2021.07.06

子どもの「心の動き」が分かる映画? 小津安二郎『お早よう』の効き目

#1 子どもの心を理解するために大人が観たい映画 世界の名匠・小津安二郎監督『お早よう』

大人になると、子どもが考えていることや感じていることに疎くなるもの。子どもの行動や発言が謎めいているあまり、頭の中がはてな? で埋め尽くされてしまう……なんてことも。そんなときは、映画を観て、子どもの世界に想像をめぐらせてみてはいかがでしょうか。
子どもへの理解を深めるために、大人が観るべき映画を映画評論家・前田有一さんがピックアップ。第1回は、子どもはどのようなことを楽しいと感じ、悩んでいるのか。子どもの心の動きを知ることができる映画として、小津安二郎監督の『お早よう』について解説していただきました。

『お早よう』DVD 3080円(税込)/発売販売元 松竹/ ©1959松竹株式会社 ※2021年6月8日現在の情報

戦後の庶民生活を通じて描かれる子どもたちの心模様

【あらすじ】
東京郊外のとある新興住宅地。ここに住む子どもたちの間では、「額を押されるとおならを出す」という奇妙な遊びが流行っていた。おならをするために芋をたくさん食べるなど日々努力する子どもたち。そんな彼らの最大の関心事はテレビ。林家の兄弟はある日、両親にテレビをせがむも、叱られ、ハンガーストライキとだんまりで反抗するが……。

小津監督といえば、『東京物語』、『秋刀魚の味』などの傑作で知られ、いまなお世界中に多くのファンを持つ名匠です。その小津監督が、子どもの目線に立って描いたのが1959年に公開された『お早よう』です。

「今から約60年前の映画ですが、子どもの心の動きをとても繊細に描いた名作なんですよ。ちょっとしたことで、つい子どもを怒ってしまうというお父さん、お母さんには特に観ていただきたいなぁと思っています。映画の中で特に僕が注目する3つのポイントを紹介します」

ポイント1 無邪気な子どもの姿を通して心の動きが浮き彫りに

「昭和ならではの庶民の暮らしやコミュニティを描いた映画『ALWAYS 三丁目の夕日』は、大ヒットしたことから記憶に新しい人も多いかもしれません。『お早よう』は、まさにその当時の映画、リアルな庶民生活を描いています。

昭和30年代の街が舞台で、ご近所さんとの交流や、子どもたちの姿など、当時の様子がとても伝わってきます。古い映画は苦手、という人でも、新鮮な気持ちで観ることができるのではないでしょうか。

古き良き時代の子どもたちですから、それはもう、無邪気過ぎるくらい無邪気。裏表がなく、ありのままの姿を通して、子どもたちの心の動きをしっかり感じ取ることができます。

子どもたちがどのようなことを楽しいと感じ、どのようなことで悩んでしまうのか、大人が気づきにくい部分を丁寧に描いているところが魅力です」

ポイント2 おかしくも奥深い子どもの価値観を知ることができる

「映画の中で印象的なのが、子どもたちの“おなら遊び”。物語の中では、おならを自由自在に操れると友だちから評価されるため、子どもたちの間では好きなときに好きなようにおならを出せることがステータスになります。

これははっきり言って、大人にとっては何が面白いのかさっぱり分からないですよね(笑)。実際、映画に登場する大人も“そんなバカみたいなことばっかりやって”とあきれ気味。おならばかりしているわけですから、当然ですよね。

ただ、そこで子どもは“大人だって無駄なことをしているじゃないか!” と言い返すんです。これこそ、この映画の真骨頂! 子ども目線でありながらも、ちょっとドキッとするようなセリフがをあちこちに散りばめられています。

確かに大人からすると、おなら遊びはバカバカしいかもしれませんが、子どもの世界では大切なコミュニケーションのひとつ。おならを上手に奏でることができると仲間になれたり、尊敬されたりするわけで、子どもたちにとってはそれが大事なんです。

逆に子どもからすると、大人がしていることがすごく無駄に感じられてしまうこともあるんです。例えば、“今日は天気がいいですね”というような意味のない挨拶もそのひとつ。でもこれは大人にとって言わずもがな、大切なコミュニケーションですよね。小津監督ならではのさりげないセリフが、大人と子どもの価値観の違いを気づかせてくれるんです」

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