子どもの「ひとり言」止めなくて大丈夫 「嘘」は成長の証拠 発達心理学の専門家が解説

子育てがちょっとラクになる「こども心理学」小塩真司先生インタビュー #6

ライター:中村 美奈子

▲幼児の「ひとり言」の理由を発達心理学の視点で解説します(写真:アフロ)

子どものおしゃべりが長かったり、声が大きかったりすると、周囲の目が気になりますよね。静かにさせたほうがいい? そのままでも大丈夫? その悩み、心理学を知ると「悩まずに、やれることをやってみよう」へと変換することができます。教えてくれるのは、発達心理学の専門家で書籍『こども心理学』の監修もつとめる小塩真司先生(早稲田大学教授)。

心理学は、目には見えない“こころ”を、科学を使って明らかにする学問。心理学で“こころ”の働きのパターンを知ると、生きるのがちょっぴり楽になります。

小塩真司(おしお・あつし)早稲田大学文学学術院教授。専門は発達心理学、パーソナリティ心理学。

【お悩み】4歳の子が、よくひとり言を言っています。家ではいいですが、周囲に人がいると迷惑がかかりそうなので、やめさせるほうがいいですか?

【ヒント①】ひとり言は止めなくても大丈夫!

幼児は「ひとり言期」を通過して、頭の中で考えることができるようになっていく(画像:書籍『こども心理学』より)

小塩先生:4~5歳になると、ひとり言が増えます。幼稚園や保育園で子どもをよく観察すると、おしゃべりの大部分がひとり言になっています。

理由は、頭の中で考えることが難しいので、口に出して考えているから。これは無意識にやっていることなので、本人は口にだしてしゃべっているとは気がついていないかもしれません。

幼児は「ひとり言期」を通過して、頭の中で考える(声に出さずに頭の中だけで思考する)ことができるようになっていきます。この時期はひとり言を止めると、思考を止めてしまうことになってしまう場合もあります。ですから、「今この子は、いっぱい考えているんだな」という気持ちで、見守ってあげましょう。

とはいえ、あまり大きな声だと、周囲の人に迷惑ではないかと、気になってしまうと思います。できれば「ひとり言は、子どもの成長過程で起きること」だということが社会全体の知識として広まって、みんなで見守りができる社会になるとうれしいですよね。「ひとり言」以外にも、「もっと知ってもらえたら」と思うことがたくさんあるんです。普段から親が、子どもの発達心理に関する知識に興味を持ち、知っておくことが大切です。

【ヒント②】疲れている?

小塩先生:小学生以上の子どもが、急にひとり言を言うようになったら、脳に負担がかかっている状態かもしれません。

大人も疲れていると「ああ、次は洗濯物をたたまなきゃ」なんて、次にやるべきことを口に出して確認していることがあると思います。頭の中で処理しきれなかった思考が口から出ているだけなので、それ自体は、実は良いことなのです。

【ヒント③】成長していくとだんだん黙る

小塩先生:小学校に入るくらいになると、だんだん「ひとり言」を言わなくなります。それは頭で考えられるようになったり、思ったことをその場で言わずに頭の中に留めておくことができるようになったりと、脳が成長した証拠。

7~8歳のうちは、親が聞けば学校であったことなどを話してくれます。9~10歳くらいになると、自分が人にどう思われているのか、他者と自分を比較して考えられるようになります。さらに11~12歳になると認知処理が複雑になり、AさんはBさんをどう思っているのかというような、他人同士を比較して考えるように。

私も、実際に子育てをしている中で、小学校高学年くらいから子どもの人間関係が複雑になり、友達同士についての話題が増えたな、と感じました。

小学校高学年の子が、学校で起きたことを親に話さないのは、「自分が学校でこんなことになっていると親に話したら、親はどう思うんだろう」と考えているから。そしてそれを話すか話さないかも、自分で決められるようになったからです。

それは、親が悪かったり変わったりしたのではなく、子どもがちゃんと成長したという証拠なので、むしろ喜ばしいことなのです。

【ヒント④】噓も成長の証拠

小塩先生:「なにかあってもすぐに親に言わない」という行動、それ自体は悪いことではありません。発達によって獲得した能力で、言わないと子ども自身が考えて判断し、行動しているからです。

