、『これを子どもと一緒にやってみたいんですけど……』という本音がポロリとこぼれる。すると、『いいじゃないですか!』『こんなふうにやったらどうですか』と保護者も先生も入り混じってアイデアを出し合う関係になれるんです。いつの間にか対話が始まっている、という具合です。

フラットに話せる関係ができただけで、その後の話し合いや組織運営は非常にスムーズになります。PTAはもちろんのこと、職員室で先生どうしがお互いを理解しあうのにも有効です。学校だけでなくいろいろな組織でコラボレーションの基盤を生み出すために応用できるので、いろいろな人たちが取り入れ始めています」(市川さん)

地域の課題解決にも効果あり

2020年から2021年にかけては、学校などで取り入れられることが多かった『Feel度Walk』ですが、昨年(2022年)以降は自治体から相談されることも増えてきました。

「香川県の善通寺市で、地域活性化の一環として、市と香川大学、図書館の運営を委託されている会社が一緒に企画した、『善通寺市みりょく本づくりプロジェクト』がありました。内容は、香川大学の学生と地域の小学生がチームになって、地域の魅力を発見して絵本(物語)を作る、というものです。その中で、街の魅力を発見する部分に『Feel度Walk』を取り入れたいということで、僕が呼ばれたんです」(市川さん)

【「善通寺市みりょく本づくりプロジェクト」とは】
地域の子どもたちがクリエイター、大学生が編集者となり、ともに善通寺市の魅力を発見し、物語を考え、絵を描くなどのプロセスを通して、世界で1冊だけの本を創り上げるプロジェクト。2022年8月から2023年2月まで行われた。

プロジェクトの初日に、大学生と小学生がペアになって歩く、『Feel度Walk』を行いました。

大学生と小学生が一緒に歩き、地域の魅力を発見していきます。  写真:市川力

「そこでの参加者の子たちの発見は、とても素晴らしかったですよ! なぜか軒先に古いランドセルがぶら下げられている家を見つけたり、総本山善通寺にある木の幹がねじれていることに気がついたり、『Feel度Walk』で歩いてみなければ、注目されないものばかりでした」(市川さん)

知図を描いたあとは、参加者で発見を共有します。  写真:市川力

この『Feel度Walk』で発見したものからアイデアを膨らませて、大学生がサポートしながら小学生は物語を考え、絵本の製本までを自分たちで行いました(全9回のプロジェクト)。できあがった絵本は、次のような作品です。

◆路地裏のランドセルなどから路地ごとの物語を紡いだ「ろじ図鑑」
◆幹のねじれた木などを題材にして、悩みを抱えた人を助ける「ねじねじの木」

プロジェクトで完成した絵本。  写真:市川力

善通寺市特有の魅力が溢れるだけでなく、子どもたちのオリジナルな視点が光る絵本が完成しました。

「他の方法で絵本作りを行ったら、恐らくみんなが知っている観光スポットや、おしゃれなカフェなんかを題材にしたものになったと思うんですよ。

でも、『Feel度Walk』をしたことで、普段からそこに住む子どもたちが、新たな視点で地域の魅力を発見することができました。さらには、それがとてもよく伝わる、すごくユニークな絵本ができて、地域の大人たちが驚きました。まさに『地域活性化』という課題に取り組む探究そのものじゃないですか。楽しみながら、小学生も大学生も共に成長し、地域の人を巻きこむ動きをみごとに作り出したんです!」(市川さん)

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