「子どもの近視」が増加中 点眼薬・コンタクトレンズ・光療法… 進行を抑制する4つの最新治療法を専門医が解説

眼科医・五十嵐多恵先生に聞く「子どもの近視」 #3 ~近視の進行を抑制する最新治療~

眼科医:五十嵐 多恵

治療④レッドライト治療法

五十嵐先生:子どもの近視抑制に近年、研究者の間で高い関心を集めているのがレッドライト治療法です。これは、機械を使って赤色の光を照射することで、網膜を包む脈絡膜という血管が拡張し、網膜を前に押し出すことで眼球の伸びを抑えるというものです。また、一定の確率で眼軸自体を縮める効果もあるとされている、極めて画期的な治療法です。

方法はいたって簡単で、1回3分、1日2回、専用の装置を使って赤色光をのぞき込むだけ。正しい治療法を75%以上守って行った場合、近視進行抑制効果はなんと90%近いという驚くべき報告もあります。

こちらも日本では未承認で、自由診療で行う治療法です。アトロピン点眼やオルソケラトロジーなどに比べると、まだ実施できる医療機関は限られていますが、今後は増えていくのではないかと思います。費用は、初年度で18~20万円前後ぐらいです。

このほかにも海外では、近視進行を抑制するための特殊な眼鏡が普及し始めています。2020年ごろから、海外で販売されるようになった新しいタイプの近視進行抑制眼鏡は、眼軸の伸びが平均して50~60%抑制されることが報告され始めています。

眼鏡ならば小さな子どもでも簡単に使えますし、薬物療法などと比べて副作用のリスクもほとんどありません。ただし、残念ですが日本ではこれらの新しい眼鏡を使うための治験が行われていないので、現時点で使用することはできません。

海外に遅れを取る日本の近視の進行抑制治療

──これほど多くの治療法があることに驚きました。しかし、日本ではどれも保険適用されていないのですね。

五十嵐先生:近視の進行抑制治療に限らず、海外では使える薬や治療法が、日本では使えないことは非常に多くあります。よく知られたところでは、抗がん剤などですね。日本では未承認のため使用できないことが問題になっています。私自身、近視の進行抑制治療の分野を研究して、初めて「これほど日本が遅れているのか」と驚くことも多々ありました。

近視の進行抑制治療についていえば、海外では複数の選択肢の中から「どれが自分に合っているか」と選択する時代に入っています。しかし日本では海外で当たり前のように行われている治療のどれもが薬事承認を得られておらず、自由診療でしか受けられないのが現状です。

──どうして日本では保険適用されていないのでしょうか。

五十嵐先生:日本は有効性があり、安全な新しい薬や治療法を適正に承認するための審査が厳しくて、海外ですでに治療実績がある治療法でも、新たに日本で治験をしなければ承認されません。また、治験のためのコストも高額です。これらの手続きに時間がかかることもあり、製薬企業などが日本で積極的に新しい薬や治療法の申請をしないという現状があるのかもしれません。

しかし、いつまでも自由診療でしか治療が受けられない状態が続けば、経済格差や情報格差で子どもの近視治療にも影響を及ぼしかねません。海外で当たり前のように行われている近視の進行抑制治療が、早く日本の子どもたちにも使えるようになることを願っています。

───◆─────◆───

3回目では、近視の進行抑制の最新治療について五十嵐先生に教えていただきました。そして、ここまで近視の進行抑制治療が進んでいることに驚きの連続でした。

日本国内でも、保険診療内でどの子も安心して、当たり前に近視抑制治療が受けられるようになる未来が訪れますように。

取材・文/横井かずえ

子どもの近視は全3回。
1回目を読む。
2回目を読む。

【参考】
東京医科歯科大学先端近視センター
NHK健康チャンネル更新日2022年12月5日
近視は失明につながる危険性も!原因や最新の治療法・予防法を解説

NHK健康チャンネル更新日更新日2024年3月1日
子どもの近視 ~患者の治療体験談~

20 件
いがらし たえ

五十嵐 多恵

Tae Igarashi
眼科医

眼科医。2004年金沢大学医学部卒業。2009年に東京医科歯科大学眼科に入局し、その後、川口市立医療センター眼科医長、東京医科歯科大学眼科助教、米国ハーバード大学マサチューセッツ眼科耳鼻科フェロー、東京医科歯科大学眼科講師(キャリアアップ)を経て、2024年4月から、東京都立広尾病院眼科医長・東京医科歯科大学眼科非常勤講師。

眼科医。2004年金沢大学医学部卒業。2009年に東京医科歯科大学眼科に入局し、その後、川口市立医療センター眼科医長、東京医科歯科大学眼科助教、米国ハーバード大学マサチューセッツ眼科耳鼻科フェロー、東京医科歯科大学眼科講師(キャリアアップ)を経て、2024年4月から、東京都立広尾病院眼科医長・東京医科歯科大学眼科非常勤講師。

よこい かずえ

横井 かずえ

Kazue Yokoi
医療ライター

医薬専門新聞『薬事日報社』で記者として13年間、医療現場や厚生労働省、日本医師会などを取材して歩く。2013年に独立。 現在は、フリーランスの医療ライターとして医師・看護師向け雑誌やウェブサイトから、一般向け健康記事まで、幅広く執筆。取材してきた医師、看護師、薬剤師は500人以上に上る。 共著:『在宅死のすすめ方 完全版 終末期医療の専門家22人に聞いてわかった痛くない、後悔しない最期』(世界文化社) URL:  https://iryowriter.com/ Twitter:@yokoik2

医薬専門新聞『薬事日報社』で記者として13年間、医療現場や厚生労働省、日本医師会などを取材して歩く。2013年に独立。 現在は、フリーランスの医療ライターとして医師・看護師向け雑誌やウェブサイトから、一般向け健康記事まで、幅広く執筆。取材してきた医師、看護師、薬剤師は500人以上に上る。 共著:『在宅死のすすめ方 完全版 終末期医療の専門家22人に聞いてわかった痛くない、後悔しない最期』(世界文化社) URL:  https://iryowriter.com/ Twitter:@yokoik2