【発達障害・発達特性のある子】の癇癪 〈かんしゃく〉への対策 「療育の専門家」がわかりやく解説

#9 子どもの癇癪への対応は?〔言語聴覚士/社会福祉士:原哲也先生からの回答〕

一般社団法人WAKUWAKU PROJECT JAPAN代表・言語聴覚士・社会福祉士:原 哲也

発達障害の特性のある子どもの癇癪と対策

発達障害の特性のある子どもの癇癪は、定型発達の子どもの癇癪とはまた異なる対策が必要になります。

発達障害の特性のある子どもの場合、癇癪の原因になることがとても多いため、頻繁に癇癪を起こしますし、また、その程度も非常に激しいことが多いです。そして一度癇癪を起こすとおさめるのに時間がかかります。

また、度々癇癪を起こしているとそのたびに脳も身体も興奮状態になってしまいますし、同じ状況になると癇癪を起こすようになってしまう、周囲の子どもや支援者に「癇癪を起こす子」というイメージが固定化されてしまうといった恐れがあります。

そのため、まず、できるだけ癇癪を起こさせないことを考えます。

◆生理的な理由による癇癪
発達障害特性のある子の場合、睡眠の乱れ、偏食、感覚過敏、集団に入ることのストレスによる疲労など、癇癪の引き金になる生理的な不快が多くあります。

対策:感覚過敏は他人にはその不快さがわかりにくいものですが、子どもの様子をよく観察して、何が嫌なのかを見極め、ストレスの原因をできる限り取り除きます。

例えば、聴覚過敏で椅子の脚が床に擦れる音が嫌だとしたら、防音シートを貼るなどの工夫をします。睡眠を整えることもとても大事な対応です。生理的な不快によるストレスをできるだけ取り除いて安心して生活できるようにすることで癇癪を予防します。

◆要求や拒否などの目的が果たせないことによる癇癪 その原因と対策
●こだわり
自閉症スペクトラム障害の子どもは多くのこだわりがあって、こだわりが通らないと癇癪を起こすことがあります。経済的、時間的に過大な負担が生じたり、周りの人に迷惑がかかるこだわりはやめてもらわなくてはなりませんが、そうでないならば、奇妙に思えても基本的には受け入れ、軋轢が生じないようにします。

●予想が立てられるようにする
この次どうなるかが予想できないと子どもは不安になり、ちょっとしたことで癇癪を起こすことがあります。そうならないためには、視覚的支援などその子のわかる方法で、「この次どうなる?」を示して安心できるようにします。

●「想像と違う」に対応する
想像と違う事態(ゲームで負けた、積んでいた積み木が倒れた、担当の先生がいつもと違うなど)は発達障害の特性のある子どもにとって非常に大きなストレスであり、想像と違うことが起きたことがきっかけで癇癪を起こすことがよくあります。

あり得る事態を事前に伝えることで、できるだけ「想像と違う」ことが起きないようにします。ゲームならば始める前に「負けることがあるけどいい?」と伝えたり、勝ったときの喜び方、負けたときの残念がり方を事前に練習するなどが効果があることがあります。積み木でも「高くなったら崩れちゃうことはあるよ」と伝えることはできます。担当の先生の変更も、事前に伝えておくことで「想像と違う」にならないようにします。

●要求や拒否を表現できるようにする
発達障害の特性のある子どもは、ことばでの表現がうまくできないために、要求や拒否、もしくは注目してほしいときに癇癪を起こすことがあります。

癇癪以外に、要求、拒否、注目を主張する手段がないということです。それならば、癇癪の代わりに、その子が要求、拒否、注目を伝えられる何らかの手段を持てるようにしましょう。例えば、手でバツを作って拒否を伝える、写真・イラストを用意して飲み物がほしいときは飲み物を指さす、注目してほしいときは大人の上着の裾をひっぱる、などです。

●理由を添えてルールを伝える
ルールがあること自体がわかっていないために、しようとしたことを止められて癇癪が起きることがあります。ルールがわかると癇癪が減じることもありますので、子どもがわかる方法で、理由を添えながらルールを伝えましょう。

例えば、「これは危ない(もしくはとても大切)なので触りません」「危ないものや大切なものを触ったら、それを返してもらいます」などです。

●周囲の関わり方を振り返る
子どもに合わない関わり方をしていると、それがストレスになることもあります。子どもとの関わり方を点検することも、癇癪への対策のひとつです。

●癇癪を起こしたときの対応
その子の嫌な刺激があることがわかっているときは、癇癪を想定して癇癪が起きたらどうするかを考えておきます。激しい癇癪で他児に暴力をふるったり物を壊したりしそうなときは、それらへの配慮も必要です。パニック状態からクールダウンできるようなスペースを用意するのもよい方法です。

◆自己制御の力の未熟さによって起こる癇癪
発達障害の特性のある子どもは特性による対人関係の難しさを含めた、生活のしにくさから、常にストレスにさらされています。彼らの怒りや不満や不安やストレスは、定型発達の子どもに比べてはるかに大きいのです。

このようなストレスフルな環境では脳は常に危険信号を出し続けている、いわば戦場にいるような状態にあるわけです。それでも自己制御の力が育っていれば、癇癪を起こさないように感情の調整ができます。

