【子どもの逆さまつ毛】手術なら4~5歳から! 治療法・リスクとデメリット・医師の選び方を専門医が解説
子どもの逆さまつ毛#2 ~「逆さまつ毛」点眼治療・矯正メガネ・2種類の手術~
2024.04.03
国立成育医療研究センター医員、眼科医:林 思音
日本人の子どもに多いという逆さまつ毛。第1回は、逆さまつ毛の原因、逆さまつ毛が引き起こす症状や病気、受診の目安について聞きました。
今回は、気になる治療や手術について。どのような治療が行われるのでしょうか。また、症状によっては手術を勧められることもあると聞きますが、リスクはないのでしょうか。
前回に引き続き、国立成育医療研究センターの眼科医・林思音(はやし・しおん)先生にお話を伺います。
※2回目/全2回(#1を読む)
●林 思音(はやし・しおん)PROFILE
国立成育医療研究センター医員、眼科医。2004年、山形大学医学部医学科卒業後、山形大学医学部附属病院眼科、浜松医科大学医学部附属病院眼科などを経て、2021年、国立成育医療研究センター医員に。専門は、小児眼科学、斜視弱視学。
治療は点眼と乱視の矯正メガネから
──逆さまつ毛の症状が強く眼科を受診した場合、どのような治療が行われるのでしょうか。
林思音先生(以下、林先生) まず角膜(黒目)を守ることが大事なので、そのための治療は角膜保護薬の点眼です。乱視により視力が上がらないときは、乱視の矯正メガネを処方します。点眼とメガネを併用することもあります。
視力には、裸眼のまま測定する裸眼視力と、メガネをかけて測定する矯正視力があります。裸眼視力が低くても矯正視力が1.0出る場合と、裸眼視力も矯正視力も1.0出ない場合があり、後者は弱視という疾患で、必ずメガネをかけてもらいます。
子どもは、赤ちゃんのころから階段を上るように視力が上がっていくのですが、乱視があると途中で伸び悩んでしまいます。そこで矯正メガネをかけて乱視という弱視リスクのファクターを取り除き、視力を伸ばすのです。
矯正視力で1.0が出る場合でも、あまりに裸眼視力が低いお子さんにはメガネを処方します。どちらも同じメガネですが、先ほどと理由は違って視力を伸ばすというより、見やすい環境を作る意味合いが強いです。
メガネを処方するか否かは、1回の検査で判断するのが難しいことも多く、また、眼科医によっても多少見解が異なるかもしれません。
──「メガネをかけると目が悪くなる」という話も聞くので、子どもがメガネをかけることには躊躇(ちゅうちょ)してしまいます。
林先生 それは、誤った情報ですね。おそらく近視の話だと思うのですが、近視は成長とともに進んで視力が下がります。そのため、成長過程のお子さんがメガネをかけるとだんだん目が悪くなり、メガネの度数も上がっていくことから「メガネをかけたら目が悪くなった」という誤解が生まれたのです。
メガネをかけても視力が下がることはないので、安心してかけていただきたいです。
手術を受けるなら全身麻酔
──点眼で症状がよくならないと、どのような治療になりますか。
林先生 点眼で角膜上皮障害(角膜に傷がついた状態)が改善されない場合、手術を行います。
方法は、皮膚に切開を入れる「切開法」、切開を入れずに糸で縫合する「通糸埋没法(つうし・まいぼつほう)」の2つです。どちらも穿通枝(せんつうし)という、まぶたを引っ張る組織を人工的に作るイメージで、保険適用内の手術です。
切開法は、まぶたの縁に沿って皮膚を切り、その皮膚をまぶたの内側にある瞼板(けんばん)という硬い組織に糸で縫い固定します。術後は、まつ毛の下に皮膚を切った線や二重のようなしわができて見た目が変わりますが、3ヵ月から半年ほどで徐々に目立たなくなります。子どもの場合は全身麻酔により行われ、2~3日間の入院が必要です。
通糸埋没法は、まぶたの皮膚側と結膜(白目を覆う半透明の膜)側を糸で結び、たるんだ皮膚を結膜側へ引き寄せる方法です。切開法に比べると簡単にできる反面、再発率が高いです。
術後は、切開法と同様に二重のようなしわができますが、こちらも3ヵ月から半年ほどで徐々に目立たなくなります。通糸埋没法も子どもは全身麻酔での手術になり、2~3日間の入院が必要です。
通糸埋没法は再発が多いこと、切開法のほうが術後の見た目がきれいなことから、私は9割方、切開法で手術を行っています。
──手術のデメリットはありますか。
林先生 切開法はまぶたを切るので、術後しばらくは傷が目立ちます。また、どちらの方法でも再発のリスクがあり、特に通糸埋没法は再発しやすいです。
逆さまつ毛は成長とともに自然軽快する可能性があるので、あまり低年齢のうちに手術をすると、過剰な治療になることがあります。
──全身麻酔と聞くと、親はどうしても身構えてしまいます。リスクはないのでしょうか。
林先生 全身麻酔に関しては、眼科医ではなく、多くは麻酔科医の管理のもとで行います。麻酔科医がリスクをひとつひとつ確認して初めて麻酔をかけるので、全身麻酔のリスクは非常に低いと思います。
