双子が歩き始めたら “何にでも頼れるパパ”が本当の“頼れるパパ”だ

多胎妊娠・出産・育児の「父親学級」#3【幼児編】

松倉 和華子

多胎児の赤ちゃんは早産で小さく生むケースが多いが、単胎で生まれた子どもたちとの体格差は1歳くらいまでに急速に縮む。  写真:松倉和華子

次々に手が掛かって大騒動になりがちな多胎育児ですが、1歳が過ぎると多少は慣れてくる人が多いのではないでしょうか。そして子どもたちが歩き始めると同時に自我も芽生え、双子、三つ子といえども個性が出てきます。そんなタイミングだからこそ気をつけておくべきこととは何か。また、少しずつ変わり始めている社会や便利な育児サービスも紹介します。

男の子4人(そのうち2人が双子)のパパで、多胎育児の経験を発信している工藤啓さんと、「多胎育児のサポートを考える会」代表で、多胎家庭への社会の理解や、各家庭へのより良いサポートを目指す市倉加寿代さんに話を伺いました。ラストとなる第3回目はパパだけでなく、ママにも参考にしてほしい「幼児期編」です。

どこでも誰にでもSOSを発信できるパパママになる

双子、三つ子との外出は乳児期でも大変ですが、つかまり立ちをはじめた幼児期には、これまでとはまた別の悩みが出てきます。個人差はあれども、乳児期より体力がつき、静かにベビーカーに座ってくれることも少なくなるこの時期の外出では、パパ・ママともに、周りにいる知らない人にも頼れるようになっておくといいと工藤さんは語ります。

工藤啓さん(以下、工藤さん)「電車などの公共機関を使って移動するとき、大変だと思ったら近くにいる優しそうな人を見つけて“すみませんが、助けてください”と声をかけること。恥ずかしい、迷惑かもと考える気持ちはわかりますが、気軽に周りに助けを求められるようになっていた方が外出時のストレスは軽減されます。

例えば、2人乗りベビーカーで移動しているのに、階段しかない駅に降りたとき。駅員さんに頼るのもいいですが、駅員さんを探しに行くことすら大変ですよね。そんなとき近くを通ったお兄さんに“ベビーカーを運んでもらえませんか?”とお願いしたこともあります。

単胎家庭はもちろん、多胎家庭は大変なときにはちゃんと声を出すことが必要だと僕は考えています。“お願いしなくても、みんなが助け合う世の中だったら”とか、社会の不備を嘆くよりも、SOSは自らどんどん発信していくこと。僕はそれを実践したとき、思っている以上に世間の人々は優しいんだということに気付けました」

予防接種や検診、各種手続きなど、決まった用事はもちろん、急な通院など、ママだけ、パパだけで子どもたちを連れて外出することは多々あります。ひとりの力で解決できない状況も出てくるので、あたふたしてしまう前に周りの人々へ助けを求められるようになっておきましょう。

都営バスでは2人乗りベビーカーの乗車が全路線で可能に!

また、多胎育児を取り巻く社会も少しずつですが変化がみられます。東京都では、市倉さんが代表を務める「多胎育児のサポートを考える会」の働きかけにより、2020年9月から都営バスの一部の路線で試運転がスタート、2021年6月には全路線に拡大しました。

市倉加寿代さん(以下、市倉さん)「2019年に名古屋市で、市バスに2人乗りベビーカーを乗車拒否された女性が話題になりましたよね。それではいけないと私たちは、まず東京都交通局にかけあい、都営バスから2人乗りベビーカーをたたまずに乗れるようにお願いしました。一気に全路線解禁とはいかなかったものの、2020年9月から5路線で試行し、2021年6月からはすべての路線に拡大できました。

このように都営バスの乗車ルールが整ったことは喜ばしいことですが、一般の乗客にもそのルールが知られることも大切です。公式ルールになったのに、実際に2人乗りベビーカーで都営バスに乗ったら、それを知らない乗客から冷ややかな目で見られるようでは意味がありません。

“2人乗りベビーカーは折りたたまずに乗車できる”ということをもっと多くの人に知ってもらうべく交通局にかけ合い、車内でリーフレットを配布したり、啓発動画が車内の電子看板で流れるようにしてもらいました。これを機にほかのバス会社でもこのルールが導入されることを願っています」

働きかけから1年半で2人乗りベビーカーのバス乗車解禁が実現したということは、多胎家庭にとってうれしいニュースです。当事者が声を上げることで、少しずつでも社会は変わると信じられる良いきっかけとなりました。

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