子どもによる子どものための居場所…「みんなでごはん」の底力

児童文学『夜カフェ』シリーズ誕生の秘密

「こんな居場所がほしい!」「わたしも行きたい」という声が数多く寄せられてきた児童文庫の人気シリーズ『夜カフェ』。子どもたちのみならず、大人からも熱い支持を得てきたこの作品が、ついに完結します。

著者の倉橋燿子氏は、思春期の子どもたちが困難を乗り越え成長していく姿を描いてきたベテラン作家。『風を道しるべに…』『いちご』などで、著者の作品に親しんだことのある方もいらっしゃるでしょう。作品が生まれた背景には、「ひとりぼっち」だったという著者の子ども時代の体験があったと言います。倉橋燿子氏の書き下ろしでお届けします。

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イラストレーターたま氏によるイラストも人気の秘密『夜カフェ(1)』講談社青い鳥文庫。

主人公は「ぼっち」の中学生

物語は、学校ではのけ者になり、家ではケンカばかりする両親にいたたまれなくなった主人公ハナビ(中1)が、カフェを営む叔母のところに家出するところから始まります。

彼女を迎えた叔母は意外にも「かっこいいじゃない!」と笑います。

「いい子じゃなければ愛されない」と思っていたハナビは、初めて自分を受け入れられた気持ちになります。

すると、「いつもひとりぼっち」だと思っていた自分の悲しみや寂しさに向けられていた目が他の人にも向けられていきます。そして、「ひとりぼっち」なのは、自分だけじゃないと気づきます。

そこでハナビは、みんなで一緒にごはんを食べられる場所を開きたいと願うようになり、叔母が経営するカフェを借りて、小学生と中学生のための食事の場『夜カフェ』を創ります。

ふだんはひとりでごはんを食べることが多い子どもたちが集まって一緒にごはんを食べるうちに、悩みや本音を打ち明け合い、時にはケンカになったりしながらも、次第に仲良くなっていくという内容です。

その日何を作るかはもちろん、どんな企画を実行するかもすべて子どもたちが決め、進めていくのも子どもたち自身。

『夜カフェ』とはまさに、子どもたちによる子どもたちのための居場所なのです。

ひとりぼっちだった小学生の自分

私はこれまでさまざまな場所にある小中学校で講演をさせていただいてきましたが、子どもたちの悩みの多くは、「居場所がない」「友だちができない」「やりたいことがわからない」というもの。

私も同じでした。

母に常に「いい子」であることを求められていた私は、その期待に応えようと必死でした。

たとえば「いい子」の条件として、勉強はどの科目もできて当たり前というのが母の考えでした。

算数が大の苦手だった私はテストのたびに家に帰るのが嫌で嫌で、返ってきたテストの点数の悪さに震えながら帰宅していました。案の定、母からは、延々とお説教!

また友だちのあいだで人気があるということも母から言われた 「いい子」の 大きな要素でした。

なので、嫌われたらどうしようという思いがいつもあって、つい友だちの顔色をうかがってしまう。そんなオドオドした態度のせいか、かえって嫌われ、のけ者になって、ひとりぼっち……。

家にも学校にも居場所がなくて、トボトボと一人帰宅する日々でした。

だから、子どもたちの悩みを知った時は、「他人事じゃない!」って思わずこぶしをにぎりしめたものでした。

どんな物語にすれば子どもたちを励ますことができるんだろう? と、それを考えながら、これまで200冊近くの物語を書いてきました。

子どもたちからは、「こんな居場所がほしい!」「わたしも行ってみたい」「主人公と自分が似ている」といった感想が寄せられている。(講談社青い鳥文庫公式サイトより)

一緒にごはんを食べたら…

ある時、同時に別々の親戚から頼まれて、我が家で二人の女の子を預かることになりました。

一人は高校生。勉強熱心だけれども他のことには一切興味がない。もう一人は高校を退学して何をするでもなくフラフラしている。この二人と私の娘と合わせて三人で、私の仕事が忙しい時など、一緒にごはんを作って食べていました。

それまで面識がなかった三人は、始めのころはよそよそしい態度だったのですが、野菜の切り方や味つけなどを相談しあっているうちに、不思議とどんどん仲良くなっていったのです。

夜、誰かの部屋に集まって、なにやら話しこんでいたりすることもありました。

やがて、その子たちが自分の友だちを連れてくるようになり、食卓を囲む人数はさらに増えて……。

そうか……、一緒にごはんを食べるって、そういう効果があるのか! と、気づきました。

おいしいものが心までほぐすのか、最初は緊張していても、ごはんを食べているうちに、誰でも自然にリラックスしていくのかもしれないと思いました。(それだけに、コロナ禍で「黙食」せざるを得ないのが残念でなりません。)

せめて本が居場所になれば

子どもたちが学校でもなく自宅でもない場所で出会うこと、だからこそ出せる自分。そして新しい発見

自分のさまざまな経験をもとに、子どもたちのためのこんな場所があったらいいなと心から願いながら書いたのが『夜カフェ』という作品です。

実際には存在しなくても、『夜カフェ』という本そのものが、せめて子どもたちの居場所になってくれますように。
 

倉橋燿子(くらはし・ようこ)

広島県生まれ。上智大学文学部卒業。出版社勤務、フリー編集者、コピーライター を経て、作家デビュー。講談社X文庫『風を道しるべに…』等で大人気を博した。 その後、児童読み物に重心を移す。主な作品に、『いちご』、『青い天使』、『パセリ伝説』、『小説 聲の形』(原作:大今良時)、『生きているだけでいい!~馬がおしえてくれたこと~』、『夜カフェ』(以上、すべて青い鳥文庫/講談社)、『倉橋惣三物語 上皇さまの教育係』(講談社)、『風の天使』(ポプラ社)などがある。

『夜カフェ(1)』倉橋燿子:作、たま:絵(講談社青い鳥文庫)

新しい自分に生まれ変わりたい! 居場所を見つけたい!

あたしは中1の黒沢花美(くろさわ・はなび)。新しい自分に生まれ変わろうと中学受験したのに、すべて不合格。地元の公立中学に入学することに。小学校と変わらない人間関係、部活には入りそびれ、家ではパパとママがけんかばかり。もう、こんな毎日いやっ!  あたしは家を飛び出し、カフェを営む叔母さんの家へ。そこには、見知らぬ男子が暮らしていて……。居場所をさがしてもがく花美の恋と友情の物語、スタート!

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