
夢中で読める極上のミステリーファンタジー「カトリ」シリーズ すべての謎がついに解き明かされる!
選考委員・如月かずさが語るシリーズの魅力と「講談社児童文学新人賞」挑戦者に伝えたいこと
2025.05.31
作家:如月 かずさ
くりかえし読んでも変わらずおもしろい作品の秘密
この『カトリと夜の底の主』を読むにあたって、シリーズを第1作から読みなおしました。第1作『カトリと眠れる石の街』は、最終選考のときからすでに6~7回は読んでいますが、それだけくりかえし読んでも変わらずおもしろいと思える魅力が、「カトリ」シリーズにはあります。
その魅力の源泉はいったいなんでしょうか。それはなによりまず主役だけでなくすべての登場人物が血が通っていきいきしていること、19世紀のエディンバラという読者に馴染みのない土地を鮮やかに描きだす巧みな舞台描写、そしてテンポとバランス感覚に優れた物語の構成ではないかと私は考えています。
これらの魅力は、海外を舞台にしたファンタジー作品を書くときでなくても非常に重要です。
そういった意味で、「カトリ」シリーズは小説家を目指している方や新人賞を狙っている方が、創作のテクニックを学ぶのにも、うってつけの作品ではないかと思います。舞台の描写や登場人物の造形などを意識して読むことで、新たな気づきを得られるのではないでしょうか。
新人賞に挑戦するときには、過去の受賞作を読むことがとても役に立つと自分自身の経験からも考えていますので、『カトリと眠れる石の街』が受賞した講談社児童文学新人賞を目標にしている方には特におすすめです。
もっとも、応募原稿をはじめて読んだときの私のように、当初の目的を忘れてカトリとリズの冒険に夢中になってしまうこともありえますが。
受賞しやすい作品とはなにか?
新人賞に関してさらにつけくわえるなら、講談社児童文学新人賞の受賞作は、現代を生きる子どもたちの身近な悩みと成長を描いた、いわゆるリアリズム系の作品が目立ちます。
私も講談社児童文学新人賞の受賞者なのですが、もともと書いていた冒険物語よりも、リアリズム系の作品のほうが受賞しやすいのではないかと考え、そちらのジャンルで挑戦して佳作をもらいました。
しかしこの傾向はおそらく、単に応募作にリアリズム系のものが多いせいでしょう。19世紀のエディンバラを舞台にしたミステリ&ファンタジーである『カトリと眠れる石の街』の受賞が証明しているとおり、どんなジャンルであっても、現代ものでなくても、読者に馴染みのない土地が舞台であっても、それが魅力的な作品ならば、きちんと賞に選ばれます。
ですので、講談社児童文学新人賞を目標にしている皆様は、リアリズム系にこだわることなく、自分がこれは絶対におもしろいと思う作品を応募してください。子どもたちにはリアルな物語とおなじくらい、冒険物語やファンタジーやミステリやメルヘンチックな動物童話が必要です。
過去の受賞者のひとりとして、さまざまなジャンルで優れた児童書の書き手が登場してくれることを願っています。
そしてまた東曜太郎さんの今後の活躍にも、おおいに期待しています。
エディンバラ編は完結しましたが、その結末はさらなる壮大な冒険を予感させるものでした。いつかカトリの新たな物語を読ませてもらえるときがたのしみでなりません。
「カトリ」シリーズだけでなく、またべつの作品でも、東さんはその才能を遺憾なく発揮されることでしょう。早速6月には、敗戦直後のヤミ市で生きる少年たちが主役の『灰とダイヤモンド』(岩崎書店)が発売予定とのことで、「カトリ」とはまったく違った舞台設定のこの物語にも大注目ですね。
東さんの活躍にめいっぱいのエールを送りながら、優秀な後輩に負けないよう、私も気を引き締めて新作の執筆に取り組まなくてはと思っています。
「カトリ」シリーズ一覧
第1作『カトリと眠れる石の街』

講談社刊
第2作『カトリと霧の国の遺産』

講談社刊
第3作『カトリと夜の底の主』

講談社刊
如月 かずさ
1983年、群馬県桐生市生まれ。東京大学教養学部卒業。『サナギの見る夢』(講談社)で第49回講談社児童文学新人賞佳作を受賞。『ミステリアス・セブンス―封印の七不思議』(岩崎書店)で第7回ジュニア冒険小説大賞を受賞。『カエルの歌姫』で(講談社)第45回日本児童文学者協会新人賞受賞。その他の作品に、『シンデレラウミウシの彼女』『スペシャルQトなぼくら』(講談社)、『給食アンサンブル』(光村図書出版)、『七不思議探偵アマデウス!」(静山社)、「ミッチの道ばたコレクション」シリーズ(偕成社)「なのだのノダちゃん」シリーズ(小峰書店)ほか多数。
1983年、群馬県桐生市生まれ。東京大学教養学部卒業。『サナギの見る夢』(講談社)で第49回講談社児童文学新人賞佳作を受賞。『ミステリアス・セブンス―封印の七不思議』(岩崎書店)で第7回ジュニア冒険小説大賞を受賞。『カエルの歌姫』で(講談社)第45回日本児童文学者協会新人賞受賞。その他の作品に、『シンデレラウミウシの彼女』『スペシャルQトなぼくら』(講談社)、『給食アンサンブル』(光村図書出版)、『七不思議探偵アマデウス!」(静山社)、「ミッチの道ばたコレクション」シリーズ(偕成社)「なのだのノダちゃん」シリーズ(小峰書店)ほか多数。