「子どもの近視」増加中! 幼児期の近視発症を「予防すべき」本当の理由 眼科医が解説

眼科医・五十嵐多恵先生に聞く「子どもの近視」 #1 ~近視の仕組みと子どもの近視が増えている背景~

眼科医:五十嵐 多恵

近年子どもの近視が増えています。その背景とは?  写真:twds/イメージマート
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近年、世界的に近視人口が増えています。なかでも増えているのが子どもの近視です。

「子どもの近視は、低年齢で発症するほど進行が早く、強度近視や他の眼の病気になるリスクも高まります」とは、東京都立広尾病院眼科医長の五十嵐多恵先生。

そもそも近視とはどうしてなるのでしょうか? また、子どもの近視が増えている背景や、幼児期に近視になると高まるリスクについて、五十嵐先生に解説していただきました。


(全3回の1回目)

近視とは「眼軸」が伸びてしまった状態

──そもそも近視とはどのような状態なのでしょうか?

五十嵐多恵先生(以下、五十嵐先生):目の仕組みは、カメラと同じようになっています。カメラのレンズに相当するのが角膜と水晶体で、フィルムに相当するのが網膜です。角膜は、眼球を覆っている透明な膜で、水晶体は近くのものや遠くのものを見るためのピント合わせの役割を果たしています。

そして、眼球の内壁にあるのが網膜です。目は、角膜から情報を取り入れて水晶体でピントをあわせて、その映像情報を網膜で認識しているというわけです。

正常な目とは、網膜にピタッとピントが合った状態のことです。これを「正視」と呼びます。これに対して「近視」は、網膜よりも手前でピントが合ってしまう状態のことです。近視の場合、遠くのものが見えにくくなります。

反対に、ピントが網膜の後ろで合ってしまう状態は「遠視」となります。遠視の場合、近くのものが見えにくくなるのです。

イラスト:イラストAC

五十嵐先生:角膜の頂点から網膜までの長さのことを「眼軸」と呼びます。近視の人は、この眼軸が伸びて長くなっています。そのため、網膜の手前でピントが合ってしまうのです。

残念ながら、一度伸びてしまった眼軸は元に戻ることはありません。若いときに眼軸が伸びて近視になった人は、一生伸びたままとなります。

──どうして近視になってしまうのでしょうか?

五十嵐先生:近視になる原因は、はっきりとわかっていない部分もありますが、遺伝的要因と環境的要因の2つの要因があります。

遺伝的要因は、両親や先祖から受け継いだ遺伝子によるものです。一方で、環境的要因は、屋外活動が少なかったり、近いところを見る時間が長かったりなどの生活習慣が関係しているといわれています。

小中高校では裸眼視力が1.0未満の児童が過去最多!

──今、子どもの近視は増えているのでしょうか。

五十嵐先生:はい。裸眼視力が1.0未満の子どもは右肩上がりに増えていて、2022年度は小中高で過去最多になりました。裸眼視力が1.0未満の割合は小学校で3割を超えて、中学校では約6割、高等学校では約7割となっています。

これも原因がはっきりわかっているわけではありませんが、ゲームやスマホなどを目の近くで見ている時間が多いのに対して、外での活動時間が少ないなど、現代の子ども特有の生活習慣が関係していると考えられています。

参考:文部科学省「令和4年度学校保健統計」より

五十嵐先生:実際に、私が近視外来などで診察をしていても、小学校入学前で近視を発症するお子さんが増えていると感じています。

実はこれは日本だけのことではなく、近年、世界的に近視人口が増えていて、2050年には全人口の約半分が近視になるともいわれています。そして、なかでも増加が著しいのが子どもの近視なのです。

小さいうちに近視を発症するほど進行が早い傾向も

五十嵐先生:近視は、体の成長に伴って進行するため、小さいうちに発症するほど進行が早いことが知られています。つまり小中学生や大人になってから発症するよりも、幼児期に発症したほうが早く進行してしまうのです。

早く発症すると、近視の進行量が年々蓄積されていくことになります。そのため、個人差はありますが、10歳以下で近視になった場合は多くは、度数が強い近視である「強度近視」になってしまいます。

同様に、小さいころに近視になると、歳をとってから緑内障や白内障、網膜剝離(もうまくはくり)など眼の病気になるリスクも高くなります。眼軸が長くなることは、これらの眼の病気の原因にもなるからです。ですから、いかにして幼児期に近視にならないように気をつけるかが重要なのです。

───◆─────◆───

近視は、眼軸と呼ばれる部分が伸びた状態であること。そして一度伸びてしまった眼軸は戻らないことや、幼児期に発症するほど近視の進行が速いことなどを教えていただきました。

次回2回目では、近視の進行を予防するための生活習慣について、引き続き五十嵐先生に教えていただきます。

取材・文/横井かずえ

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(2回目は2024年5月9日、3回目は5月10日公開。公開日までリンク無効)

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いがらし たえ

五十嵐 多恵

Tae Igarashi
眼科医

眼科医。2004年金沢大学医学部卒業。2009年に東京医科歯科大学眼科に入局し、その後、川口市立医療センター眼科医長、東京医科歯科大学眼科助教、米国ハーバード大学マサチューセッツ眼科耳鼻科フェロー、東京医科歯科大学眼科講師(キャリアアップ)を経て、2024年4月から、東京都立広尾病院眼科医長・東京医科歯科大学眼科非常勤講師。

眼科医。2004年金沢大学医学部卒業。2009年に東京医科歯科大学眼科に入局し、その後、川口市立医療センター眼科医長、東京医科歯科大学眼科助教、米国ハーバード大学マサチューセッツ眼科耳鼻科フェロー、東京医科歯科大学眼科講師(キャリアアップ)を経て、2024年4月から、東京都立広尾病院眼科医長・東京医科歯科大学眼科非常勤講師。

よこい かずえ

横井 かずえ

Kazue Yokoi
医療ライター

医薬専門新聞『薬事日報社』で記者として13年間、医療現場や厚生労働省、日本医師会などを取材して歩く。2013年に独立。 現在は、フリーランスの医療ライターとして医師・看護師向け雑誌やウェブサイトから、一般向け健康記事まで、幅広く執筆。取材してきた医師、看護師、薬剤師は500人以上に上る。 共著:『在宅死のすすめ方 完全版 終末期医療の専門家22人に聞いてわかった痛くない、後悔しない最期』(世界文化社) URL:  https://iryowriter.com/ Twitter:@yokoik2

医薬専門新聞『薬事日報社』で記者として13年間、医療現場や厚生労働省、日本医師会などを取材して歩く。2013年に独立。 現在は、フリーランスの医療ライターとして医師・看護師向け雑誌やウェブサイトから、一般向け健康記事まで、幅広く執筆。取材してきた医師、看護師、薬剤師は500人以上に上る。 共著:『在宅死のすすめ方 完全版 終末期医療の専門家22人に聞いてわかった痛くない、後悔しない最期』(世界文化社) URL:  https://iryowriter.com/ Twitter:@yokoik2