
こんなかぐや姫、見たことない! 『月虫の姫ぎみ』誕生の舞台裏
童話作家・富安陽子さん×漫画家・五十嵐大介さん トークショーを直撃! (2/2) 1ページ目に戻る
2025.10.03
ライター:山口 真央
五十嵐「絵本は漫画と違い、1枚の絵のなかに時間が流れている」

──五十嵐さんが描かれた『月虫の姫ぎみ』の絵をご覧になって、富安さんはどう思われましたか。
富安:この文章を書き終えたとき、五十嵐さんがお引き受けいただけなかったら、絵本にはできないだろうと思っていたんです。絵があがってくるたびに、嬉しくて泣きそうになって、興奮したメッセージを返した覚えがあります。
──富安さんが五十嵐さんにリクエストしたところはありますか。
富安:裏表紙に描かれている空港の風景は、相談して決めました。平安時代の風景にするアイデアもあったのですが、現代の景色にすることで月虫が長いスパンを生きていて、何百年に1度くらいしか地球にはこれないことを表せると思ったんです。
五十嵐さんの描いてくださった表紙は、説明的でないのに説得力があって、とても素敵な絵でした。絵本の強さって画面の大きさにあると思うのですが、ほぼ原寸大の月虫の顔が描かれています。こうなると月虫の笑った顔も見てみたいなと思ってご相談したところ、帯をとったら笑った顔が見える仕掛けにしてみようということになりました。笑った顔の月虫もなんともいえない表情で、お願いしてよかったと思いました。

──五十嵐さんが絵本の絵を描くうえで、気をつけていることやこだわっていることはありますか。
五十嵐:絵本は漫画と違って、1枚の絵のなかに時間が流れているので、どのタイミングを絵にするのかで印象が変わります。ちゃんと一番の見どころを見つけなきゃと思って、どの部分を絵にするかは結構考えますね。でも今回の『月虫の姫ぎみ』は、富安さんの文章が絵の割り振りをしっかり伝えてくださったので、本当に素晴らしいなと思いました。
──五十嵐さんが漫画を描くときと絵本を描くときでは、どんなところが違いますか。
五十嵐:漫画と絵本で、大きく意識を変えてはいません。ただ自分がやっている仕事のなかで、漫画が一番エネルギーをつかいます。ずっと集中している感じで、1~2年でものすごく疲弊してしまう。一方で絵本は表現の自由度がとても高いですし、自分のやりたいことに挑戦できる方法だと思っています。
──月や月虫の髪、瞳など、なぜ表紙は全体的に緑を多用されたのでしょうか。
五十嵐:私は月に緑っぽい印象があって、月を描くときは緑をつかって描くことが多いんです。髪の毛も美しい黒髪を「緑の黒髪」と表現することもありますし、思い切って全部緑にしちゃったら綺麗かなと思いました。あと目の中心を赤くすることは決めていたので、目を印象的に見せるために、補色にある緑をつかったということも理由の1つです。

──作品ではさまざまな虫や、羽化の様子などが描かれますが、おふたりが一番好きな虫を教えてください。
富安:私はカメムシが好きです。カメムシがうちに入ってきて、そのまま飼っているんですよ。カメムシ全般ではなく、いい香りのするうちのカメムシには愛着があります。
五十嵐:僕は「ナナフシ目」なんです。昔、石垣島のお祭りに参加したときに、とあるお家でナナフシを見つけてから、ナナフシがよく目に留まるようになりました。家の近所の道や庭木にも、ちょこちょこ見つけています。
──作品を描くとき、日常のなかで培ってきたものを材料としてお話を組み立てますか。それとも物語の準備期間に勉強しますか。
富安:私は書くために、たくさんの準備期間をとります。『天と地の方程式』というお話で数学が得意な子を書こうと思って、数学にまつわる本を何百冊と読みました。数学は苦手でしたが、おもしろいと思えるようになりました。いま書いている「博物館の少女」シリーズ(偕成社)は関連する本を1000冊以上読んでいると思います。史実の裏付けをとるため読むのではなく、自由に空想をするために読んでいます。
五十嵐:私の場合は、普段から興味を持っていることで、お話を組み立てることが多いです。でも実際に絵を描くためには足りないこともあるので、補うために取材したり、資料を読んだりしています。新しい材料が入ってくることで、さらに絵のアイデアやイメージが広がることが多いですね。

富安陽子
東京都生まれ。児童文学作家。『クヌギ林のザワザワ荘』で日本児童文学者協会新人賞、小学館文学賞、「小さなスズナ姫」シリーズで新美南吉児童文学賞、『空へつづく神話』で産経児童出版文化賞、『やまんば山のモッコたち』でIBBYオナーリスト2002文学賞に、『盆まねき』で野間児童文芸賞、産経児童出版文化賞フジテレビ賞を受賞。2026年国際アンデルセン賞日本の作家賞候補に選ばれる。そのほかに「シノダ!」シリーズ(偕成社)、「オニのサラリーマン」シリーズ(福音館書店)、「天と地の方程式」シリーズ(講談社)など、著作多数。第8代大阪国際児童文学振興財団理事長。
五十嵐大介
埼玉県生まれ。多摩美術大学卒業後、月刊「アフタヌーン」(講談社)にて漫画家デビュー。『魔女』(小学館)で第8回文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞、『海獣の子供』(小学館)で第38回日本漫画家協会賞優秀賞、第13回文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞を受賞。ほかの作品に『リトル・フォレスト』『かまくらBAKE猫俱楽部』(ともに講談社)など、絵本作品に『バスザウルス』(亜紀書房)、『ねこまがたけ-ばけねこしゅぎょうのやま』(作・加門七海編・東雅夫/岩崎書店)『ホタルの光をつなぐもの』(文・福岡伸一/福音館書店)などがある。
山口 真央
幼児雑誌「げんき」「NHKのおかあさんといっしょ」「おともだち」「たのしい幼稚園」「テレビマガジン」の編集者兼ライター。2018年生まれの男子を育てる母。趣味はドラマとお笑いを観ること。
幼児雑誌「げんき」「NHKのおかあさんといっしょ」「おともだち」「たのしい幼稚園」「テレビマガジン」の編集者兼ライター。2018年生まれの男子を育てる母。趣味はドラマとお笑いを観ること。