「探究実践」の達人が考えた「Feel度Walk」 30人に密着取材してわかった親子が夢中になる理由

【今こそ学力観のアップデートをするとき】親子で探究実践#2「Feel度Walkレポート」

身近な場所でも、「Feel度Walk」をしてみると新しい発見がたくさんあります。  写真:川崎ちづる
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探究学習が注目を集めるずっと以前から実践を重ねてきた市川力さん。探究的な学びで最も重要なのは、「自分ごととなるテーマや課題を設定する」ことだと話します。

しかしこれは、普段から好奇心を抑えて生活を送る私たち(子どもだけでなく大人)にとって、実はとてもハードルが高い作業です。

市川さんが実践している「Feel度Walk」では、目的なくふらふらと歩き、なんとなく気になったものを写真に撮ってスケッチします。こうした一連の行為を通して、自分の中にある好奇心が活性化し、発見の感度が上がることで、いろいろなことに興味や関心を持ったり、おもしろがったりすることができるようになります。

そして、これが「ベース」となって、自分ごととして探究ができるようになります。

とにかく楽しくて、一度体験すると家族と自発的に実践したり、再度イベントに参加したりする人が多い「Feel度Walk」。その実際の様子を、ライターがレポートします。


※全5回の第2回

◆市川 力(イチカワ チカラ)
一般社団法人みつかる+わかる代表理事/慶應義塾大学SFC研究所上席所員
東京コミュニティスクールの初代校長として、長年、小学生を対象に探究力を育む学びを研究・実践。現在は、全国各地の小・中・高校に赴き探究学習の支援をするとともに、地域の多様な人たちがともに好奇心を発揮できるような、学び場づくりを行っている。

「なんとなくセンサー」をオンにする

6月のとある週末。逗子市内の古民家に、30名ほどの親子が集まりました。

小学生の放課後の居場所、遊び場を提供する「まなび舎ボート」主催で行われた「Feel度Walk」。子どもの年齢は、幼児から小学生までさまざまです。大人もママやパパに加え、地域の人たちなど多様な顔ぶれがそろっています。その中にライターも加わり、#1で市川力さんにお聞きした「Feel度Walk」を体験しました。

会の冒頭で「Feel度Walk」について解説する市川さん。  写真:川崎ちづる

会の最初に、簡単な趣旨説明と「Feel度Walk」のやり方について、市川さんが説明します。

「こんにちは。市川力こと、『おっちゃん』です。地域の小学生からは『おっちゃん』と呼ばれていますので、今日も子どもたちは『おっちゃん』と呼んでくださいね~!

さて、今日はこれから1時間ほどただ歩いて、なんとなく気になったものを写真に撮ってもらいます。基本的に、『何かを見つけよう!』ということではありません。感覚を大切にしながら、ただちょっと変だと思ったもの、おもしろいなと感じたものを撮ってほしいんです。

『歩く』っていう漢字には、“少し”と“止まる”という字が入っていますよね。止まってばかりで少ししか進まない、とも言えます(笑)。今日はそんなふうに、少し進んでは止まり、止まっては少し歩き……を繰り返していくことになると思います。なぜ止まるのかといえば、道路にある模様とか、草とかを見逃さないためです。わざと足を止めてみる。そこから見えてくるものがありまーす。

まあ、子どもはもう、そのままで大丈夫! 放っておいても自然にできちゃうと思うんだけど、大人の方はね、あんまり難しく考えないで、まずは『なんとなく』を大切にしてみてください。『なんとなくセンサー』です!

なんとなくセンサーが働くと、意識しなくても、『あれ?』『おや?』と気づいてしまう、説明できないけど気になってしまうんです。すると、写真を撮るだけじゃなくて、触ってみたり、匂いをかいでみたりしてしまいます。『五感を働かせましょう』なんて言われなくたって、自然と体が動いちゃうんですよね。

『Feel度Walk』の心得は、“なんとなく気になったら、とりあえずバシバシ撮る”です。みなさん、楽しんでくださいね~!」(市川さん)

市川さんが話している最中、乱入してきた子どもたちとのかけ合いが始まり、とても和やかな雰囲気です。  写真:川崎ちづる

この日は、会場の古民家の周辺、近所の学校(特別に許可を取り使用)などを中心に歩くことになりました。

いよいよ『Feel度Walk』がスタート。みんな思い思いの方向に散っていきます。

「道路の側溝」で調査開始!

会場を出ると、早速すぐ前の道で、子どもと大人が数人集まっています。

賑やかにみんなで何かを話しています。  写真:川崎ちづる

近づいてみると、どうやら道路の側溝が気になるようで、上からのぞき込む子、小さな穴にスマホを入れる子など、それぞれの方法で写真を撮っています。

側溝の中が見える格子状のフタ部分を見つけ、植物が生えていることに気づいた子は、触ってみたいと思ったのか、フタを開けようと試みます。普段は道路の側溝に目を向けることのないだろう大人たちも、自然としゃがみこんで、「ここって開くのかな」「重いんじゃない?」などワイワイ話しながら協力します。

子どもだけでなく、大人も興味津々です!  写真:川崎ちづる

フタが開くと、子どもたちは「本当に外れるとは思わなかった!」と言いながら、足を入れて深さを確かめたり、どこからか木の棒を拾ってきて土に刺してみたり、真剣に調査を始めました。

「見て見て、ミミズがいる!」

ある子がそう叫ぶと、すかさず市川さんがやってきて、「えっ、側溝の土にミミズがいたの?! よく見つけたなぁ」と話しかけます。「ミミズがいるってことは、めちゃくちゃいい土だよ。野菜も育つんじゃないかなぁ。側溝の土は、今おっちゃんがめちゃくちゃ気になっていることで、研究課題の一つだから、あとでよく教えてよ。写真も撮ってね!」と言って、また別の子どものもとへ駆け寄っていきました。

足を入れた子は、「思ったより深い!」と驚いた様子です。  写真:川崎ちづる

冒頭で市川さんが説明したように、『Feel度Walk』は少し歩いては止まり、止まってはまた少し進み……を繰り返していきます。この日も、会場から2~3mの範囲だけで、いろいろな『発見』がありました。どこにでもあるような道路をただ歩くだけで盛り上がり、みんながその時間を楽しんでいました。

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