木でできた「偽物」はどっち? 超難問の「木彫り」絵本をつくったキボリノコンノがデザイナーと制作秘話を語る

絵本『どっち?』刊行記念 キボリノコンノさん・脇田あすかさん・山口日和さん特別鼎談

ライター:山口 真央

木彫りアーティスト・キボリノコンノさんの絵本『どっち?』の表紙。

食べ物そっくりの木彫り作品を、SNSに投稿している木彫りアーティスト、キボリノコンノさん。キボリノコンノさんのつくるお菓子や食材の木彫り作品は「どっちが本物?」とⅩ(旧Twitter)で話題となり、何度もバズっています。

そんなキボリノコンノさんの絵本『どっち?』が、2023年12月7日に発売! たくさん並んだ小魚やおいしそうに並べられたカヌレに、1つだけ木彫り作品が混ざっている、新感覚クイズ形式の絵本です。

絵本のブックデザインを担当したのは、デザイナーの脇田あすかさんと山口日和さん。脇田さんと山口さんは紙面のレイアウトだけでなく、木彫り作品の撮影にも立ち会い、よりリアルな見せ方や、絵本としてかわいく見える魅せ方など、さまざまな角度からディレクションをされました。

そんなキボリノコンノさん、脇田さん、山口さんに、絵本『どっち?』の制作秘話をインタビュー。それぞれのこだわりや、撮影の裏話など、絵本づくりにまつわるアレコレを語っていただきました!

木彫りアーティストのキボリノコンノさん(中央)、デザイナーの脇田あすかさん(右)、山口日和さん(左)。

キボリノコンノ「絵本の作品づくりで木彫りの腕が上がりました」

木彫りアーティストのキボリノコンノさん。

──まず絵本『どっち?』がつくられることになった経緯を教えてください。

キボリノコンノ:もともと僕がⅩで、木彫り作品と本物の食べ物を並べて「どちらが木彫りか?」というクイズを出していたことがはじまりです。ヨックモックのシガールを木彫りでつくった作品は、何度かバズったので見たことがある人は多いかもしれません。

その投稿を見た編集者さんが、木彫りと本物を見比べる絵本をつくってみないかと声をかけてくれました。連絡をもらったときは、自分のコンテンツをそんなふうに扱ってくれるんだという驚きもあり、嬉しかったですね。

脇田:私は前から、キボリノコンノさんの作品をⅩで目にしており、それこそシガールの木彫りクイズをスマホ上で拡大して「わからないなあ」と楽しんでいました。なのでキボリノコンノさんの絵本のデザインをやらせていただけると聞いて、二つ返事でやりたい!とこたえました。

キボリノコンノ:脇田さんと山口さんは、装丁だけでなく、アートディレクターの役も担ってくれました。当初、僕が過去につくった作品だけで構成するつもりでしたが、脇田さんたちと相談を重ねるうちに、新しい作品をつくったほうがもっと面白くなりそうという話に膨らんできましたよね。

山口​:そうなんです。キボリノコンノさんの過去の作品を見ていて、木に近い質感の硬いものだと、本物と並べたときに違いがわかりにくいのかもと考えました。物を見極める力のある​、スタイリストの田中美和子さんと相談しながら、こんな木彫り作品をつくってはどうかと提案させていただきました。

キボリノコンノ:最終的には掲載している作品の半分が、この絵本のためにつくった新作となりました。絵本になるならと気合が入って、自分の技術もどんどん進化していって(笑)。新しい挑戦という感じで、作品づくりは楽しかったですね。

脇田「表紙にぴったりのフランスパンを見つけるのに苦労しました」

デザイナーの脇田あすかさん。

──コンノさんの技術力がアップしたところも、絵本の見所となっているのですね。掲載された作品で、印象に残っている作品はありますか。

脇田:全部の作品に思い出がありますよね! でも特に大変だったのは表紙のフランスパン。帯をめくると、どちらが木彫り作品かわかるようになっています。

キボリノコンノ:最初はチョコレートにしようと話していたのですが、より本物らしく見える物のほうがいいと脇田さんが提案してくれたんですよね。フランスパンを選んだ理由を教えてくれますか。

絵本『どっち?』の表紙。どちらが木でできているか、わかりますか?

脇田:マカロンやカステラなどの甘いお菓子が表紙になると、物のキャラクターが強すぎて、絵本全体にかわいいイメージがついてしまうと思いました。それよりはお米やパンのような、飾り気のないプレーンなモチーフがいいと思って。横長の絵本の判型的にも、これがぴったりということで落ち着きました。

山口:フランスパンの表面にあるくぼみを「クープ」といいますが、この形や数でパンの印象が変わってしまうんです。誰が見ても「フランスパン!」という形にするため、かなり試行錯誤しました。

絵本『どっち?』の1ページ。カップに注がれたコーヒーのうち、どちらかが木彫り作品です。

脇田:撮影が大変だったのは、ダントツでコーヒーでしたね。キボリノコンノさんがつくった木彫り作品は、いままさにコーヒーが注がれている様子。注がれる液体の細さと、カップに入っているコーヒーの量が、ほぼ同じになるように撮影するのがむずかしかったです。

山口:スタイリストの田中さんが、計量カップとかペットボトルとか、いろいろなものから注いで試してくれました。最終的にビーカーから注ぐのがいいという結論になって、10回以上撮影してこの写真が撮れました。

絵本『どっち?』の一部。このカヌレも、どれかが木彫りの作品。

キボリノコンノ:僕が思い出深いのはカヌレかな。じつは撮影前日の夜9時に、撮影用のカヌレを注文していないことに気づいたんです。静岡県内の「yuu」さんという洋菓子屋さんのカヌレを見本にしていたので、大急ぎでお店に電話をかけたら「いまからつくります」と言ってくださって。しかも朝早くに駅まで届けてくれました。

脇田:そんな事件があったとは! 撮影に間に合ってよかった。しかもこのカヌレ、とっても美味しかったですよね。

キボリノコンノ:そうなんです。「yuu」さんは美味しいだけじゃなく、とっても優しい方々で……。絵本『どっち?』は僕ひとりの力じゃなく、脇田さんや山口さん、スタイリストの田中さん、フォトグラファーのアキタさん、編集者さん、お店の方々など、たくさんの人の協力があってできました。携わってくれた皆さんに、心から感謝したいですね。

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