【着替え】をいやがる「発達障害・発達特性」のある子ども 「意外と複雑な着替え」を援助する方法 「療育の専門家」が解説

#8 自分で着替えをするようになるために〔言語聴覚士/社会福祉士:原哲也先生からの回答〕

一般社団法人WAKUWAKU PROJECT JAPAN代表・言語聴覚士・社会福祉士:原 哲也

写真:アフロ(イメージ写真)

発達障害の特性のある子どもの場合の工夫

発達障害の特性のある子どもの場合、加えて次のような課題があることがあります。

① 注意散漫
TVなどで着替えから意識が逸れてしまうことが多くあります。そのような場合は、着替えコーナーを部屋の角に作り、何かで仕切ります。

また、着替えてと言っても、なかなか取りかからない子どももいます。「変身お願いします!」「いくつで着替えられるかな?」など、やる気になりそうな声かけの工夫をして、スタートを手伝ってあげてもいいでしょう。

② 感覚過敏による嫌悪感
感覚過敏があって、特定の素材やタグを嫌がることがあります。タグが嫌ならば切り取ります。どういう素材ならば大丈夫かは子どもによって異なりますが、シンプルなデザイン、綿素材のアイテムはOK率が高いように思います。シームレス(縫い目がない)Tシャツも試す価値はあるでしょう。

③ 身体の使い方が苦手なことによる嫌悪感
発達障害の特性のある子には、身体の軸やバランス感覚が育っていない、脚の筋力が弱い、ボディイメージが育っていない、手指の力が弱いなどの理由で、身体や運動の苦手さがある子どもが多くいます。

このように身体の使い方が苦手だと、着替えにもたついたり、うまくいかなかったりするために、着替えが嫌になることがあります。「着替えの援助」で取り上げた遊びを参考に、子どもが興味を持つ遊びを生活の中に取り入れて、少しずつ着替えのための基礎となる身体の力を育てましょう。

④ 何度教えても手順がわからない
何度教えてもできないときは、教える方法を変えます。長々と説明をしても記憶に定着しにくいですし、やってみせたとしても手順が多いと混乱してしまいます。

そのような場合は、着替えの手順を写真に撮って、順番にやればできるように示します。イラストでもいいです。そうすれば手順を「覚える」必要はありませんし、自分で確認できます。

⑤ うまくできなかったら困るからやらない
できると思ってやってみたらできなかった! そういうとき、発達障害の特性のある子は、癇癪を起こしたり、怒ったり、座り込んだりした挙句、「もうやらない!」となることが多いです。彼らは自分の予想に反する状況を柔軟に受け取ることが苦手なのです。

このような場合は、大人が失敗しないように工夫して、少しずつ少しずつ前進できるようにしてあげます。方法としては、まず、大人がほとんどをやり、最後の工程(ズボンなら裾から足を出すプロセス、上着なら襟口から頭を出すプロセス)だけを子どもにやってもらいます。

できたら「完成」「ズドーン」「ポンッ」など、子どもが喜ぶ言葉かけをします。子どもが「やって良かった」「自分はできる!」と思える、そんな言葉を考えましょう。「できた」という気持ちが出てきて積極的になってきたら、少しずつ子どもがやる部分を増やします。失敗しそうなときは、「さりげなく」修正してください。

着替えが嫌にならないように、成功するように、「できた」を実感できるように、子どもができる行動を最後にちょこっとやってもらい、子どもが喜ぶようにほめる! をめざしましょう。

最後に

着替えは私たちにとってはなんでもないことですが、実はさまざまな力が必要な行動であり、そこには、発達障害の特性がある子どもにとって、私たちにとっては思いもつかない困難があったりします。

着替えぐらいは自分でやってほしいという気持ちはわかるのですが、子ども、特に発達障害の特性のある子にとって着替えは簡単なことではないのです。そのことをわかっていただいて、子どもが、着替えができた! と思える瞬間をめざして、まずは「大人が」十分な配慮や工夫をしましょう。

小さな「できた!」という瞬間の積み重ねが、着替えの自立へとつながる。私が実感していることです。

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今回は、自分で着替えをしたがらない子の対応について、原哲也先生に教えていただきました。大人が当たり前にやっている着替えには、さまざまな発達が必要で、発達障害の特性のある子にはとくに、着替えに前向きな気持ちになれるよう周囲の大人が援助をすることが大切だということがわかりました。

次回以降も原哲也先生が「発達障害・発達特性のある子」の子育てのお悩みにお答えしていきます。

原哲也
一般社団法人WAKUWAKU PROJECT JAPAN代表理事・言語聴覚士・社会福祉士。
1966年生まれ、明治学院大学社会学部福祉学科卒業後、国立身体障害者リハビリテーションセンター学院・聴能言語専門職員養成課程修了。カナダ、東京、長野の障害児施設などで勤務。

2015年10月に、「発達障害のある子の家族を幸せにする」ことを志し、長野県諏訪市に、一般社団法人WAKUWAKU PROJECT JAPAN、児童発達支援事業所WAKUWAKUすたじおを設立。幼児期の療育、家族の相談に携わり、これまでに5000件以上の相談に対応。

著書に『発達障害の子の療育が全部わかる本』(講談社)、『発達障害のある子と家族が幸せになる方法~コミュニケーションが変わると子どもが育つ』(学苑社)などがある。

児童発達支援事業所「WAKUWAKUすたじお」

「発達障害の子の療育が全部わかる本」原哲也/著

わが子が発達障害かもしれないと知ったとき、多くの方は「何をどうしたらいいのかわからない」と戸惑います。この本は、そうした保護者に向けて、18歳までの療育期を中心に、乳幼児期から生涯にわたって発達障害のある子に必要な情報を掲載しています。必要な支援を受けるためにも参考になる一冊です。

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はら てつや

原 哲也

Tetsuya Hara
一般社団法人WAKUWAKU PROJECT JAPAN代表・言語聴覚士・社会福祉士

1966年生まれ、明治学院大学社会学部福祉学科卒業後、国立身体障害者リハビリテーションセンター学院・聴能言語専門職員養成課程修了。カナダ、東京、長野の障害児施設などで勤務。 2015年10月に、「発達障害のある子の家族を幸せにする」ことを志し、長野県諏訪市に、一般社団法人WAKUWAKU PROJECT JAPAN、児童発達支援事業所WAKUWAKUすたじおを設立。幼児期の療育、家族の相談に携わり、これまでに5000件以上の相談に対応。 著書に『発達障害の子の療育が全部わかる本』(講談社)、『発達障害のある子と家族が幸せになる方法~コミュニケーションが変わると子どもが育つ』(学苑社)などがある。 ●児童発達支援事業「WAKUWAKUすたじお」

1966年生まれ、明治学院大学社会学部福祉学科卒業後、国立身体障害者リハビリテーションセンター学院・聴能言語専門職員養成課程修了。カナダ、東京、長野の障害児施設などで勤務。 2015年10月に、「発達障害のある子の家族を幸せにする」ことを志し、長野県諏訪市に、一般社団法人WAKUWAKU PROJECT JAPAN、児童発達支援事業所WAKUWAKUすたじおを設立。幼児期の療育、家族の相談に携わり、これまでに5000件以上の相談に対応。 著書に『発達障害の子の療育が全部わかる本』(講談社)、『発達障害のある子と家族が幸せになる方法~コミュニケーションが変わると子どもが育つ』(学苑社)などがある。 ●児童発達支援事業「WAKUWAKUすたじお」