また、逆さまつ毛の手術は切開法で20~30分程度、通糸埋没法はさらに短く、麻酔をかけるのも短時間です。体への影響は、さほど心配しなくていいのではないでしょうか。
逆さまつ毛の症状が強いお子さんには、私は手術をお勧めしています。
たとえ今は強い症状がなくても、常に角膜が傷ついていたり、角膜上皮障害がある場合は、まつ毛が硬くなってから角膜が白くにごる角膜混濁(かくまくこんだく)を起こす可能性があるので、やはり手術を勧めています。
──手術を受けるのに適した年齢はありますか。
林先生 だんだんとまつ毛が硬くなってくる4~5歳くらいでしょうか。これくらいの年齢で逆さまつ毛が自然軽快する子が多くいますが、しない子はなかなか治りにくくなります。そうなると角膜上皮障害が増え、さまざまな症状が強くなってくるので手術を決めることが多いです。
2022年、国立成育医療研究センターで行われた睫毛内反症(まぶたを引っ張る組織の異常でまつ毛が眼球のほうを向き、触れている状態)の手術では、未就学児の症例がいちばん多く、中には10歳前後のお子さんも。そのほか、ダウン症候群、緑内障など、逆さまつ毛を合併しやすい病気のお子さんの手術も行いました。
定期的に眼科に通院し、管理していれば、眼科医がお子さんの角膜の状態をきちんと確認できます。必要なときに手術をお勧めできるので、「手遅れになるんじゃないか」などと、過剰に心配なさらなくても大丈夫ではないでしょうか。
目を包括的に見られる眼科での手術がおすすめ
──美容外科でも逆さまつ毛の手術を行っているところがあります。眼科での手術と比べ、注意点があれば教えてください。
林先生 眼科では機能面を重視しているので、ただまつ毛を外に出すだけではなく、視力はどうなるか、角膜はどうなるかまで顕微鏡でしっかりと調べます。美容外科ではそこまで見られないですし、再発率が高い通糸埋没法を行っているところがほとんど。お子さんの目を包括的に見られる眼科で受けていただくのが、やはりおすすめです。
最近では、まぶたを専門にしている眼形成外科という診療科もあり、ここなら目の機能面と審美性、どちらも考慮した手術が受けられます。
ただ、実際のところ、逆さまつ毛の手術を行っている眼科は限られていて、眼科医が治療が必要だと判断し、形成外科医に手術を依頼することはよくあります。形成外科医は審美性も重視してくれますので、術後はきれいな状態になることが多いですし、術後は眼科で経過を観察するので心配ありません。
美容外科も形成外科の一部ですが、保険適用と保険適用外の診療があるので、治療を始める前に確認していただくといいと思います。
──記者の私も、わが子の逆さまつ毛で複数の眼科を受診しましたが、先生により治療の見解はさまざまでした。先生によって判断が異なる場合、よい先生の見極め方があれば教えてください。
林先生 逆さまつ毛は子どもに多い疾患ですし、やはり小児眼科を専門とする眼科医なら安心です。小児眼科専門医のリストは、「日本小児眼科学会」のWEBサイトに載っていますので、参考にしてみてください。
また、“治療の最初の一歩”でしたら、まずは話しやすくて相性のいい、近くの眼科医に相談するのもよいと思います。その眼科で手術が受けられなくても、必要なら手術ができる眼科を紹介してもらえます。
定期的に通うとなると長いお付き合いになりますし、素直に相談できる眼科医がいると安心ではないでしょうか。
取材・文/星野早百合
※「子どもの逆さまつ毛」は全2回(公開日までリンク無効)
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●関連サイト
日本小児眼科学会
星野 早百合
編集プロダクション勤務を経て、フリーランス・ライターとして活動。雑誌やWEBメディア、オウンドメディアなどで、ライフスタイル取材や著名人のインタビュー原稿を中心に執筆。 保育園児の娘、夫、シニアの黒パグと暮らす。
編集プロダクション勤務を経て、フリーランス・ライターとして活動。雑誌やWEBメディア、オウンドメディアなどで、ライフスタイル取材や著名人のインタビュー原稿を中心に執筆。 保育園児の娘、夫、シニアの黒パグと暮らす。
林 思音
国立成育医療研究センター医員、眼科医。2004年、山形大学医学部医学科卒業後、山形大学医学部附属病院眼科、浜松医科大学医学部附属病院眼科などを経て、2021年、国立成育医療研究センター医員に。専門は、小児眼科学、斜視弱視学。 ●国立成育医療研究センターHP
国立成育医療研究センター医員、眼科医。2004年、山形大学医学部医学科卒業後、山形大学医学部附属病院眼科、浜松医科大学医学部附属病院眼科などを経て、2021年、国立成育医療研究センター医員に。専門は、小児眼科学、斜視弱視学。 ●国立成育医療研究センターHP