木でできた「偽物」はどっち? 超難問の「木彫り」絵本をつくったキボリノコンノがデザイナーと制作秘話を語る

絵本『どっち?』刊行記念 キボリノコンノさん・脇田あすかさん・山口日和さん特別鼎談

ライター:山口 真央

脇田「読者が絵本に没入できる余白をつくることが大切」

絵本『どっち?』を手にするキボリノコンノさん(中央)と、コンノさんの木彫り作品を手にするデザイナーの脇田あすかさん(左)、山口日和さん(右)。

──脇田さんと山口さんは絵本『どっち?』をデザインするうえで、どのようなところにこだわりましたか。

脇田:どれが木彫り作品がわからないぐらい、完璧な写真ができあがったのですが、一方で綺麗にまとまりすぎると広告っぽく見えてしまう懸念もありました。次から次へと写真を見せて、読者に「本物はどっち!?」と迫るだけでなく、読み物として楽しめるものにまとめたい気持ちがありました。

キボリノコンノ:僕も学生のころデザインの勉強していたのですが、『どっち?』は本当に好きなデザインで感動しました。具体的にどんなところを気をつけましたか。

脇田:余白のつくり方で、読者の目の動きを誘導したり、見る人がこの世界にグッと入り込めるよう意識しました。最初はカステラ1個のシンプルなアイテムからはじまって、ページをめくるにつれて、どんどんと一冊のなかで物語が感じられるように構成も考えました。

キボリノコンノ:絵本のデザインは奥深いですね。僕の作品の面白さは、子どもも大人も同じレベルで悩めることにあると思うのですが、この絵本も年齢問わず楽しめるデザインにしてくださいました。

脇田:そうですね。子どもが手に取りたくなるわかりやすさを残しつつ、大人も楽しめることも伝えられるような、絶妙なラインを狙いました。

山口「絵本は視覚だけでなく五感で味わってほしい」

デザイナーの山口日和さん。

──木彫り作品をつくるキボリノコンノさん、本の装丁をしている脇田さんと山口さん。3人ともアナログなものづくりに携わっていますが、アナログ作品へのこだわりや魅力を教えてください。

キボリノコンノ:先ほど脇田さんが余白をあえて残すとお話しされていましたが、僕も見ている人がどちらが木彫りか探りたくなる「余地」を残すようにしています。

たとえば木彫りの着色は、筆に絵の具をつけて塗っていますが、これをエアブラシで着色してしまうと、本当に区別がつかなくなるぐらいリアルになってしまう。拡大すれば、どちらが木彫りかわかるアナログ感をあえて残しておくと、見ている人がより楽しんでくれる実感があります。

脇田:たしかにキボリノコンノさんの作品は、木彫りの完成度に驚くだけじゃなくて、どちらが本物か考えるところまでがセットで魅力的ですよね。SNSの投稿もカジュアルで楽しいですが、絵本『どっち?』にまとめたことで、コンノさん作品の強度が増したように感じます。

キボリノコンノ:そう言ってもらえると嬉しいです。作品づくりを頑張った甲斐がありました。

脇田:私は常々、本を読むという行為自体に喜びがあると感じていて。家族や友達とページを覗きこんで、ああだこうだと言い合ったり、ページをめくって前の場面と次の場面を見比べたりできる。その行為すべてが尊いことだと思います。絵本『どっち?』は、特にその喜びを感じられるものになっていると思います。

山口:質感を五感で感じられるのも、本の魅力ですよね。紙のザラザラやつるつるとした感触、本の重さやページをめくるときの感覚など、アナログの本だからこそ体験がより豊かになる。絵本『どっち?』も帯を面白い紙にしたので、ぜひ手で触れて楽しんでほしいです。

脇田:そうそう、帯にはクラフト紙をつかいました。こういう紙は実際に印刷してみないと、インクとの相性などもあり、うまくいくかわかりません。ドキドキですが、それも含めて紙の本をつくる醍醐味だと思っています。

キボリノコンノ:その気持ち、わかります。僕も木彫りするとき、一度彫り間違えたら後戻りできないスリルを楽しんでいるので(笑)。失敗があるからこそ、ものづくりを深く楽しめている感覚があります。

めくるという行為で言えば、絵本『どっち?』は絵本を手にした人にしかわからない、繰り返し読みたくなる仕掛けも用意されています。絵本を手にした人の特権なので、ぜひ何度でも楽しんでもらえたら嬉しいですね。

キボリノコンノ
1988年生まれ。2021年に趣味で木彫りを始め、「あっと驚くもの」をテーマに身近な食べ物や生活雑貨を木彫りで再現。「溶けかけの氷」や「シガールと袋」、「注がれるコーヒー」など数多くの作品がTVやSNSなどで話題となり、2023年からプロの木彫りアーティストとして本格的に活動を開始。全国各地で展覧会やワークショップなどのイベントを開催。

脇田あすか
グラフィックデザイナー・アートディレクター。1993年生まれ。東京藝術大学デザイン科大学院を修了後、コズフィッシュを経て独立。あらゆる文化に対してのデザインに携わりながら、豊かな生活をおくることにつとめる。過去の仕事にPARCO、LUMINE、HARUTAなどのファッションシーズンビジュアル、 店舗や展覧会のアートディレクション、書籍やCDジャケットのデザインなど。またアートブックやスカーフなどの自主制作作品もつくり続けている。instagram @wakidaasuka

山口日和
グラフィックデザイナー。1998年生まれ。
筑波大学芸術専門学群ビジュアルデザイン領域卒
instagram @hiyooriy

糸井重里氏も絶賛! 新感覚の木彫り絵本『どっち?』

「本物か、木物か? だまされたくて、何度も見ちゃう絵本だよ。」糸井重里氏も絶賛した新しい木彫りのクイズ絵本が、2023年12月7日に発売されます。

メディアでも多数取り上げられている木彫りアーティスト・キボリノコンノさんが、本物にそっくりな木彫り作品を生み出しました。たくさんならんだ小魚や、おいしそうなチーズにも、ひとつだけ木でできたものが混ざっています。

どちらが本物か、あなたは見抜けますか? ひとりでもみんなでも、子どもも大人も楽しめるクイズ絵本です。

写真/大坪尚人(講談社写真映像部)

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やまぐち まお

山口 真央

編集者・ライター

幼児雑誌「げんき」「NHKのおかあさんといっしょ」「おともだち」「たのしい幼稚園」「テレビマガジン」の編集者兼ライター。2018年生まれの男子を育てる母。趣味はドラマとお笑いを観ること。

幼児雑誌「げんき」「NHKのおかあさんといっしょ」「おともだち」「たのしい幼稚園」「テレビマガジン」の編集者兼ライター。2018年生まれの男子を育てる母。趣味はドラマとお笑いを観ること。