探究学習を育む「Feel度Walk」 学校や自治体にも急速に広がる理由とは

【今こそ学力観のアップデートをするとき】親子で探究実践#5「問題解決に役立つFeel度Walk」

「普通の人」に広がる「Feel度Walk」

市川さんは、こうした「Feel度Walk」の広がりを、驚きを持って受け止めていると語ります。

「僕は東京コミュニティスクール(TCS/詳細は#1を参照)で探究を実践するなかで、どうやったらもっと多くの人、『普通』の人たちにこの実践を広げられるだろう……とずっと悩んできたんです。

TCSに子どもを通わせられるのは、学費を払うことができる人に限られています。最近では、子どもに良い教育を与えるために住む場所を変える、『教育移住』を選ぶ人たちも出てきて、結局、探究のような学びは、経済的に余裕がある人しか受けられない……、そんな諦めにも似た感覚が広がっているように思います。それを何とかしたかったんです。探究って本来、もっと普通にできるし、どんな子どもにも必要な学びだと思っていましたから。

『Feel度Walk』を始める前は、探究を説明したりワークショップをやったりしても、一部の人しか響かないことが多かったんですよ。『学び』に興味のある人ばかり集まってしまい、気がつけば知り合いばかりになってしまうとか。

『Feel度Walk』を始めてみたら、あきらかにそれまでとは流れが変わりました。『探究』なんて知らない普通のお母さんだったり、あるいは普通の自治体職員だったりする人たちが参加してくれるようなって、一度参加すると、自分たちなりにやってみようと、どんどん広がっていくんです」(市川さん)

そして、「Feel度Walk」に参加する人たちの反応を見ていて、「人ってこんなに簡単に変わるんだ!」と感じていると語ります。

「今まで東京コミュニティスクールで一生懸命探究のカリキュラムも考えたし、探究実践の本も書いたし、教員研修などもしてきました。でも、何回やってもその場限りで、あんまり変わらなかったんです。

でも、『Feel度Walk』を経験すると、すぐに変わっちゃう。それは自分の中に眠っていた、すでに持っていた何かが目覚めたからだと思います。

『Feel度Walk』は、別に僕が開発した新たな手法ではなく、少し歩いてお絵描きする単純な営みの中にヒトの学びの根源がある、というところに立ち帰っただけ(笑)。ファシリテーターもいらないし、始めようと思えばすぐに、誰でもできちゃいます。

だから、これを読んでいるお父さんお母さんも、とりあえず軽い気持ちでやってみてほしいと思います。意味のある『問い』や『課題』を設定して、探究しなくちゃ! なんて焦らなくても、ただ歩いて『なんとなくセンサー』を働かせることを徹底的に面白がる。そこから新しい世界が自ずと広がっていきますよ」(市川さん)

先の見えない時代、子どもには何か確実な「生きる力」をつけてほしい。私たち保護者はそんなふうに考えて、子どもになにかを「身につけさせよう」としてしまいます。ですが、子どもにも大人にも、すでに身についている、誰でも持っている好奇心があり、それを磨いていけば、自然と発見力が育って、何ごとにも興味を持って力強く生きていくことができる。そんな姿勢を、市川さんに教えていただきました。

そして、市川さんが指摘したように、不安定な社会で生きていかなければならないのは、大人も同じです。

子どもに一方的に学びの場を用意するだけでなく、大人も一緒に、自分ごととして真剣に取り組む必要があります。ですがそれは、どこか遠くへ行って体験したり、特別なことをしたりするのではなく、身の回りをのんびり歩き、子どもも自分も縛ることのない時間を持つことで、十分できるのではないでしょうか。

取材・文 川崎ちづる

市川 力(イチカワ チカラ)
一般社団法人みつかる+わかる代表理事/慶應義塾大学SFC研究所上席所員
2004年~2017年まで、東京コミュニティスクールの初代校長として、小学生を対象に探究力を育む学びを研究・実践。現在は、全国各地の学校に赴き探究学習の支援をするとともに、地域の多様な人たちがともに好奇心を発揮できるような、学ぶ場所づくりを行っている。主な著書は『探究する力』(知の探究社)、井庭崇編『クリエイティブ・ラーニング 創造社会の学びと教育』(慶應義塾大学出版会)、『ジェネレーター 学びと活動の生成』(井庭崇氏との共著/学事出版)

『【今こそ学力観のアップデートをするとき】親子で探究実践』の連載は全5回。
#1 Feel度Walkとは?を読む。
#2 Feel度Walkレポートを読む。
#3 Feel度Walkの効果を読む。
#4 学校にも広がるFeel度Walkを読む。

25 件
かわさき ちづる

川崎 ちづる

Chizuru Kawasaki
ライター

ライター。東京都内で2人の子育て中(2014年生まれ、2019年生まれ)。環境や地域活性化関連の業務に長く携わり、その後ライターへ転身。経験を活かし、環境教育や各種オルタナティブ関連の記事などを執筆している。WEBコラムの他、環境系企業や教育機関などのPR記事も担当。

ライター。東京都内で2人の子育て中(2014年生まれ、2019年生まれ)。環境や地域活性化関連の業務に長く携わり、その後ライターへ転身。経験を活かし、環境教育や各種オルタナティブ関連の記事などを執筆している。WEBコラムの他、環境系企業や教育機関などのPR記事も担当。