運動が内面の成長も促す

田中先生:藤井さんもそうですが、この方たちに共通していることは何か、気づかれましたか?

もりたま先生:自分で考えて行動できるところとか、集中することかなと思います。

田中先生:さすがですね。それともうひとつ、謙虚さです。謙虚さや感謝の心がモンテッソーリ園では育まれるんです。心と体は切り離せないんですね。

モンテッソーリ教育では、随意(ずいい)筋肉運動といって、自分の意志通りに筋肉を動かすことで心が育ち、それを妨(さまた)げられると人格にもゆがみが出てくる、という考え方があるんですよ。

――喜友名選手は、東京オリンピックの空手形の決勝戦で勝ち、金メダルが決まったすぐあとに、畳の中央で正座して深々とお辞儀をしました。翌日のインタビューで「すべてに感謝し、尊敬の気持ちで礼をした」と答えています。幼児期に抑圧されず、心ゆくまで好きな活動をするモンテッソーリの教えが、素直な心の成長にプラスの影響をもたらしたのかもしれません。

モンテッソーリ教育の考えは「どの子どもにもあてはまり、日々の子育てにいかせる」と田中昌子先生。
写真:松井雄希

――森田先生は、お子さんたちの運動能力アップのために何かされていることがありますか? 

もりたま先生:長男を、最初は水泳に、そして今は外遊びを主にした体操教室へ通わせています。幼稚園での外遊びがちょっと少ないかなと思い、習い事でバランスを取ろうと思いまして。

自宅近くにスイミングスクールがあるので、まず水泳に通わせてみたのですが、やってみたらあまり好きではなかったようでした。それで、途中で切り替えたんです。

田中先生:楽しく通えているならいいですね。
もし、読者の方たちが子どもをスポーツや運動のクラブやチームに入れたいと考えているなら、子どもがどうしてもやりたい、というのであればよいですが、親がやらせたいとかお友だちもやっているから、という理由で始めるのはよくありません。

まずは思い通りに動かせる体、集中力や意欲といった根っこをつくることが大切なのです。

先生は子どもの成長に大きな影響を与えますから、授業料や家からの距離などよりもお人柄を最優先にしましょう。時には素晴らしい先生方に出会えることもありますよ。私の娘たちもバレエやバイオリンを習っていましたが、素晴らしい先生方でした。

ここで気をつけたいのは、「始めたらとことんやる」と思わなくていいことです。年月が経てば状況が変わることもありますから、子どもが「やめたい」と言ってきたら、よく話を聞いて、柔軟に対応してあげましょう。

――運動というのは、スポーツのことばかりではありません。日々の生活の中にも随意筋を動かす要素はたくさんあります。

もりたま先生:強制するのではなく、子どもたちの意欲や自主性を大切にしつつ、その子のちょうどいいバランスで働きかけることが大切ですね。

田中先生:大人は子どもに指図してやらせたがりますが、そうではなく、子どもが自分で選んだことに自分から関わるようにします。子どもは自分自身の成長にとって何が必要なのかをよくわかっていて、それが「お仕事」になるのです。だからこそ、自分で選びたいんです。

親は子どもをよく観察して、まずやりたい「お仕事」ができる環境を整えます。4~5歳なら、料理や掃除といった家事をまるごとまかせるのもいいですね。

たとえば、メニューを考え、買い物にいくところから、お皿を洗うところまでします。「ありがとう」という家族の一言が達成感となって、「またやろう」という気持ちも生まれますね。

卵焼き作りをして、使用後のフライパンを自分で洗う男児(4歳7ヵ月)。モンテッソーリでは、最初から最後まで責任を持つのが「お仕事」と考えられている。
写真提供:田中昌子

子どもたちの幸せのためには まず大人が幸せな日々を過ごすこと

もりたま先生:忙しいママたちにとって、新しいことを学ぶのはもしかしたら負担に思われるかもしれません。でも、学ぶことで自分を変えることができれば、少ない時間の中でも子どもと心を通わせることができたり、子育ての楽しさや感動を味わえるようになるんじゃないかな、と思うんです。

田中先生:「発想の転換」ができるかどうか、それだけなんです。モンテッソーリ教育は「子どもは私たちの先生」という考え方。普通は逆ですよね。子どもは何もできない、無力でダメな存在。だから大人が一生懸命教えなければならないと思っている。そして子どもを上から押さえつけてしまう。

でも、「子どもを素晴らしい存在」と思えると、謙虚になれます。
この「発想の転換」ができると謙虚に子どもと向き合えるし、なにより自分が楽しく幸せになれるのです。

人間は幸せになるために生まれてきました。子どもたちが幸せな人生を送るためには、まず大人自身も幸せな日々を過ごすことですね。

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これまでこの対談を3回の連載でお届けしてきました。記者にも2人の子どもがいます。田中先生と森田先生のお話を伺いながら、あれもこれもがんばらなくちゃと思っていた記者自身も、少し肩の荷を下ろして気持ちが楽になったように感じます。

これからはできるだけ「発想の転換」を試みて、穏やかな心で子どもたちを見つめ、話に耳を傾けていこうと心に誓い、ちょっぴりあたたかな気持ちに包まれています。

もりたま先生が購入したという田中昌子先生の著作『モンテッソーリで解決! 子育ての悩みに今すぐ役立つQ&A 68』と、田中昌子先生監修のロングセラー『親子で楽しんで、驚くほど身につく! こどもせいかつ百科』(ともに講談社)。

モンテッソーリ教師・田中昌子×東大医学部卒ママ医師・森田麻里子の対談は全3回です。
#1 東大卒のママ医師がひかれたモンテッソーリで一番大切にする“観察”とは?
#2 モンテッソーリ教師とママ医師が教える 赤ちゃんの夜泣きを解決する3つのコツ

16 件
たなか まさこ

田中 昌子

Masako Tanaka
モンテッソーリで子育て支援 エンジェルズハウス研究所所長

上智大学文学部卒。2女の母。日本航空株式会社勤務後、日本モンテッソーリ教育綜合研究所教師養成通信教育講座卒。同研究所認定資格取得。東京...

もりた まりこ

森田 麻里子

医師・小児睡眠コンサルタント

Child Health Laboratory代表。1987年、東京都生まれ。東京大学医学部医学科卒業。2017年に長男、2020年に...

たかぎ かおり

高木 香織

Kaori Takagi
編集者・文筆業

出版社勤務を経て編集・文筆業。2人の娘を持つ。子育て・児童書・健康・医療の本を多く手掛ける。編集・編集協力に『美智子さま マナーとお言...

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