「子どものためのマイホーム」は本当に正解? 「家づくり」の間違った常識を気鋭の建築家が解明

子ども部屋も、2つ目のトイレもいらない!? 建築家が教える、目からウロコのマイホーム術〔第2回/全3回〕

お風呂は汚れを落とす場所

──それでは、お風呂はどうでしょうか。幼児を持つ家庭は、まだ一緒に入るし、リラックスできる場所にしたいし、“広いお風呂”を望む方も多いのではないかと思います。

内山さん:一日の汚れと疲れを洗い流す場所、「お風呂」。家を新築するに際し、よりリラックスできる場所にしたいと考える人もいるかもしれません。

しかし、安易に広くするのは要注意です。トイレや洗面台の話と重複しますが、お風呂はとにかく汚れやすい場所です。こまめな掃除が必要であり、しかもバスタブのみならず床、壁、あるいは天井と、掃除範囲も大変広いです。通常の規格サイズ以上に大きく・広くすることは、家事負担の観点からあまりおすすめできません。

また、限りある面積を浴室で多めに使うと、他のスペースにしわ寄せがいきます。他のスペースを削ってでも浴室を広くするほど、入浴に思い入れがあるでしょうか……?

ホテルライクなお風呂にも憧れるけれど…。  Photo by iStock

第一、戸建て住宅の浴室は賃貸アパートやマンションと比較して広めにつくられています。特別に大きく・広くしなくても、規格サイズで十分広いのです。それ以上に大きく・広くしようとすると、規格外になりますので建築の段階でコストが上乗せになります。また、バスタブが大きいと湯量もそれだけ必要になるため、日々の水道代とお湯をわかすガス代や電気代も多くかかります。毎日入浴される人が多いでしょうから、イニシャルコスト(初期費用)のみならず、日々のランニングコストまで高くなってしまうのはあまり嬉しいことではありません。

「子どもと一緒に入るから広いほうが助かる」とおっしゃる人もいますが、お子さんと一緒に入浴する期間はほんの数年です。そのわずかな数年のために、お子さんが巣立った後も続くお風呂掃除に通常以上の労力を費やしたり、他のスペースが狭くなったりするのは、ちょっと考えものではないでしょうか? ちなみに、細かすぎる話で申し訳ありませんが、洗い場が広いとシャワーホースも長いものを付ける必要があります。掃除の際に届かないからです。このシャワーホースも日々の入浴で汚れたりカビが生えたりしますので、長ければ長いほど掃除の手間がかかります。

──なんだかマイホームの夢から目が覚めるというか……。でも、その後も生活は続くと考えれば、“手間がかからない”というのは、大きなメリットでもあると思います。

内山さん:夢のないことばかりをお話しして、「せっかく新居ではお風呂を楽しもうと思っていたのに」と、ガッカリしたかたがいらっしゃったらごめんなさい。

でも、このようなことをお話しすると、「せっかくお風呂にこだわってもお風呂に入っている時間にしかそれを楽しめないし、じゃあ、別のところにそのお金や面積をまわしたほうがいいかも」と多くの人は考えるようになります。リラックスするのは他の場所でも叶えることができます。お風呂は汚れを落とす場所であり、掃除の手間のかかる場所です。であれば、家事の手間が最小限になるよう、設備はシンプルで機能的なものを選ぶのが正解だと私は考えます。

水まわりをすべて2階にもってきて、リビングを広くとった例。荷物は自然に2階に集まるため、パブリックスペースが汚れないメリットも。このように建築家と相談して自分のなかの“イチバン”を決めることが大切。 『家は南向きじゃなくていい』より

──参考になるお話、ありがとうございました。お風呂や洗面台、トイレなど、掃除が大変になる場所の数や場所については慎重になる必要がありますね。

次回は、筆者が正解だったポイントや各部屋の広さのメリハリについて、引き続き内山里江さんにおうかがいします。

取材・文/佐々木 奈々子 

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※公開日までリンク無効

『家は南向きじゃなくていい』内山里江/著(講談社)

×土地は正方形がいい
×窓は大きいほうがいい
×天井は高いほうがいい
×収納は多ければ多いほどいい
×廊下は絶対に必要
×トイレとお風呂は広いほうがいい
×将来のために子ども部屋はふたつ必要
×和室はとりあえず作っておく

実はこれらの「常識」は、すべて間違い。気鋭の建築家・内山里江さんと、家づくりの「間違った常識」について学んでみませんか?

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うちやま りえ

内山 里江

Rie Uchiyama
一級建築士 株式会社コモドデザイン代表

1972年、高知県に生まれ、12歳まで愛媛県で過ごす。子どものころ、建築家・宮脇檀氏の設計で建てた父の友人の家に感動し、いつか自分も建築家になることを夢見る。山口県の工務店に勤務して実地で経験を積み、一級建築士になる。建築設計歴27年、のべ2000棟以上を設計・デザイン。「家を単なる休む場所ではなく、遊べる場所に」をモットーに、付加価値を高める設計を提案し続けている。 コモドデザイン  https://comodo-design.com/

1972年、高知県に生まれ、12歳まで愛媛県で過ごす。子どものころ、建築家・宮脇檀氏の設計で建てた父の友人の家に感動し、いつか自分も建築家になることを夢見る。山口県の工務店に勤務して実地で経験を積み、一級建築士になる。建築設計歴27年、のべ2000棟以上を設計・デザイン。「家を単なる休む場所ではなく、遊べる場所に」をモットーに、付加価値を高める設計を提案し続けている。 コモドデザイン  https://comodo-design.com/