谷川俊太郎さんに「話せなかった」エピソード 担当編集者が明かす詩集『たったいま』の思い出

▲『谷川俊太郎詩集 たったいま』のカバー袖。イラストは、佐野洋子さんの息子で画家の広瀬弦さんが手がけた。
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谷川さんの作品の特徴として、テーマはいつも命で、背景には戦争があります。

詩集のタイトルに選んだ「たったいま」の一部を、カバー袖に載せました。

「たったいま」という言葉で始まるこの詩は、人はだれもが死を迎えること、自分にもいつか訪れる死を想うことで、今、この瞬間の命を大切に感じられる作品です。

青い鳥読者の子どもたちに伝えたいことのエッセンスとしては、ややエッジが効きすぎかもしれなかったのですが、ここがいいなと思ったのでした。

生命力の強さ、すばらしさをうたう「春に」「生きる」なども選びました。

子どもたちに人気の「かっぱ」「いるか」「おにのおにぎり」も載せました。

そして、新作を書いていただくことができ、「何か」を最後に収録しています。

▲谷川俊太郎さんが青い鳥文庫の詩集のために書き下ろした新作『何か』は、最後に収録されている。(『谷川俊太郎詩集 たったいま』もくじより)

「地球へのバラード」は、私がはじめて出会った谷川さんの合唱曲でした。そのときは、こんな日が来るとは思ってもみませんでした。

それを谷川さんに話してみようと思ったのですが、全人類を、すべての生き物を、宇宙の森羅万象を歌っている谷川さんに、入社試験などという、そんなチマチマしたエピソードはあまりに似つかわしくなく、とても話せませんでした。

話せないまま、収録作品にも入れませんでした。それでも、私の選んだ作品のリストを見て、谷川さんはそのままオーケーしてくださいました。

だから話してみたらよかったかもしれません。

▲谷川俊太郎さんの世界観を、美しく静謐に表現した広瀬弦さんのイラスト(『谷川俊太郎詩集 たったいま』より)

絵は広瀬弦さんが、幻想的なすばらしいイラストを描いてくださいました。広瀬さんは、佐野洋子さんの息子さんです。

2019年に、ようやく刊行できました。

いろいろつながった仕事でした。

この詩集を出してからは、たびたび取材のアテンドで谷川さんをお訪ねしました。

いつもにこやかに迎えてくださいました。

「地球へのバラード」の終曲「地球へのピクニック」には、“地球人”のふつうの営みが語られています。

私は谷川さんの前で、いつも緊張していたのでした。

ご冥福をお祈りいたします。

(文/山田智幸野)

『谷川俊太郎詩集 たったいま』(谷川俊太郎/詩、広瀬弦/絵)

教科書でも子どもたちにおなじみの詩人・谷川俊太郎さん。その膨大な作品のなかから、37編を選び、新作も収録。子どもたちに、日々の生活のなかで好きな作品を楽しんでもらえたらと思います。

心が大きく成長する子どもたちへ、つらい気持ちに寄り添ったり、大人の本音を明かしたり、社会への疑問を問いかけたり、世界平和を考えたりする詩を届けます。

流れていく時間を止めようとせず大人の世界の扉を開けることをためらわないで、というメッセージを込めています。

谷川俊太郎の世界観を表現する広瀬弦さんの絵も美しく、心が静かになります。

『せんそうしない』(谷川俊太郎/文、えがしらみちこ/絵)

「ちょうちょと ちょうちょは せんそうしない/きんぎょと きんぎょも せんそうしない/くじらと くじらは せんそうしない/まつのき かしのき せんそうしない」

「ちきゅうに いきる いきものの なかで/せんそうを はじめるのは にんげんだけ/それも おとなだけ」(『せんそうしない』より)

詩人・谷川俊太郎さんの言葉で語られる戦争への思いと、絵本作家・えがしらみちこさんによる透明な生命力のあふれた絵が融合した作品。人間の知恵はどこにあるのかを、静かに問いかける一冊。

『ありがとう』(谷川俊太郎/文、えがしらみちこ/絵)

谷川俊太郎さんの名詩に、えがしらみちこさんが"卒業の日に「私」が思うこと"というイメージを膨らませ描いた美しい絵をそえて。新しい道を歩き出す人に贈りたい、珠玉の絵本。

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たにかわ しゅんたろう

谷川 俊太郎

Shuntaro Tanikawa
詩人

1931年、東京に生まれる。1952年に第一詩集『二十億光年の孤独』(東京創元社)を刊行。以後、詩、絵本、翻訳、作詞など幅広く活躍。1962年には「月火水木金土日のうた」で第4回日本レコード大賞作詞賞を、また1975年には『マザー・グースのうた』で日本翻訳文化賞を受賞している。1988年野間児童文芸賞、1993年萩原朔太郎賞を受賞ほか、受賞多数。 絵本作品に『ことばあそびうた』(福音館書店)、『マザー・グースのうた』(草思社)、『これは のみの ぴこ』(サンリード)、『もこ もこもこ』(文研出版)、『まり』(クレヨンハウス)、『わたし』(福音館書店)、「ことばとかずのえほん」シリーズ(くもん出版)他多数の作品がある。『スイミー─ちいさな かしこい さかなの はなし─』(作:レオ゠レオニ、好学社)や「にじいろのさかな」シリーズ(作・絵:マーカス・フィスター、講談社)など、翻訳作品も多数。 写真:所靖子(絵本ナビ)

1931年、東京に生まれる。1952年に第一詩集『二十億光年の孤独』(東京創元社)を刊行。以後、詩、絵本、翻訳、作詞など幅広く活躍。1962年には「月火水木金土日のうた」で第4回日本レコード大賞作詞賞を、また1975年には『マザー・グースのうた』で日本翻訳文化賞を受賞している。1988年野間児童文芸賞、1993年萩原朔太郎賞を受賞ほか、受賞多数。 絵本作品に『ことばあそびうた』(福音館書店)、『マザー・グースのうた』(草思社)、『これは のみの ぴこ』(サンリード)、『もこ もこもこ』(文研出版)、『まり』(クレヨンハウス)、『わたし』(福音館書店)、「ことばとかずのえほん」シリーズ(くもん出版)他多数の作品がある。『スイミー─ちいさな かしこい さかなの はなし─』(作:レオ゠レオニ、好学社)や「にじいろのさかな」シリーズ(作・絵:マーカス・フィスター、講談社)など、翻訳作品も多数。 写真:所靖子(絵本ナビ)