
「かぐや姫が虫」がサブカル層に刺さる理由「10万人」が鍵「水曜どうでそうTV」T木考察!
『はらぺこあおむし』と並べて一緒にあげたい一冊? 「メインじゃなさ」が強みに (3/3) 1ページ目に戻る
2026.06.20
ライター:山本 奈緒子
さまざまな考察ができる魅力
──それが、さまざまな賞からも評価された理由だったと考えられますか?
玉木:五十嵐大介さんの絵と富安陽子さんの文という、“かけ合わせの妙”みたいなものが大きくあったのではないかと思います。絵本らしからぬ絵といい、虫設定といい、一見“奇妙”ずくめのように見えて、この絵本はどこか安心して惹かれるものがあります。
わたしは論評できるほどの知識を持ちませんが、それは、児童文学作家の富安さんが文を手がけているからだと思いました。その安心感が、物語も絵もただ“奇妙”で終わらせない説得力につながっています。『月虫の姫ぎみ』が、たくさんの人を惹きつける入り口を持つ絵本になったのは、この微妙なバランスの絵と文の力だと思います。
──たしかに、この絵本は人によってさまざまな惹かれ方をすると思います。SF的にも読めるし、はたまた民俗学的にも読めそうだし……。
玉木:自戒を込めて、わたしも「しゃらくさい考察」をしてしまいがちなんですが、とくに最近の考察文化がサブカルを支えていることは事実で、この絵本は、自身の体験に合わせてさまざまな考察的読み方ができる一冊だとも思います。
SF好きなら「“かぐや姫=宇宙人”説は考えたことがあったが、虫はなかった!」と斬新に感じるかもしれない。はたまた思春期に自分をこじらせた経験がある人は、「これは思春期の自分勝手な閉塞感を比喩的に描いている」と思うかもしれないし、自分の感情をおさえて「生き延びるために」親やパートナーに合わせているというような人は、「周囲から解放されて自分らしく生きる物語だ」ととらえるかもしれません。
人によってはフェミニズムやルッキズムの視点で読み解けるだろうし、『竹取物語』を知らない海外の人が読んだら、また全く違う見方があることでしょう。読んだ人の経験の数だけ「この奇妙な物語が言わんとしていることはコレに違いない!」という考察が生まれる。これは子どもや、子を持つ親だけでなく、サブカル好きの大人にも受ける要素だと思います。もちろん「考察」という言語化から離れて、素朴に色彩に感動したり、言葉にできない情感を受け取ったり、ということができるのも絵本の持つパワーですよね。
第1候補にはならないけど第3候補になる絵本
──つまり『月虫の姫ぎみ』はこの先、長く10万人が支持しつづけてくれる一冊になり得る、ということでしょうか?
玉木:それは何とも言えません。そもそも絵本は「親子何代も同じものを読む」というメディアで、「殿堂入り」しているような作品がたくさんある分野だと思います。長い時間をかけて愛され、不動の地位を獲得していく。外野から見ていても、その存在は強敵で、どんな作品が一定の支持を長く集めるのかは、わたしには判断つきかねるところです。
「人が最初に所有する本は、たいてい誰かからもらったものだ」ということにあるとき気づいたのですが、「衣食住」をのぞけば、「最初にふれるものが、“自分で買ったものではない”」というのは、当たり前のようでいて本の特質かもしれないですよね。
とくに、絵本は、誰かが誰かに贈ることが多い。たとえばぼくが甥っ子や姪っ子に絵本を贈るとして、『月虫の姫ぎみ』は、最初にあげる一冊には選ばないと思うんですよ。だけど3冊プレゼントするなら、その中の1冊に入れようかなと思うかもしれない。
ある意味では、この「メインじゃなさ」がこの絵本の強みかもしれませんね。『はらぺこあおむし』と並べて一緒にあげたい一冊ということです。どちらの「虫」がその子に刺さるかは、誰にもわからない。そんなふうに第3候補ぐらいになる絵本がたくさんある社会だったらいいな、というのがサブカル好きな一人の大人として思うところです。
玉木青
1991年生まれ、京都府出身。大学時代に学生劇団を旗揚げ。卒業後は出版社勤務を経て、『水曜どうでしょう』ディレクターとのイベント開催や、コンテンツ配信などを手がける。また2023年より株式会社ほぼ日の乗組員として、映像コンテンツの制作も担当している。
『月虫の姫ぎみ』
講談社刊 定価:本体1700円(税別)
『シノダ!』シリーズの富安陽子が文を、『海獣の子供』の五十嵐大介が絵を描く、新感覚おとぎ話。奇跡のタッグが生んだ妖しくも甘美な変身譚!




































山本 奈緒子
1972年生まれ。愛媛県出身。放送局勤務を経てフリーライターに。 『ViVi』や『VOCE』といった女性誌の他、週刊誌や新聞、WEBマガジンで、 インタビュー、女性の生き方、また様々な流行事象分析など、 主に“読み物”と言われる分野の記事を手掛ける。
1972年生まれ。愛媛県出身。放送局勤務を経てフリーライターに。 『ViVi』や『VOCE』といった女性誌の他、週刊誌や新聞、WEBマガジンで、 インタビュー、女性の生き方、また様々な流行事象分析など、 主に“読み物”と言われる分野の記事を手掛ける。