自己制御の力は、さまざまな場面で、周囲の人とのやりとりの中で自分の感情を調整する経験を積み上げることで育つものです。しかし、発達障害の特性のある子の場合、人と関わり、やりとりをする経験が少なく、その結果、自己制御の力が未熟なことが多いのです。そのため、感情の調整ができずに、癇癪を起こしてしまうのです。

●自己制御の力を育てるための対応
まず、子どもの周りにあるストレスが少なくなるように周囲が工夫し、少しでも子どもが安心できる、穏やかな気持ちでいられる場面を作ることが先決です。そして、楽しく遊んだり、人と関わるうちに不快な感情を調整する経験を積む中で、少しずつ自己制御の力をつけていきます。自己制御の力がついてくることで、ストレスがかかっても癇癪に至らず感情調整ができるようになります。自己制御の力の獲得は時間を必要としますが、根気強く取り組んでいきたいです。

最後に

一定年齢以上の子どもでは癇癪は、子どもの好奇心や自己主張が育つことによって起きてきます。成長しているからこそ癇癪が起きるとも言えるのです。そのことを頭においてやみくもに怒らずに、丁寧にゆったりと対応していきましょう。

ただ、発達障害の特性のある子の場合は、状況がかなり異なります。彼らの生活には癇癪の引き金になるものが多く、放っておいては癇癪を起こしてばかり、ということになりかねません。できるだけの対策をすることで、できるだけ早く、癇癪を起こさずにいられるようにしてあげることが最優先になります。

癇癪を起こしている時間は、子ども本人も見守る保護者も「楽しくない」時間です。癇癪が減って穏やかに毎日を過ごせるように、できることから対策を講じていきましょう。

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今回は、子どもの癇癪についての対応のしかた、とくに、発達障害の特性のある子の癇癪の原因と対策について、原哲也先生にくわしく解説していただきました。癇癪は、子どもの成長の証でもあるけれど、発達障害の特性のある子の場合、起こさせないよう周囲の大人が根気強く配慮していくことが大切だということを教えていただきました。

次回以降も原哲也先生が「発達障害・発達特性のある子」の子育てのお悩みにお答えしていきます。

原哲也
一般社団法人WAKUWAKU PROJECT JAPAN代表理事・言語聴覚士・社会福祉士。
1966年生まれ、明治学院大学社会学部福祉学科卒業後、国立身体障害者リハビリテーションセンター学院・聴能言語専門職員養成課程修了。カナダ、東京、長野の障害児施設などで勤務。

2015年10月に、「発達障害のある子の家族を幸せにする」ことを志し、長野県諏訪市に、一般社団法人WAKUWAKU PROJECT JAPAN、児童発達支援事業所WAKUWAKUすたじおを設立。幼児期の療育、家族の相談に携わり、これまでに5000件以上の相談に対応。

著書に『発達障害の子の療育が全部わかる本』(講談社)、『発達障害のある子と家族が幸せになる方法~コミュニケーションが変わると子どもが育つ』(学苑社)などがある。

児童発達支援事業所「WAKUWAKUすたじお」

「発達障害の子の療育が全部わかる本」原哲也/著

わが子が発達障害かもしれないと知ったとき、多くの方は「何をどうしたらいいのかわからない」と戸惑います。この本は、そうした保護者に向けて、18歳までの療育期を中心に、乳幼児期から生涯にわたって発達障害のある子に必要な情報を掲載しています。必要な支援を受けるためにも参考になる一冊です。

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はら てつや

原 哲也

Tetsuya Hara
一般社団法人WAKUWAKU PROJECT JAPAN代表・言語聴覚士・社会福祉士

1966年生まれ、明治学院大学社会学部福祉学科卒業後、国立身体障害者リハビリテーションセンター学院・聴能言語専門職員養成課程修了。カナダ、東京、長野の障害児施設などで勤務。 2015年10月に、「発達障害のある子の家族を幸せにする」ことを志し、長野県諏訪市に、一般社団法人WAKUWAKU PROJECT JAPAN、児童発達支援事業所WAKUWAKUすたじおを設立。幼児期の療育、家族の相談に携わり、これまでに5000件以上の相談に対応。 著書に『発達障害の子の療育が全部わかる本』(講談社)、『発達障害のある子と家族が幸せになる方法~コミュニケーションが変わると子どもが育つ』(学苑社)などがある。 ●児童発達支援事業「WAKUWAKUすたじお」

1966年生まれ、明治学院大学社会学部福祉学科卒業後、国立身体障害者リハビリテーションセンター学院・聴能言語専門職員養成課程修了。カナダ、東京、長野の障害児施設などで勤務。 2015年10月に、「発達障害のある子の家族を幸せにする」ことを志し、長野県諏訪市に、一般社団法人WAKUWAKU PROJECT JAPAN、児童発達支援事業所WAKUWAKUすたじおを設立。幼児期の療育、家族の相談に携わり、これまでに5000件以上の相談に対応。 著書に『発達障害の子の療育が全部わかる本』(講談社)、『発達障害のある子と家族が幸せになる方法~コミュニケーションが変わると子どもが育つ』(学苑社)などがある。 ●児童発達支援事業「WAKUWAKUすたじお」