児童文学新人賞でデビューした作家がぶっちゃけトーク 子どもに「忖度」せず「積み重ねて」書く

『保健室経由、かねやま本館。』松素めぐり×『カトリと眠れる石の街』東曜太郎

児童図書編集チーム

第65回講談社児童文学新人賞の締め切りは、2024年3月31日です。締め切り間近で、受賞への手がかりがほしい……そんな作家志望の方に朗報です!

第60回講談社児童文学新人賞を受賞した松素めぐりさんと、第62回講談社児童文学新人賞佳作を受賞した東曜太郎さんに、特別インタビューを行いました。

物語を書きあげるコツから、編集部員をうならせたテクニックのお話、設定の考え方など、ここでしか聞けない作家さんのエピソードがてんこ盛りです!

作家を目指しているけど、なかなか新人賞が受賞できない! 物語を書くことに興味はあるけど、プロはどうやって書くの? そんな疑問を持つ人は必読です。

お話しするのはこの3人!

松素めぐり
1985年生まれ。東京都出身。多摩美術大学美術学部絵画学科卒業。本シリーズ第1巻『保健室経由、かねやま本館。』で第60回講談社児童文学新人賞を受賞。『保健室経由、かねやま本館。』第1~3巻で第50回児童文芸新人賞を受賞。

東曜太郎
1992年生まれ。千葉県出身。一橋大学社会学部卒業。エディンバラ大学国際関係専攻修士課程修了。「カトリとまどろむ石の海」(『カトリと眠れる石の街』に改題して刊行)で第62回講談社児童文学新人賞佳作を受賞。

編集A
児童図書に携わる編集者。松素さんと東さんの作品を担当。

松素めぐり先生のご自宅の本棚。執筆がとどこおったときには読んで刺激をもらっているという。  提供:松素めぐり

松素「絵本のつづきを息子に聞かれて物語を書きはじめました」

編集A:作家志望の方々が執筆のヒントになる記事をつくりたいと思い、インタビューを企画しました! 本日はよろしくお願いいたします。松素さんが受賞されたのが5年前、東さんが受賞されたのが3年前ですね。まず、おふたりが小説を書こうと思ったきっかけを教えてください。

松素:私のきっかけは、子育て中の読み聞かせです。ある絵本を読み終えたとき、5歳の息子に「お話のつづきが聞きたい」と言われて、その場で考えてみました。その話が思いのほか息子にウケて、リアクションがうれしく、小説を書いてみたいと思うようになりました。

ぼくはコロナ禍の自宅待機に息が詰まり、本を読んだり、映画をみたりしているうちに、自分で物をつくりたくなっていきました。講談社児童文学新人賞の応募締め切りが近かったので、児童文学を書くことに決めたんです。松素さんも、児童文学新人賞を目指して応募していたんですか。

松素:そうですね。講談社児童文学新人賞に2回、大人の文芸賞に1回応募しています。講談社児童文学新人賞に最初に応募した作品は、自分の思いが強すぎたという反省があります。

編集A:ちなみに、どんなストーリーだったのですか。

松素:死んだあとに天国にも地獄にもいけない人が、最後の審判を受けるまでの5日間を描きました。コメディ要素も入れていたのですが、罪と向き合うことをテーマにしていたので、すこし説教臭くなってしまったなと。

:自分の作品を客観的に読むのって、本当に難しいです。

松素:そうですね。私は時間を置いてから、確認するようにしています。ほかの作品を書いたり、ほかの本を読んだりすると、自分の文章の粗に気づけることが多いです。

東「主人公を女の子にしたのは既出の話に似ないようにするため」

第62回講談社児童文学新人賞佳作受賞作品『カトリと眠れる石の街』。著:東曜太郎 イラスト:まくらくらま

編集A:受賞した作品の、設定についてお伺いしたいです。松素さんが講談社児童文学新人賞を受賞した『保健室経由、かねやま本館。』は学校の保健室が温泉旅館につづいており、湯治場で中学生たちが癒やされ、生きるヒントを得るというお話です。どのようにストーリーを思いつきましたか。

松素:子どものころ、蛇口をひねったら、オレンジジュースが出ればいいな、と思った人は多いのではないかと思います。最初はそれくらいの気持ちで「学校に温泉があったらいいな」という私の願望から、すこしずつ内容を固めていきました。

編集A:『保健室経由、かねやま本館。』は中学生の悩みが物語の鍵になっています。応募作の主人公は、人気者なのにいじめに遭っていて、共感性が高いけれど、あまり見たことのない主人公だと感じました。中学生のリアルな感覚はどこかで調査していますか。

松素:家の近所に、ご自宅を開放されてつくられた、小さな図書館があるんです。そこが子どもたちの居場所になっていて、私も時おり顔を出します。年の離れた友だちのような感覚で、本を通して会話をしたり、お茶を飲んで雑談したり。彼らとの日常会話から、物語のヒントをもらうことが多いです。

また私の願望が「かねやま本館」を書いたきっかけなので、中学生の心情描写は「自分だったらどう思うか」を基準に描いています。逆に「かねやま本館」の銀山先生や小夜子さんは、自分が中学時代に憧れた人や、理想の大人を詰めこんでキャラクターをつくっています。

第60回講談社児童文学新人賞受賞作品『保健室経由、かねやま本館。』。著:松素めぐり イラスト:おとないちあき

編集A:中学生と話ができる機会があるのは、素晴らしいですね。松素さんが、リアルで共感性の高い物語をつくられている秘訣がわかりました。東さんの佳作受賞作品『カトリと眠れる石の街』は、舞台がイギリスのエディンバラです。海外を舞台に物語を書こうと思ったきっかけを教えてください。

:子どものころに海外の冒険ものの小説をたくさん読んでいて、児童文学といえば冒険ファンタジーだ、という勝手な思いこみがありました。また大学院時代にエディンバラに留学して、街全体が何かを隠しているような構造に惹かれていたのも、海外ものを描いた理由のひとつです。

編集A『カトリと眠れる石の街』は、主人公の少女カトリが友人のリズとともに、エディンバラで流行する「眠り病」の謎を解き明かす物語です。時代設定が19世紀後半ですが、現代の子どもたちに読んでもらうためにどんな工夫をしましたか。

:最初、主人公は男の子にしようと考えていましたが、労働者の男の子とお嬢様の設定だと、『天空の城ラピュタ』などの既存の作品と似てしまうなと。主人公を女の子にしたあとに、当時の女性の教育環境なども調べたりして、物語をふくらませていきました。

編集A:東さんは海外文献をたくさん読まれていますよね。一度、東さんの小説に出てきた名称を調べていて、唯一ヒットしたウィキペディアが、東さんご本人が書いていたものだったことがありました(笑)。

:小説を書く前はウィキペディアン(ウィキペディアを書く人)でした。歴史的な文献はたくさん調べますが、最後は現代人が読んでおもしろいようにチューニングすることを忘れないようにしています。イタリアの哲学者、ベネット・クローチェが「すべての歴史は現代史である」と語ったことに近いのですが、あくまで受け手は今の読者なので、歴史の資料から共感できる部分を抽出して、物語に落としこむが、大変ですがおもしろい作業です。

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