小学校高学年以上になると、「いじめ」が陰湿になったり、SNSやインターネットの世界で行われるようになったりします。それは、「人の目を気にする」という子どもの発達心理が背景にあります。つまり、他人の目を気にして、大人の目が届かないところでやるようになるのです。

周囲に知られまいと噓をつくのは、それだけ認知能力が発達したということ。ですから親は基本「見守り」の姿勢で、必要なときが来たら、すぐに手を差し伸べてあげましょう。

もっと子どもとコミュニケーションを取りたいと思ったら、親も接し方を変えてみましょう。

子どもはどんどん成長していくのに、親がいつまでも小さい頃と同じ扱いをしているなんて、昔からよくあるパターン。目の前の子どもの成長をよく見て、「こんなことができるようになったんだ」と気づけるようになると、親も変わることができると思います。

【結論】子どもの変化に慌てたりしないように、子どもの発達に関する知識を吸収しておこう。

「ひとり言」も「言わないこと」も、子どもの成長過程で起きる行動です。普段から、子どもの発達に関する知識を吸収しておくと、子どもに変化が起きたときに、「そういえば昔、なにかで読んだことがある」といったん心を落ち着けて、対応を考えるヒントになるでしょう。

また子ども自身も、「なぜイライラするのかわからない」とか、「友達がなにを考えているのかわからない」と悩んだ場合も、心理学の知識がヒントになります。モヤモヤしたとき「それはこういう心理なんだ!」と理由がわかれば、ちょっぴり心が軽くなるかもしれません。

【今回の心理学のヒント】#ライフサイクル #発達

小さいときにひとり言を発しながらたくさん考えたから、頭の中で考えることができるようになる。心の発達の段階・ライフサイクルを知っておくと、生きるのがちょっと楽になるはず。(画像:書籍『こども心理学』より)

子育てがちょっとラクになる「こども心理学」連載

「イヤイヤ期」をラクに 〔こども心理学・第1回〕

子どもの「やる気」 〔こども心理学・第2回〕

子どもの「いじめ」 〔こども心理学・第3回〕

子どもを比較しない思考術 〔こども心理学・第4回〕

子どもの習い事 続ける・続けない 〔こども心理学・第5回〕

こども心理学

イラスト学問図鑑 こども心理学(監修:小塩真司)

\一生モノの教養が身につく!/
人に自慢し、明日から使いたくなる学問図鑑。

これ1冊にこどもから大人まで、正解のない時代に役に立つ心理学の知識が盛りだくさん。心理学の有名な実験やテーマが短い文章とくすりと笑えるイラストで楽しく学べる。暗記ってどうすればできる? やる気の出し方って? 理想の自分になるには? 心が分かれば生き方もコミュニケーションもうまくなる!

〈小学上級・中学から・すべての漢字にふりがなつき〉

おしお あつし

小塩 真司

Atsushi Oshio
心理学者

1972年生まれ。名古屋大学教育学部卒業、同大学院教育学研究博士課程前期課程・後期課程修了。博士(教育心理学)。中部大学人文学部講師、助教授、准教授を経て、2012年4月より早稲田大学文学学術院准教授、2014年4月より教授。専門は発達心理学、パーソナリティ心理学。

1972年生まれ。名古屋大学教育学部卒業、同大学院教育学研究博士課程前期課程・後期課程修了。博士(教育心理学)。中部大学人文学部講師、助教授、准教授を経て、2012年4月より早稲田大学文学学術院准教授、2014年4月より教授。専門は発達心理学、パーソナリティ心理学。

なかむら みなこ

中村 美奈子

Minako Nakamura
ライター

漫画、アニメ、映画、ゲーム、アイドルなど幅広いエンターテインメントジャンルで記事を書いているライター。漫画家や声優、役者、監督、クリエイターなど、これまでに200名以上へのインタビューを経験。

漫画、アニメ、映画、ゲーム、アイドルなど幅広いエンターテインメントジャンルで記事を書いているライター。漫画家や声優、役者、監督、クリエイターなど、これまでに200名以上へのインタビューを経験。