「子どもを比較」しないで済む「親の思考術」 発達心理学の専門家が解説

子育てがちょっとラクになる「こども心理学」小塩真司先生インタビュー #4

ライター:中村 美奈子

▲人と比べて優劣をつけてしまう心理に、どう向き合えば良い?(写真:アフロ)
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子育てで一度は感じる「あの子はできているのに、うちの子はできない」という悩み。その悩み、心理学を知ると「悩まずに、やれることをやってみよう」へと変換することができます。教えてくれるのは、発達心理学の専門家で書籍『こども心理学』の監修もつとめる小塩真司先生(早稲田大学教授)。

心理学は、目には見えない“こころ”を、科学を使って明らかにする学問。心理学で“こころ”の働きのパターンを知ると、生きるのがちょっぴり楽になります。

小塩真司(おしお・あつし)早稲田大学文学学術院教授。専門は発達心理学、パーソナリティ心理学。

【お悩み】自分の子とよその子を比べて「うちはできていない」と焦りを感じますが、どうしたらいいですか?

【ヒント①】良く見えているだけで本当は違うかも?

見た目や印象は大切だけど、人間それだけじゃ判断できない。(画像:書籍『こども心理学』より)

小塩先生:人と比べて優劣をつけてしまう心理は、昔から人間にあるもの。そんなとき、昔の人は「かけがえのない我が子だから(人と比べてもしかたがない)」という言い方をしたものです。

インターネットがない時代でもそうなのですから、いつでもどこでも世界中の人の様子がわかるSNSが発達した現代では、比較すること自体が避けられないことでしょう。最近の研究では、SNSを使えば使うほど気持ちが落ち込みやすくなる、自己肯定感が低くなるという結果も出ています。

でも他人の子と四六時中いっしょにいるわけでもないし、SNSの投稿内容は、その人のほんの一部分のことだけ。あなたはいったい、何を比較しているのでしょうか?

比較の観点はたくさんあります。勉強はできないけれど、走るのがめちゃくちゃ速い。運動は苦手だけど、歌がすごくじょうず。誰が何と言おうと、自分の子がかわいい(←これが最強)。まずは自分が「どんな観点で比較をしているのか」を認識するのが大事です。完全に優れている、完全に劣っているものなんて、世の中にはないのです。

【ヒント②】「優れているとなにが良いのか」をトコトン突き詰める

小塩先生:人と比べて優れているとなぜ良いのか、逆に何が悪いのか、トコトン突き詰めて考えることも大事です。よその子と比べてうちの子ができないと思う理由はなにか。なぜそれで焦りを感じるのか。自分の価値基準や判断基準は、それで良いのか悪いのか。

例えば、勉強ができるとなぜ良いのでしょうか? 「偏差値の高い学校に行くためだ」というなら、「なぜ偏差値が高い学校に行かなければいけないのか」というふうに、新しい疑問が生まれますよね。「偏差値が高い学校に行けば、良い企業に就職できるから」という答えなら、「なぜ良い企業に就職しなければいけないのか」。「良い企業に就職すると、高い給料がもらえるから」という答えなら、「なぜ高い給料をもらう必要があるのか」……と、延々と問答が続きます。

実際に、子どもから問い返された経験がある方もいらっしゃると思います。そのとき、あなたは子どもが納得できるような答えを返すことができましたか?

心理学は哲学から生まれた学問なので、こういった哲学的な議論があります。ちなみに、こういった問いには、誰もが納得する正解はありません。答えがなくても、いっしょに話して考えること自体に意味があるのです。

【ヒント③】どんな社会でもステータスゲームで成り立っている

小塩先生:現在の社会は、生まれながらに地位や役割が定まってはいません。そのために、何かしらの能力や学力などの指標で上限を決めて、その評価によってステータスが決まっていく、ヒエラルキー社会になっています。私たちは、高収入であることが上位ステータスになり、幸せに繫がるという、共通の見解ができている社会の中で生きているのです。

究極的には、自分の価値基準をどこに置くかで、人生の幸福度は変わります。ステータスゲームを勝ち抜き、もっと上に行こうという気持ちが芽生えるかもしれません。逆に競走からドロップアウトする人もいれば、競争者がまったくいない分野を見つけて、第一人者になることもあります。

YouTubeだって、競争相手が少なかった最初のころに始めた人が、今になって祭り上げられている部分があります。プロゲーマーも、最初は遊びとして捉えられていたのに、その道を追求していたら、いつの間にか世間の評価が変わった。

世の中、先のことはわかりません。おそらく死ぬ間際になって「いい人生だったな」と思えたら、それが一番だと思います。

【結論】いろんな比較観点を持って、自分が幸せだと感じる基準を探していこう。

見た目、優しさ、学力、身体能力、歌、ダンスなど、自分と他人を比べる観点は無数にあります。その中のいくつかが他人より勝っていたとしても、人間として優れているわけではありませんし、逆に勝っている部分がないから劣っているわけでもありません。一部分だけに注目して優劣をつけるのではなく、より多くの比較観点を見つけて、子どもの良いところを発見できたらいいですね。

【今回の心理学のヒント】#ハロー効果 #エドワード・ソーンダイク

良い意味でも悪い意味でも、「思い込みの強さ」が判断基準を鈍らせてしまいます。自分の判断を疑い、一度立ち止まって考えるのが大切。(画像:書籍『こども心理学』より)

子育てがちょっとラクになる「こども心理学」連載

「イヤイヤ期」をラクに 〔こども心理学・第1回〕

子どもの「やる気」 〔こども心理学・第2回〕

子どもの「いじめ」 〔こども心理学・第3回〕

子どもの習い事 続ける・続けない 〔こども心理学・第5回

子どもの「ひとり言と嘘」 〔こども心理学・第6回〕

こども心理学

イラスト学問図鑑 こども心理学(監修:小塩真司)

\一生モノの教養が身につく!/
人に自慢し、明日から使いたくなる学問図鑑。

これ1冊にこどもから大人まで、正解のない時代に役に立つ心理学の知識が盛りだくさん。心理学の有名な実験やテーマが短い文章とくすりと笑えるイラストで楽しく学べる。暗記ってどうすればできる? やる気の出し方って? 理想の自分になるには? 心が分かれば生き方もコミュニケーションもうまくなる!

〈小学上級・中学から・すべての漢字にふりがなつき〉

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おしお あつし

小塩 真司

Atsushi Oshio
心理学者

1972年生まれ。名古屋大学教育学部卒業、同大学院教育学研究博士課程前期課程・後期課程修了。博士(教育心理学)。中部大学人文学部講師、助教授、准教授を経て、2012年4月より早稲田大学文学学術院准教授、2014年4月より教授。専門は発達心理学、パーソナリティ心理学。

1972年生まれ。名古屋大学教育学部卒業、同大学院教育学研究博士課程前期課程・後期課程修了。博士(教育心理学)。中部大学人文学部講師、助教授、准教授を経て、2012年4月より早稲田大学文学学術院准教授、2014年4月より教授。専門は発達心理学、パーソナリティ心理学。

なかむら みなこ

中村 美奈子

Minako Nakamura
ライター

漫画、アニメ、映画、ゲーム、アイドルなど幅広いエンターテインメントジャンルで記事を書いているライター。漫画家や声優、役者、監督、クリエイターなど、これまでに200名以上へのインタビューを経験。

漫画、アニメ、映画、ゲーム、アイドルなど幅広いエンターテインメントジャンルで記事を書いているライター。漫画家や声優、役者、監督、クリエイターなど、これまでに200名以上へのインタビューを経験。