児童養護施設出身モデル・田中れいか “18歳の壁”を越え雑誌の表紙を飾るまで

児童養護施設出身モデル・田中れいかさんに聞く「なりたい自分になる」 #3~短大&社会人編~

モデル:田中 れいか

運命を変えたコーチングとの出会い

保育士を目指していましたが、以前からデザインやモデルの世界にも憧れていました。

中学時代、姉が読んでいたティーン向けファッション誌に夢中になったからです。高校卒業後にファッション系の専門学校への進学も考えましたが、周囲の反対もあって断念した経緯がありました。

でも、夢をあきらめたわけではありませんでした。エキストラなどの仕事も始め、よりモデルの世界に憧れを抱くようになっていました。

そんな中、本格的にモデルを目指すようになったきっかけは「コーチング」との出会いでした。

コーチングとは目標達成や自己実現のために、内面にある答えを引き出して、自発的行動を促すコミュニケーションのことです。

留年が決まってもやもやしていたころ、母の勧めで何気なくうけたコーチングが、田中さんの運命を大きく変えることになったのです。

「なんの制限もなかったら、なにをやりたい?」
「じゃあ、何歳までにやりたい?」
「これをしているれいかちゃんは、どんな服装をしている?」

と具体的な姿を思い描き、コーチとの対話を何度も重ねます。

「モデルになれる」と確信できた

コーチングを受けたことで、ぼやけていた夢が明確な目標になりました。

幼いころから、規則や経済的な理由で「あきらめる」を当たり前のこととして生きてきた田中さんは、体験したことのない高揚感を覚えました。

施設ではファッション業界に進むことを反対され、一度はあきらめかけたモデルの夢でしたが、コーチングのコーチは否定せず全力で応援してくれました。

実現のためのプランを細かく考え、言葉にすることで自分自身も「できる」と思えるように。さらにただのモデルではなく、「施設出身モデル」と発信することで、児童養護施設のイメージを変えることにもつながると確信しました。

そんな前向きな気持ちでいたタイミングで、ミス・ユニバース茨城県大会へ出場。自分のルーツをオープンにしたうえで臨(のぞ)んだ大会で、見事準優勝に輝きました。

この受賞をきっかけに、「児童養護施設について話してほしい」という講演依頼が舞い込んでくるようになりました。当事者の立場で自分の体験や人生を語ることに、少なからず迷いもありましたが、自分のルーツを生かした社会的養護を知ってもらう活動に注力していきました。

社会的養護を知ってほしい! メディア開設と支援事業の立ち上げ

モデル業をこなしながら2020年に個人の活動として社会的養護を学ぶための情報サイト「たすけあい」を開設。記事と動画の2本柱で社会的養護について分かりやすく解説し、人気動画は19万回再生を突破しました。

さらに2020年末、一般社団法人「ゆめさぽ」(大阪市)の代表理事に就任。「ゆめさぽ」の主な事業は児童養護施設や里親家庭から進学する高校3年生の受験費用を助成する進学応援プロジェクトです。

前任者から思いを引き継ぎ、現在は私立大2校分の受験料に当たる7万円を、大阪府内の施設などで暮らす受験生に助成。当事者目線で支援の輪を広げています。

2021年末には自身の経験を元に社会的養護について解説した著書『児童養護施設という私のおうち』(旬報社)を出版し、各メディアで話題を呼びました。

Forbesの表紙を飾る

2022年9月、田中さんは世界的経済誌Forbesの日本版『Forbes JAPAN』(2022年11月号)の表紙を飾りました。

「なりたい自分になって、子どもたちにエールを送りたい」とモデルの仕事を志したころから温めていた思いを、強いメッセージとして伝える機会を得ました。

田中れいかさん(左)と一緒に、バスケットボール選手で起業家の馬爪エブリン氏(中)、サッカー選手で学生団体Cominia代表の渡邉すみれ氏(右)3人で『Forbes JAPAN』の表紙に。

「反響は大きかったですね。みんなから連絡をもらってうれしかったです。お世話になった施設の職員さんからは『いろんなところに飾ってあるよ』って教えてもらいました(笑)。

ちょっと恥ずかしいですけど、喜んでもらえてうれしかったです。おばあちゃんに送ったら、泣きながら読んだって言ってくれました」

◆◆◆◆◆
自分の力で18歳の壁を乗り越え、夢を叶えた田中さん。次回は芯の強さの源と田中さんが考える社会的養護の課題についてお届けします。

取材・文/大楽 眞衣子

2021年12月に出版された初の著書『児童養護施設という私のおうち』(旬報社)。田中れいかさんの生い立ちから、児童養護施設や社会的養護について詳しくわかる1冊。世田谷区長・保坂展人氏との対談も掲載。
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たなか れいか

田中 れいか

Reika Tanaka
モデル・一般社団法人たすけあい代表理事

親の離婚をきっかけに、7歳から18歳までの11年間世田谷区にある児童養護施設で暮らす。退所後、短期大学へ進学し保育士資格を取得。その後、モデルの道に。ミス・ユニバース2018茨城県大会準グランプリ・特別賞受賞。 モデル業のかたわら、自らの経験をもとに、親元を離れて暮らす「社会的養護」の子どもたちへの理解の輪を広げる講演活動や情報発信をしている。 2020年4月社会的養護専門情報サイト「たすけあい」を創設。同年12月より、児童養護施設や里親家庭から進学する子たちの受験費用をサポートする団体、一般社団法人ゆめさぽ代表理事に就任。 著書に『児童養護施設という私のおうち』(旬報社)がある。 ●田中れいか 公式ホームページ ●インスタグラム tanaka_reika ●ツイッター @tanaka_reika ●社会的養護専門情報サイト「たすけあい」 ●進学応援プロジェクト「ゆめさぽ」

親の離婚をきっかけに、7歳から18歳までの11年間世田谷区にある児童養護施設で暮らす。退所後、短期大学へ進学し保育士資格を取得。その後、モデルの道に。ミス・ユニバース2018茨城県大会準グランプリ・特別賞受賞。 モデル業のかたわら、自らの経験をもとに、親元を離れて暮らす「社会的養護」の子どもたちへの理解の輪を広げる講演活動や情報発信をしている。 2020年4月社会的養護専門情報サイト「たすけあい」を創設。同年12月より、児童養護施設や里親家庭から進学する子たちの受験費用をサポートする団体、一般社団法人ゆめさぽ代表理事に就任。 著書に『児童養護施設という私のおうち』(旬報社)がある。 ●田中れいか 公式ホームページ ●インスタグラム tanaka_reika ●ツイッター @tanaka_reika ●社会的養護専門情報サイト「たすけあい」 ●進学応援プロジェクト「ゆめさぽ」

だいらく まいこ

大楽 眞衣子

社会派子育てライター

社会派子育てライター。全国紙記者を経てフリーに。3人の育児で培った生活者目線を活かし、現在は雑誌やWEBで子育てや女性の生き方に関わる社会派記事を執筆している。大学で児童学を専攻中で、保育士資格を取得。2歳差3兄弟の母。昆虫好き。イラストは三男による「ママ」 ●公式HP「my luck」

社会派子育てライター。全国紙記者を経てフリーに。3人の育児で培った生活者目線を活かし、現在は雑誌やWEBで子育てや女性の生き方に関わる社会派記事を執筆している。大学で児童学を専攻中で、保育士資格を取得。2歳差3兄弟の母。昆虫好き。イラストは三男による「ママ」 ●公式HP「my luck」